いつもの面々が集合時間の9時に目掛けて揃っていく頃。いつも、ガヤガヤと雑談がうるさいほど騒がしい会議室も、今日は少し雰囲気が違った。
そう、なぜなら___。
「……ねぇ、あれどおしちゃったわけ?」
「俺に聞かれても知るかよ」
「はぁ?そんな言い方ないでしょ」
「分かんねぇんだから仕方ねぇだろ!」
「いつも、アイツの事なら全部知ってますよ、みたいな口きいてるお前がねぇ」
「あ?んか言ったかクソ髭」
「お前ら落ち着け。もう面倒事を増やしてくれるな、」
「ドイツ、大丈夫?」
「でも珍しいね。あんな彼を見た事ないよ。障子を毎回破って入ってきても大丈夫だったのに」
「それ相当ストレスだぞ」
「ワンチャンそれじゃない?」
「え!怖いこと言わないでくれよおっさん達、」
「おっさんで悪かったな、おっさんで」
「ほんと、どおしちゃったんだろーね、今日の日本……」
Japanというプレートが置かれた席には、腕を組み、不機嫌そうな顔を浮かべている彼が腰をかけていた。ご機嫌斜めなんて可愛らしい言葉じゃ言い表せないそれは、背中にも不機嫌さがにじみ出ていた。怒りを抑えるかのようにトントンと人差し指を自分の腕につついているが、八ツ橋が破れたその顔にそれも意味はないだろう。
日本の雰囲気に察した国々がヒソヒソと喋り、なるべく日本を刺激しないように心掛けていた最中のこと、
ガタンッ__。
会議が始まる2分ほど前だろうか。だいたいが席に着いたその状態で扉が開き、全員の視線が自然と入り口へ向けられた。が、それを見るや否や、大半の国々が焦って顔を反らした。まぁそれもそのはず。
「……」
いつも大声に笑顔で入室してくる中国が無言+不機嫌な顔で入室してきたのだから。
いや絶対2人の仲になんかあったろ!!
おそらくその場にいた全員が思ったことであろう。
中国が入ってきた途端、日本の眉間にはシワが増し、苦虫を踏み潰したかのような表情へと変わった。会議室の雰囲気は最悪だ。
「よ、よし!じゃあ早速会議を始めようと思うんだけど、今日は気分転換に席替えでもしようじゃないか!!」
流石世界のムードメーカー。空気が読めないことで有名なあのアメリカも、流石に空気を読んだ。ナイスだアメリカ!珍しく名案を出すアメリカに反対意見を申し出る輩は誰一人としていなかった。
「いやまじおかしいって。え?もしかして今日厄日?」
「厄日なのはお前じゃなくてあの2人だろ、」
「もうしちゃったから仕方ないよね…」
「こんなはずじゃなかったんだぞ…」
場の雰囲気を和ませる為にした席替え。それは雰囲気をもっと重くするだけだった。
China。Japan。
2つのプレートは横に並んでいた。
「やばいよやばいよ、どおしよぉドイツぅ、!」
「こればっかりは、どおにもできん…」
「お前がなんとかしろよコノヤロー!」
「えぇ!無茶言わないでよ兄ちゃぁん、!」
「と、とととりあえず始めようか!会議!!うんそうしよう、そうするんだぞ!!!」
焦りが隠せないアメリカに、うんうんと日本と中国以外の国々全員が首を縦に振った。
このまま何事もなく終わればいいのだが…。
ドイツの胃は痛くなる一方だった。
「だから、んな非現実的な意見誰が賛成するんだよ」
「それはもちろん君達さ!」
「誰が賛成するか!」
なんとか会議はいつものペースを取り戻した。いつもなら2人の会話に呆れ帰っている国々だが、今日はその会話に安心している。いや、正確に言うと、安心しないのだが……。
ある国が当本人達の方に視線を向ける。
予想通り、2人の周辺には負のオーラが漂っていた。隣になったポーランドと香港に気の毒そうな視線が送られる。
「日本もそれでいいよね!」
それを見兼ねたアメリカが、今日初めて日本に声を掛けた。
「ええ。私もアメリカさんの意見でいいです」
あ、でも日本はちゃんと日本だ。
「うんうん流石日本だね!じゃあこれとあれとそれもやってくれるかい?」
何言ってんだよアメリカああああぁぁぁぁ!!!いつもの日本なら受け流してくれるだろうが、今回の日本は違うんだぞアメリカ!調子に乗るな!!
焦った表情で、アメリカに目でそう訴えかける国々。日本の隣にいたポーランドもそうだ。目の前に来たアメリカに、首と視線を日本からアメリカに…交互に向けながら察してアピールをしていた。
それでやっと事の重大さを理解したアメリカは、慌てて日本に謝ろうと口を開こうとすると、
「…………善処します、」
アメリカの口より先に、日本の口が回った。とりあえず怒ってはいないようだ。安心したのか、アメリカは肩の力を抜き、いつものように会議を進行しようと定位置に戻った時、ある国の微笑が聞こえた。
「はっ、ゼンショしますぅ笑」
頬杖をつきながら、年上さながらの態度で日本を小馬鹿にしたようなセリフを中国が呟く。それは、静まり返った会議室ではよく聞こえた。
「……何か言いたい事があるならハッキリ仰ったらどうですか?中国さん」
日本は笑顔でそう言うが目の奥が笑ってない。
「おめぇにだけは言われたくねぇあるな」
「じゃあハッキリ言いますねこの糞爺!!」
「てめぇコラ誰に口聞いてるあるかこんの糞爺!!」
「中国さんの方が糞爺ですぅ!」
激しい口喧嘩へと進んでいく2人に、口出しする国はなかなか現れなかった。見たこともない気迫で喧嘩する2人に、国々は唖然としていた。彼らの声だけが響く空気の中、ドイツが2人を仲裁しようと席を立つ。
「いい加減にせんかお前ら。今は会議中だぞ」
「……」
「……」
口喧嘩は止まり、少しの沈黙が流れる。
「……すいません。中国さんがつまらない事を言い出すものですから、私も釣られてしまいました。どうぞ、会議を続けて下さい」
「は?我のせいあるか?」
「当たり前ですよ。もしかして自覚してなかったんですか?」
「自覚がねぇのはお前ある。我はただ笑っただけなのに、それに突っかかって来るお前が原因あるよ」
「はぁ、これだから話が通じない老人は嫌いなんですよ、」
「お前も我と変わらないでしょうが!」
「2000歳差ですよ?変わらないは盛りすぎです」
「おめぇが爺って事が変わらないって言ってるあるよ。バカになったあるなぁ?認知症あるか?笑」
「………こんの糞爺、」
駄目だコイツら。喧嘩中口開いたら駄目なタイプだ。自慢の八ツ橋も粉々になった日本をニヨニヨと青筋を浮かべながら煽る中国の姿は兄弟喧嘩のそれだった。
「あーあ、あの爺達、あーなったら当分止んねぇな」
ギルベルトが知ったような口を利くのもそのはず。日本に色々教えてた時代、あの頃の中国は経済難でストレス抱えてたし、日本も反抗期だったし忙しかった訳で、結構な大喧嘩がしょっちゅう起こってたらしい。
昔の日本は可愛かったのに!
やら
昔から貴方は!
やら
プロイセンやオランダも、極東2人の大喧嘩の被害者だ。
「あれどうやったら止まるの、?」
「気が晴れるまで放置しか方法はないな!」
「兄貴、真面目に答えてくれ」
「俺様はいつだって大真面目だぜ?」
「ていうかゼンショって何あるか?無理なら無理ってはっきり断るよろし。大国にだけ八方美人になって媚びうって、まじ笑いモンね笑」
「媚とは心外ですね。私は皆さんと仲良くしてるだけなんですが。そう見えるなら貴方の世界はよっぽど小さいんですね。無駄に長生きしてるくせに同情します」
「小せぇのはお前の器あるよ。ちっちゃいことでカリカリしちゃってご自慢のポーカーフェイスもバラバラあるな」
「そんなダサ面被ってた覚えはありません」
「無自覚あるか?尚更同情するある笑」
「舐められたものです、今から貴方のフェイスもぐちゃぐちゃにしてあげましょうか?」
「やってみろよ青二才」
それを本気で受け取った中国……いや、日本も冗談で言った覚えはない。顔をボコボコにしようと、日本は中国に襲いかかろうとしており、中国は日本の腕を押さえて取っ組み合いになる。2人(本命は日本)を止めようと前に出たのはイギリスだ。
「お前らいい加減やめろよ!な?」
「イギリスさんは黙っててください!!」
「アヘンは黙ってるよろし!!!」
「……はい、」
が、相棒の1言でしょんぼりモードに入ってしまった。
「あっけねぇ〜」
「カッコ悪いんだぞ」
「誰か慰めに行ってあげなよ」
「絶対やだ」
「こんの、仙人の我に勝てると思ってるあるか、!」
「貴方こそっ、腰がいたくて仕方ないんじゃないですか、?」
「舐めんなある!」
「ていうか、なんであんなに仲が悪くなったんだい?いつも仲良くしてるじゃないか。中国が一方的にだけど」
よく聞いてくれた!!いつもはバラバラで意見が全く合わない国々だが、アメリカの今の疑問に誰もが頷いた。
「知ってる人いる?」
イタリアが呼びかけるが、皆首を傾げるだけ。どうやら誰も知らないようだ。
「ただ機嫌が悪かっただけじゃないの?」
「あー、ありえる、」
「えー?日本がそんな事であんな怒るかなー」
「溜まりに溜まったみたいなやつだろう。俺も経験がある…」
「ごめんねドイツぅ、」
「……誠意があるなら会議で寝るな」
「ヴェ〜それは無理かもぉ」
ガタンッ!
イタリア達の話し声を遮るほどの騒音が会議室に響いた。ビクッと体を跳ねた国々達が、騒音の聞こえた方を見る。椅子だったものが木板が、ボロボロで中国の前に散らばっていた。
「い、椅子がー!!」
「危ないですね、貴方がその気なら受けて立ちましょう!」
「望むところある!」
いやもうこれ仲直りしてるだろ。定番茶番みたいなセリフ言ってる暇あるったら椅子直せよ。
ただの戦いごっこのようなセリフにそんな事を思うが、喧嘩が始まればそんなツッコミも入れてる場合じゃないと焦った。周りにある椅子を枕投げかのようにビュンビュンと放り投げ、散々に壊していく。周りの国は避難しているから良かったものの、怪我をさせたら大事じゃ済まないだろう。
流石に焦り出した国々は真剣に解決策を考えようと、1000年に一度の協調を見せた。
「あ、あれどうするんだい!?気が晴れるまで放置してたら会議室がめちゃくちゃになっちゃうんだぞ!つまり!HEROの魅せ場も減っちゃうってことなんだぞ!」
「魅せ場かどうかは置いといて、流石にやばいね。あんな2人見たことないよ。爺だからって舐めちゃってた」
「まぁ君、一回日本にやられてるしね!」
「うふふ、アメリカ君も椅子でぺちゃんこにしちゃうよ?」
「今は揉めてる場合ではない!何かいい案がある奴はいないのか!」
「はいはーい!日本って美味しいものに目がないでしょ?パスタ作って気を紛らわせたらどうかなー?」
「そんな作ってる暇ねぇだろ。俺だ俺!!大英帝国様の魔法でなんとかしてやるよ!」
「君の魔法は宛にならないよ!前だって日本をチビにしたこと忘れたのかい?」
「あれは成功だろ!」
「結果的にだよね」
「過程もバッチリだばかぁ!!」
「もうやるからな!?いくぞ?いくぞ?!」
「おい待てイギリス!!そんな自己判断は、」
「うるせーじゃがいも野郎!!俺の魔法にケチつける奴は全員ばかぁだオラァ!!」
ほあた☆
「で、説明してもらおうか。お前ら」
「…恐れ入りますすいません、」
「……」
イギリスのほあた☆で動きを強制的に止められた2人は、ドイツの前に正座させられていた。見ての通り相当ご立腹な様子のドイツに、極東は顔を青くする。
「2人に何があったか、なるべく短く簡潔に述べろ」
「ええ、…はい……あの、…あれは、先日の事でした。久しぶりに中国家に伺い、世間話をしてたんです。それで、」
「中国さん?聞いてるんですか中国さん?」
「聞いてるあるよー」
「ちょっと、私のパクリキャラにばっか構ってないで、こっち向いてくださいよ。人とお話しする際は目を見て話すんですよ?」
「X利用者数、おめぇん家が1番多いのによくそんなこと言えるあるな笑」
「……」
「あ!あとおめぇまた変な漫画描いてたあるよな!?何描いたかにーにに見せるよろし!」
「…ほ、ほっといてくださいよ!中国さんの馬鹿!」
「ば、馬鹿とはなんあるか馬鹿とか!!」
「昔っっからそうですよね!変な世話焼きはもういらないんですよ!私はもう子供じゃないんです!」
「我からしてみればまだまだこーんなちっちぇ餓鬼あるよ!」
「知りませんよそんなこと!」
「外に出るぐらいなは死にますぅとか吐かしてたお前が餓鬼じゃないとか笑わせてくれるね笑」
「いつの話してるんですかこの老害!」
「老害じゃねぇある!ちょっと前の話あるよ!」
「やっぱ老害じゃないですかこのパクリ爺!」
「はいぷっちーん。もう我怒ったある!おめぇなんか一生口効かないあるからな!」
「どうぞご自由に!」
「……そんなつまらない事で貴重な世界会議を潰してくれるな!」
「……すいません」
「ふん、」
グイッ。
日本はそっぽを向いた中国の頭を無理矢理地に叩きつけた。
その後。無視する日本に耐えられなくなった中国は、日本と仲直りするために2頭のパンダぬいぐるみをあげたという。
これが日中平和友好条約の裏側だ。(ちがいます)
コメント
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がががさんが書く、やお菊って、すごいほっこりします。いつも読むと元気がでます。ありがとうございます。(長文失礼しました。)