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闇を切り裂く一弾が合図だった。
直後、倉庫の窓ガラスが四方八方から同時に砕け散り、無数のきらめく破片がダイヤモンドの雨となって降り注ぐ。
闇の中に潜んでいた死の予兆――
無数の赤いドットが、獲物を探す毒蛇のように俺の胸元や眉間を這い回る。
「志摩、下がれッ!」
俺は志摩の襟首を掴み、ひっくり返した大型の業務用冷蔵庫の影へと滑り込んだ。
直後、鋼鉄の塊を叩く凄まじい銃声が鼓膜を蹂躙する。
火花が散り、跳ね返った弾丸が耳元で「ヒュン」という嫌な音を立てて空気を削った。
「数は十……いや、三十は下らねえな。ありゃあ本気で俺たちを挽肉にする気だぞ」
志摩がサブマシンガンを応射しながら伝えてき、跳ね返った弾丸が耳元で嫌な音を立てて跳ねた。
「あぁ、親父の焦りが見える…それだけ、俺たちが握ったネタがデカいって証拠だ」
俺は懐から予備のマガジンを引き抜き、血の通わない機械的な動作で拳銃に叩き込んだ。
冷たい金属の感触が、高ぶる神経を無理やり鎮める。
普通の組員なら、これだけの銃声が響けば警察の介入を恐れて腰が引けるはずだ。
だが、外にいる奴らの動きには一切の躊躇がない。
中臣代議士という絶対的な権力の「消しゴム」がある以上
この一帯は法も秩序も届かない、完全なる『治外法権』の戦場と化していた。
「志摩、ここを突破して『黒い犬』へ向かうぞ。久保田を連れて行く余裕はねえ」
「分かってる。奴には発信機を飲み込ませた。生きてりゃ後で回収できるさ。今は俺たちが生き抜くことが先決だ」
俺は床に転がっていたガソリン携行缶に目をつけた。
「……少しばかり、火遊びの時間だ」
俺は遮蔽物から身を乗り出し、携行缶のキャップを蹴り飛ばした。
中身の生臭い液体が、波紋を描いて床一面にぶちまけられる。
志摩が俺の意図を瞬時に察し、天井を走る防火スプリンクラーの配管を銃撃して叩き折った。
降り注ぐ大量の水と、床に広がる油。
俺は使い古したジッポライターを親指で弾き
灯った小さな火を見つめた後、それを無慈悲に水溜りへと放り投げた。
「伏せろッ!」
爆発的な火柱が、轟音と共に天井を突き破らんばかりに立ち上がった。
水に浮いたガソリンが爆発的に燃え広がり、倉庫内は一瞬にして白煙と黒煙が入り混じる混沌の坩堝と化す。
赤外線レーザーサイトの光が煙に乱反射し、敵たちが視界を奪われ、右往左往する気配が伝わってきた。
「今だ、裏口から抜けるぞ!」
俺たちは煙の中を疾走した。
肺を刺す熱気を無視し、ただ出口だけを見据える。
武器を温存するため、進路を遮る敵がいれば銃は使わない。
肉のぶつかる衝撃を厭わず、肩から体当たりで敵を壁に叩きつけ、最短距離を強引に切り拓く。
裏口の重い鉄扉を蹴り開けると、冷たい夜気が肺に流れ込んできた。
だが、そこには案の定
退路を断つために回り込んでいた二人の男が待ち構えていた。
「黒嵜……逃げれると思うな」
その一人は、松田だった。
かつての家族。
俺の背中を追っていたはずの男が、今は震える手で銃口をこちらに向けている。
「松田。お前じゃ俺は殺せねえ。……死にたくなきゃ、道開けろ」
俺が放った剥き出しの殺気に、松田の足がわずかに退いた。
そのコンマ数秒の隙を、俺の体が本能的に捉える。
踏み込みと同時に、奴の顎を掌底で垂直に突き上げた。
脳を揺さぶられた松田が、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
もう一人を志摩が鋭い格闘戦で沈め
俺たちは闇の中に潜ませていた排気量1000ccの大型バイクに飛び乗った。
「掴まってろ」
エンジンが猛獣のような咆哮を上げ、タイヤが地面を削る。
俺たちは火の海と化した倉庫を背に、真実が眠る始まりの場所、『黒い犬』の路地裏へと加速した。
背後で巨大な爆発音が響き、夜空が禍々しい赤色に染まる。
俺が背負った極道という名の業が、街を焼き、人を壊し、すべてを灰に変えていく。
だが、止まるわけにはいかない。
この復讐の火が消える前に、すべての因縁に決着をつける。
それだけが、俺に残された唯一の生存理由だった。