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今の所、大罪っぽい邪悪さは一度も感じられなかった?
私と同じ感想をコユキも抱いたのであろう、ラストのピザに口を付けつつ、横で直立して控えているアセディアに対して声を掛ける。
「にしても、アンタって凄く良く働くわね、感心しちゃったわよ! なのに何で『怠惰(たいだ)』な訳?」
うん、確かにこんだけ一所懸命に働いていて『怠惰』は違和感、つーかバグにしか思え無いよね。
アセディアは僅か(わずか)にだが、恥ずかしそうな表情を浮かべながら答えた。
「お褒め頂きまして、あの、その、こ、光栄です! い、今でこそ、あの、は、働く喜びを与えられ幸せです。 実は…… 大罪に選ばれてから二十四年、コユキ様の前にはどなたも来られませんでしたが、この城、ボシェット城の周りを掃除したり、三匹の門番である『魔狼』たちのエサをあげたり、ブラッシングやグルーミング、トリミングをさせて頂いたりしながら、それなりに充実した人生、いや大罪生を過ごして参りました。 ですが、二十四年前、いわゆる生前の私はこんな喜びを知ることも出来ませんでした…… 正に、『怠惰』、その物だったのであります……」
「へぇ、そうなんだ? なんで?」
何気無く聞いたコユキの一言を受けて、アセディアは急に落ち込んだ様な表情を浮かべて話し始めた。
「何故、で、すか? まあ、何て言うんですかね? 空回りって言うのでしょうか、面接とか行き捲ったんですが、一度も上手く行かなくてですね…… 挙句の果てには、冒険者ギルドの受付嬢、いや、受付の婆さんにも見捨てられ、無為にゲームの中に逃げ込み、公衆遊技場のプロになる事も出来ずに、何も分かってくれない聞き訳の無い暴力主義の中年男性(父親)に頬骨を砕かれる始末…… その上でやっと訪れたサクセスストーリー(錯覚)の始まる日に、どっかの馬鹿(おまえ自身)のせいでガス爆発、爆死したのでございます…… つまり、怠惰なままで命を失いました、まあ、幸か不幸か、死んだお蔭で、大罪を賜りまして、漸く働き続ける事が出来る人生、いえ、大罪生を得る事が出来ました。 コユキ様にお喜び頂いて、至福の喜びを感じられる今この時に感謝の二文字以外、いいえ、生きてて、あ! 死んでて良かったと超感謝に耐えないのであります」
「へぇ~、んじゃあ今だけじゃなくて、生きてた時? 二十四年前だっけ? その頃からずっと頑張って来たのね、アンタ!」
「え? はっ? 何です、か?」
ピザを頬張りながらコユキが放った言葉に、思った以上に喰いついてきた、『怠惰のアセディア』に対してコユキがモグモグお行儀悪い感じで答える。
「ん? だってアンタ、死んじゃう前から、世の中? まあ、世の中で認められるように、評価されるために必死で頑張って来たんでしょ? それって凄いと思うわよ? アタシ的にはね」
対するアセディアはポカンとしながらも、持ち前の頑張りを発揮して声に出した。
「いや、まあ、頑張ってはいましたけど…… 結果に繋がらなかった訳ですし…… あの、その、怠惰、ですよ、ね?」
コユキは最後のピザの残った一切れを口中に押し込みながら、酷く適当な感じで答えた。
「結果に繋がらなかったのは確かに辛いだろうけど、それでアンタが『怠惰』って訳じゃないんじゃないの?」
「えっ?」
驚きつつ聞き返したアセディアに対して、コユキは例の奴、質問返し(失礼の極み)をぶちかました。
「アンタってさあ? 若しかして勤勉の逆が怠惰だとか、変な勘違いしてんじゃない?」
と。
アセディアは焦ったディア、いいや、焦ったように口にした。
「そりゃそうですよ! 勤勉の徳、その対照が怠惰の悪ですよね? 当然ですよね! ね、ね!」