テラーノベル
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「ちょっとおおおお、まだあたしのカラオケが終わってないわよおおお」
オーナーがカラオケしましょうと、古いボックス型のカラオケマシーンをカウンターの奥から持ってきたまでは良かった。
その後、ショットガンを辻さんと交互に飲みだして酔ったオーナーはマイクを離さず、しかも帰らせてくれない。
「飲食代タダにしてあげるから、あたしの曲を聴いていきなさいよ」
「お金は払うよ~。ママの低くて野太い声も大好きだよ」
辻さんと牧さんで宥めつつ、美香さんと私で勝手にカウンターに入って水を用意して気づけばなかなか遅い時間になっていた。
「終電大丈夫?」
「うう。ちょっと危ないです」
「でも今、一人で帰るのは、華怜にはちょっと危ないよね。酔っ払いがうようよしてるしい」
「いえ、雨でなかったら大丈夫――」
そう伝えようとした瞬間、時間を確認して取り出していた携帯が震えた。
相手の名前は『南城一矢』 だ。
「すみません、電話が」
「いいよ。ついでにタクシー呼んでおきな」
「はい」
「良かったね」
良かったね?
水を乗せたお盆をもってオーナーの方へ向かう美香さん。
その良かったねは、きっと『男性恐怖症克服したじゃん』って意味だったと思う。
なのに、携帯画面を見た瞬間に言われたから少し驚いてしまった。
美香さんには相手の名前が見えていないのに。
「もしもし……」
『もしもし、俺だけど今、どこ?』
「あ、終電で帰ります」
一応心配して電話くれたのかな?
電話は家にいる時よりも相手の感情が見えなくて苦戦する。
「ちょっと、ビールよ。ビール持って来て」
「ママー、飲みすぎだって」
「ああん? 舌入れてちゅーずんぞ、ごらああ!」
「……」
『……』
はっきりとオーナーの野太い声が電話越しに聞こえたと思う。
向こうの彼から反応がない。
「……えっと」
「どこ? 迎えに行く」
「地球のどこかです」
『……華怜』
迎えにいくよって言われて、素直に言えるわけない。
だって仕事終わって家にいるんでしょ。
朝食は一緒に食べるけど、夜は私が先に眠っていてすれ違ってるのに。
一番に理由は、いつもの柔らかい声が低く怖い気がしたこと。
「大丈夫です。タクシーを使えばすぐに」
「駅前の美味しいピザとパスタが食べれるお店だよ」
「辻さん!」
屈んで受話器に向かって大声で言われ、次の瞬間、電話は切られてしまった。
やばい。一応は婚約? いや婚約未満? 半強制的に旦那になる相手なのに。
「あの、駅まで帰ります」
「BARって言ったら機嫌悪くなるだろうし、一階のパスタ屋の名前を出しときなよ」
「……はあ」
この人っていい人なのかな。悪い人なのかな。
もっとねっとりした視線の時の方が、何を考えているのか分かった分、警戒できたのに。
今は何を考えているのか全く理解できない。
「信用しなくていいんだよ、男なんて」
おまけにエスパーだ。
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砂原 紗藍
#再会