日帝のあのピアス見てたら思いついたやつです。
⚠不穏⚠史実
何もかもが透き通っってしまいそうなほどの、十一月の静かな日。紅葉の葉は舞い落ち、冬にさしかかった頃だった。
「これやるよろし」
私の開国祝いのつもりなのか。縁側に2人で腰掛けていると、彼は綺麗に梱包された小包を私に差し出した。
「これは?」
「開けてみるよろし」
秋に似合う暖色がかった笑顔を向けられ、ゆっくりと小包を開けていく。箱を纏っていた包み紙を外し終えると、中からはさっきと同じサイズの木箱があらわになった。期待の眼差しを前に、木箱の蓋をゆっくりと開ける。すると、中身を見るなり私は目を丸くした。それを見た耀さんの表情はさらに緩んだ気がした。
「どうあるか?びっくりしたあるでしょ」
目いっぱいに映し出された箱の中身は装飾品だった。少し黒みがかった濃い赤の宝石が、雫状に耳飾りになっている。ただただ、虹のように輝いているのその宝石の光彩は、自身の目を照らした。
「アルマンディンガーネット、っていう珠宝ある。菊の開国祝いの特注品あるよ」
「……わざわざ、特注してくださったんですか?」
「もちろんある。ほら、この色、おめぇん家の日の丸にそっくりね」
耳飾りを指差しながら、彼は優しい視線を宝石に向ける。が、その視線は、思ったより早く自分に向けられた。
「つけてくれるあるか?」
年に似つかわないキラキラさせた目で期待を寄せる眼差しは、私に毒でしかなかった。
1800年以上生きて、自分で自分の身体を傷つけてきた場面はいくつもあった。いい例は切腹だ。あの時代は何回切ったかな。なんて、腹を切った事も笑い話かのようにあしらう自分だが、絶対やりたくないことが1つあった。
それは自身の体に穴を開けることだ。
切り傷はなんとも思わないくせに、自分の身体に穴が開く事に関しては不快感を抱かずにはいられなかった。しかも自分で開けるなんて。考えるだけでその感情が顔に出てしまいそうになる。
「……申し訳ありませんが、付けるのは…その…」
「?」
「どうしてあるか?きっと似合うよろし」
「いえ、そうではなくてですね。自身の身体に穴を開けるなんて事、できそうになくて」
「我が開けてやるよろし」
「穴を開ける事事態が不快なんです。開けるぐらいなら切腹します」
「あいやー…絶対切腹の方が痛いあるよ…」
引き気味に私の顔を覗き込みながら、なんとか付けてもらおうと、私を説得するように肯定の言葉を浴びせてくれた。が、その説得も私の心に響くことはなかった。
しゅん…。と、あからさまに落ち込んだ表情を見せる彼に、無意識に自分の眉が下がる。
「捨てるわけじゃないです。玄関に飾りたいので、一緒に置き場所考えましょ?」
子供をあやすかのような態度と口調で接っしてみたが、彼はご機嫌斜めのまま。鼻で溜め息を吐くと、彼の体が一瞬動いたような気がした。これはあまり効果的では無いのを察し、何を言えばいいのかも分からず、成す術もなくなった私は、彼が口を開くのを待つだけだった。
10分ぐらいは待とうと思っていたが中国さんの立ち直りは、自分が思っているより早くやってきた。
「仕方ないあるな、今回は大目に見てやるよろし、」
「あ、ありがとうございます、」
どう返せばいいか分からない彼の台詞に、とりあえずよく使う返答を選び口にした。さっきより眉間のシワが少なくなった彼は、私と視線を合わせたと思ったら、また直ぐに目を逸らし、縁側から立ち上がった。もう帰るんでしょうか。玄関方面に向かって歩く彼を見送ろうと、自分も重たい腰を起こしながら立ち上がる。縁側から居間へと足を踏み入れた時、彼の足が止まった。
「その代わり、約束するよろし」
「ぜってー毎日その耳飾り見るあるよ」
私に背を向けていた彼の視線は、いつの間にか自分に移っていた。「その耳飾りは我だと思って接するよろし!」と、言い聞かせるようにこちらを指差す仕草に、つい安心の溜め息が鼻からでる。子供のようなわがままを言う彼に、くすくすと手を口に近づけながら笑うと、「我は真面目ある」なんて、少し怒った口調で言われるものだから更に笑みが溢れる。「すいません」と、あまり意味が乗ってない返答をすると、彼は頬を膨らませた。
「ほら、いいから玄関行くあるよ!1番目につくとこに飾ってやるよろし!」
「ふふ、ありがとうございます」
秋の寒さなんか感じないほど、そこは温かさで包みこまれていたような気がした。
何年ぶりだろうか。泥だらけになった靴を玄関の端に寄せ、久しぶりの素足で家にあがった。顔を上げるとふと目に入ったのは、いつかの耳飾りだった。いや、ふとなんかではない。これは意図的に私達がここに飾ったものだった。だが、その意図は醜い現実の前では果たすどころか、心の傷をえぐるモノへと変わってしまった。目の前に飾られたそれを見るだけで頭に耳鳴りな響き、悪い夢がフラッシュバックする。夢。これは夢。そう言い聞かせないと気が動転してしまいそうだった。
『どうせなら玄関の真ん前がいいある』
『それでしたら、額縁用の穴を開けなくては。手伝ってくれますか?』
『あったりめぇある!にーに に任せるよろし!』
居ないはずの彼と、見えないはずの自分の姿が目に映し出され、さらに頭を刺激する。耳鳴りも酷くなる一方で、下を向きながら頭を押さえ込んだ。
「…ごめんなさい……ごめんなさい……」
幻覚が見えているようじゃ、自分はもう駄目なのかもしれない。罪悪感やら嫌悪感で涙が溢れかえった。落ちた涙は、木造の床の色を変えていき、赤で汚された自身の軍服を濡らした。体から力が抜けて座り込むが、慰めてくれる人などいるわけもなく、ただただ菊の啜り泣く声だけが玄関に響いていた。
「はじめまして、イギリスさん。わざわざ遠い欧米から来てくださるなんて」
「いいって。俺だって、同じ島国の化身を一目見てみたくてだな、」
「あ、いや、別にお前に会いたかったってわけじゃないぞ!?どんなヤツなのか偵察にだな、!」
「ふふ、イギリスさんは面白いですね」
「……バカにしてるだろ…」
「いえ。とても素敵な性格だと思いますよ」
あれから約100年。初めて英国の化身、イギリスさんと対談した。はじめは政治上だけ仲良くしていこうと思っていたが、こうも面白い人だとすぐに心が打ち解けた。
「そういえば、こっちでは何が流行ってんだ?良かったら聞かせてくれ」
「うーん……そうですね……最近は路面電車が通りまして。わざわざ歩かなくても目的地まで行けるようになりました」
「それ、流行りとはなんか違うねぇか?笑」
「そ、そうでしたね。イギリスさんのところはもう沢山通ってるんでした、」
「んじゃ、日本の中で流行ってることとかはないのか?」
「日本って……私のことですか?」
「ん、そう」
「私の中で、ですか…」
「あ、流行りとは違いますが、毎日鏡で自分を見るようにしています」
「見た目によらず、自信たっぷりなんだな笑」
「あ、別に自惚れてるとかじゃなくてですね、!」
「わーってるよ」
そんな他愛もない話を続け、出した茶が底を覗かせた頃。彼は私の方を見るや否や、目をぱちくりさせ、口を開いた。
「綺麗なピアスだな。よく似合ってる」
私の耳にぶら下がったアルマンディンガーネットの耳飾りを、見慣れた素振りで見つめる彼に、持っていた湯呑みを口から下げ、私は微笑みながら言った。
「ええ。お気に入りなんです」
コメント
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本日の議題 なぜピアス一つでここまで書けるのか
やっぱりがががさんの短編集好きです‼︎ピアス付けたんですね!あれ日帝も…
付けてる...ピアス付けてる...!?中国から貰ったピアス...!?え...て、天才ですか...?文才欲しい...(奪おうとするな)