非番の日はお茶会の日(1)
「日比野カフカ、亜白隊長の命令により参上しました」
ピシッと敬礼をしながら言う。目の前にいる彼女、第3部隊隊長の亜白ミナは敬礼したままの日比野を数秒間見つめてからふぅ、と息をついて口元を緩めた。
「…もう肩の力抜いてもいいよ、カフカ君」
亜白のその言葉を聞いた途端、日比野は眉を八の字に下げてへにゃりと笑う。
「わりぃミナ。まだ慣れねぇわ…」
「大丈夫だよ、カフカ君」
亜白は慣れた手つきで綺麗に片付けられた机の上にカチャリと音を立ててティーセットを置いた。それを見た日比野はあたふたと紙袋を取り出して机の上に置く。
「これ…俺が作ったんだけど」
「カフカ君が?」
「おう!紅茶にどうかなって」
「嬉しい…!ありがとう、カフカ君」
いつも無表情なイメージのある亜白だが、自分の好きな猫のぬいぐるみが取れた時のよう に心を許した者には気が抜けるのだろう、実際に日比野を前に話している時は優しい顔をして笑っている。
「一応味は確認はした …ただ… ミナに合うかは分かんねぇから持ってこようか迷ったけど…ってもう食ってんじゃねーか?!」
日比野がうじうじと言っている間に亜白は紙袋から茶色のクッキーを一枚取り出し一口齧っていた。数回噛んでからそれは亜白の喉を通って行った。
「…味、大丈夫そうか?」
日比野が不安そうな顔をして亜白の顔を覗き込む。
「うん、おいしい」
「!よかったぁ」
亜白の嬉しそうな顔を見て日比野は安心しニカッと笑った。
日比野が非番の日、2人はお茶会を開いている。そうするようになった経緯は怪獣出現やや資料作成の色々でやつれた亜白を日比野が目撃してから始まった…。
◆◇◆◇
その日の亜白はイライラしていた。
「…はぁ、なんでこんなにしているのに資料の束は減らないんだ…」
一片付けると五増える仕事に対し亜白はよく溜息を吐いていた。睡眠時間が満足に取ることができない環境に亜白は目の前にある資料を睨みつける。
コンコン
「…入れ」
「失礼しますミ…亜白隊長……?!」
控えめな音で扉をノックした人物は日比野カフカだった。日比野は呼び方を直しながら亜白の顔を見て表情を青くさせる。
「だ、大丈夫ですか?!その顔っ!」
「…問題ない…それより、はやく、要件、を…」
そう言った亜白の目には光がなかった。日比野は怒ったように眉を寄せるとズンズンと大股で歩き亜白を見下ろす。
「…?」
「たまには息抜きしないとダメだぞミナ!」
「!!」
「こんなに濃い隈作って…まともに寝れてないのか??」
「カフカ、くん?」
「ちょっと待っててな、ミナ!」
嵐のように去っていった日比野を亜白はぽかんとした顔で見送った。
(カフカ君…怒ってた?)
数十分後コンコンとノックが聞こえ返事をしようとしたがその前に扉が開いた。入ってきたのは日比野で手にはカップが握られており、亜白の前まで行くとカップを差し出した。
「これ、カモミールティー」
「ぇ……カフカ君が淹れたの?」
「ああ、カモミールティーには気分を落ち着かせてリラックスできる効果があるんだってよ!」
「…誰かに教えてもらったの?」
「この前キコルにちょっとな… 教えてもらった通りにはできたんだろうけど、初めて淹れたから美味いかわかんねぇ …」
「…そっか」
日比野の淹れた紅茶を飲む人間第一号が亜白だという事実に自然と 口角が上がる。
「さ、温かいうちに飲めよ」
「うん…ありがとう、カフカ君」
先程から甘く優しい香りがするカップを手に取りこくんと飲む。
「!」
とても飲みやすい。熱すぎずぬるすぎず丁度いい温度を保っており自然と体がぽかぽかした。
「…おいしい」
「お!マジか!」
よかったー!と笑う日比野を見ながらちびちびと温かな紅茶を飲んでいく。
◆◇◆◇
「今日はありがとうカフカ君」
「おう!また飲みたくなったら言ってくれよな!」
「うん」
「じゃ、俺はこれにて失礼…」
「あ、カフカ君」
「ん?」
「カフカ君の要件って…」
「…ああ!もう終わったから大丈夫だ!」
「え?」
「俺がここに来たのは調理場を借りてもいいか聞くためだったんだよ、キコルに紅茶のこと色々聞いた時、ミナ達に作りたいって思ってさ!そのためには調理場を借りなきゃいけないだろ?だから許可貰うために来たって感じだな」
「…」
「でも今日は調理場の人に許可もらって作らせてもらったから終わったな」
「…カフカ君」
「ん?どうした?」
「君が非番の日、私がここに呼ぶから……お茶会…しない?」
「…」
「…これは、カフカ君がいいな「いいな!お茶会!」えっ」
「いいの?」
「ああ!俺もミナに話したいことすげーあるし!」
「…私も、カフカ君と沢山話をしたい」
「なら決まりだな!」
「うん、ティーセットは私の方で用意しておくからカフカ君は紅茶を淹れてほしいんだけど…いいかな?」
「おう!」
そんな会話から、日比野が非番の日はお茶会の日と決まった。
◇◆◇◆
そして現在…
「ん、色んな味があるんだね」
「そうなんだよ!」
「これは…シナモンの味がするね」
「よく気づいたな!」
「ふふ、全部美味しい」
今の隊長室にはほっこりとした空気が漂っている。
───そんな時だった
「何やら楽しそうなことしてはりますなぁ。お二人サン?」
「「!!?」」
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