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鷹野は東京テロ以降、睡眠薬無しでは眠れなくなっていた。毎晩悪夢にうなされ、朝は嘔吐から始まり、心療内科に通う日々が続いた。
結果はPDSE、急性ストレス障害であった。
睡眠薬の量は日に日に増え、見かねたマリの忠告がキッカケで、口喧嘩も増えていった。
そんな中での結婚式は、半ば無理やりに日取りを決めたもので、全てはマリが計画した。
キッカケになるライフイベントで、何かが変わるかもしれないと期待したのだ。
マリは、隣でスヤスヤ眠る鷹野の頭を撫でながら誓った。
「私が守るからね」
アルコールが入った鷹野はこの日、睡眠薬を飲まずに眠りに落ちた。
心穏やかなひと時を過ごせた気持ちのまま、睡眠出来るのは久方ぶりだった。
ふたりで裸で抱き合って、やさしさに溺れながら目を閉じる。
違う世界に迷い込む感覚に、意識は混濁していく。
暗闇に落下する女の裸体。
血の色に似た唇。
ライフルの銃口からのぼる火薬の臭い。
落下する女の裸体は、いつの間にか骨だけとなって、次の瞬間跡形もなく焼失した。
鷹野は、悲鳴を上げて飛び起きた。
部屋の隅にある時計が、カチカチと時を奏でている。
間接照明の灯りが、ひまわりのタペストリーを幻想的に映し出す。
カウチソファーにちょこんと座る、テディベアのつぶらな瞳。
それは、マリがクリスマスに買ったものだった。
鷹野は、額から落ちる汗を舐めて、現実に戻ったのを理解しようともがき苦しんだ。
ここは紛れも無く、我が家の寝室なのだ。
隣で眠るマリは、スースーと寝息をたてている。
その紅潮した頬は、今夜の幸せを共に感じられた証。
栗色の髪の毛が、ベッドの白いシーツに模様を描いている。
湖畔の水面に似た色彩は、美しく艶やかだった。
時間が経つにつれて、動悸は治まっていった。
再び仰向けになってぼんやりと天井を眺めていると、マリが寝返りをうって、華奢な腕が鷹野の胸に絡んだ。
ふと顔を背ける。
時計の針は、3時を過ぎていた。
「どうかしている」
鷹野は気を紛らわそうと、充電したままのスマホに手をかけた。
画面をタップして、消音に設定した後に動画アプリを起動する。
路面電車の映像は、理由は判らないが眠気を誘発させてくれるお気に入りのコンテンツになっていた。
その下のPR広告にふと目が止まる。
「あなたにピッタリの最新情報」
その一文が、鷹野の心に染み込んでいく。
「東京は死んだ…共に世界を変えてみないか? 私達ならばそれが出来る。救いきれない灯火の末路など、私達は目にしたくは無い! 差別、貧困、腐敗、敵から身を守る最期の砦は防衛力だ! 共にゼロからはじめよう。ー東京 サイケデリック クリエイターズ ー 代表 上念 フィッツジェラルド 海斗」
鷹野は、自然と会員登録のボタンを押していた。