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第33話 〚運動会当日、崩れる均衡〛
朝の校庭は、
いつもと違う空気に包まれていた。
テント。
スピーカー。
色とりどりのはちまき。
ざわざわとした声の中で、
澪は赤組の列に並んでいた。
(人、多い……)
無意識に、
周りを見渡す。
――いた。
少し離れた場所。
白組の列の後方で、
恒一がこちらを見ている。
目が合った瞬間、
胸がひくりと跳ねた。
(……来た)
その視線を、
横から遮る影。
「澪」
海翔だった。
「大丈夫?」
「気分悪くない?」
澪は、
小さく首を振る。
「……うん」
海翔は、
自然な動きで澪の隣に立つ。
距離は近いけど、
押しつけがましくない。
それだけで、
心が落ち着く。
「次、大玉転がしだな」
「一緒の列だから、離れんなよ」
「……うん」
競技開始の笛。
大玉が転がり始め、
校庭が一気に盛り上がる。
「せーの!」
声を合わせて、
澪も全力で走った。
風を切る感覚。
地面を蹴る音。
――その瞬間。
(……あ)
頭の奥が、
きりっと痛んだ。
赤いはちまき。
転がる大玉。
人の影。
予知の断片が、
現実と重なる。
(今……)
視界の端で、
恒一が動いた。
人の流れに紛れて、
少しずつ近づいてくる。
(やだ……!)
「澪!」
海翔の声。
次の瞬間、
澪の手首が、ぐっと引かれた。
でも――
それは恒一じゃない。
海翔だった。
「こっち!」
大玉が転がる方向から、
澪を引き寄せる。
次の瞬間、
大玉が進路を外れ、
さっきまで澪がいた場所を通過した。
「……っ」
周囲が、
どっとざわつく。
「危なっ」
「今の見た?」
澪は、
息を詰めたまま立ち尽くす。
(……予知)
(当たった)
でも、
一番怖い形じゃなかった。
海翔が、
前に立っている。
「大丈夫か?」
「怪我ない?」
澪は、
ゆっくり頷いた。
「……ありがとう」
その二人を、
遠くから見ている視線。
恒一だった。
拳を、
強く握りしめている。
(また……)
(また、邪魔される)
嫉妬と執着が、
胸の奥で渦を巻く。
でも――
周りには人が多すぎる。
教師の目。
生徒の声。
(……今じゃない)
恒一は、
視線を逸らした。
その様子を、
見逃していない三人。
えまが、
小さく眉をひそめる。
「……ねえ、今の見た?」
しおりが、
静かに頷く。
「うん。あの目、普通じゃない」
みさとは、
冗談めかした声を出そうとして、
やめた。
「……やっぱ、やばいね」
競技は、
そのまま続行された。
表向きは、
何事もなかったように。
でも――
均衡は、確実に崩れ始めていた。
澪は、
海翔の背中を見つめながら思う。
(……次は)
(もっとはっきり、来る)
胸の奥に、
不安と決意が同時に灯った。
運動会は、
まだ終わらない。