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海
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前を向いて歩こう
__とある街に、とある少女がいました。道を通ると、人々がたちまちふりかえり、少女に釘付けになるぐらいは、彼女の髪は、顔は、スタイルも、ひとつひとつの動きも目を見開くほど美しかったのです。
…そんなある日、少女__沙羅(さら)は、
ため息をひとつつきました。
「…最近、おとなりの澪(みお)が私のスカートの裾を引っ張ったり、朝セットした髪をくしゃくしゃにしてきたりとか…上履きに針を入れるとか…たくさん意地悪してきて参っちゃうわっ!」
おとなりの澪、というのは、沙藍の家のおとなりに、少し古くなっている、薄汚れた家があるのです。それが、澪の家です。
「私が何かしたのかしら…それとも、自分の髪が汚いからって嫉妬で…?もしそうだったら失礼しちゃうわ!」
考えても考えても、沙藍には澪の気持ちがまるで理解できませんでした。
でも仕方がありません、他の人の気持ちなんてわからなくて当然なんですから。
しかも、意地悪してくるやつの気持ちなんて理解なんて出来る限りはしたくありません。汚いのがうつってしまいますからね。
「…あ、駄目駄目。そういえば今日はお買い物に行かなくちゃいけないんだった。」
こんなことしてる暇なんて無いんだったっ、と沙藍は慌てて窓を閉めてタンスを勢いよく開けます。
お気に入りの品のある白いレースがついた、ピンクのドレスに腕を通します。
ママに買ってもらったブラシで、急いで髪をとかしてみます。
「…うん、とってもいいわ。」
…沙藍の髪は、急いでいるからだといって、沙藍の長い髪のケアを放っておくと艶が出なくなって、みんなの思う“美しい少女”になれなくなってしまうのだから、髪のケアは一日たりともかかさないのが、沙藍の美学です。どっかの誰かさんと違って、沙藍は美しいのですからね!
「…じゃあ、いってきまーす。」
沙藍がそう言い終えて背を向けたら、
パパとママが私を温かみの混じる笑みで私を送り出してくれます。
嗚呼、私ってなんて幸せなんでしょう__。
…そのとき、目の前の原稿用紙が無惨に破られた。原稿用紙はバリバリに破れて、悲鳴をあげているようにも見えた。
__そんなとき、誰かは予想つくが、私の目の少女が、自分で破った原稿用紙を繋ぎ合わせて読み始める。
「…えー、なになに。
とある街に、とある少女がいました。
道を通ると、人々がたちまちふりかえり、少女に釘付けになるぐらいは、彼女の髪は、顔は、スタイルも、ひとつひとつの動きも目を見開くほどうつくし…かったのです。
…そんなある日、少女…沙羅…は、ため息をひとつつき…ぶふっ」
そのとき、目の前の少女…澪はぶっと吹き出した。その瞬間、澪の周りの女たちもどっと笑い始める。
「な、に、こ、れ〜」そう笑いを堪えながら澪は原稿用紙を更に細かく破った。
「なにが美しいだよ、これのどこが?」
そう言いながら私の髪の長さが左右反対に違うように切られた髪を、髪を…思いっきりくしゃくしゃにした。
「汚すぎ」「自分のこと大好きかよ」、「気持ち悪〜」とか、たくさんの声が外野から飛ばされてくる。
「ねえ、美しい少女沙藍さぁん。」嫌味をたっぷり混ぜて、澪は私の名前を呼んだ。
…なんなの…?
…そんな名前…呼ぶな。呼ぶな。呼ぶな…。
…なにが沙藍だよ、こんな名前のせいで澪たちに虐められるようになって…!!
それなのに、なに?「名前は親からもらった短いラブレター」とか、自分はいい名前貰ったからそんなこと言えるんでしょ。
…頭の中でそう唱えながら、カッターで出来た傷だらけの拳をぎゅっと握って、これから来る嫌な言葉たちに身構えた。
「この原稿用紙おもしろいから持って帰っていいですかあ?自意識過剰でウケるんだよね」
…え。
「夢見るのも大概にしろよ〜」、そんな言葉は耳に入ってこない。
どうしようどうしようどうしよう、中には澪のことも…。
…澪は、本当は髪は私の汚い髪より艶があって、絵に書いたような茶髪で…。
そんなことを考えてると、彼女達の制限時間は過ぎたのか、
「ねえまだ?返事ないってことはOKってことー?」澪は私をさらに急かしてきた。
…どうしよう。どうすればいいの、これ。
抵抗したら次はどんな扱いされるか…
また水を被ることになるかもだし、上履きの底がチクチクするかもしれない。
「ごめんね、ママ…約束破るね。」
__これは、たしか私がちょうど六つになったころの記憶だ。
そのときあたしは、縁側でダンゴムシを掴んで遊んでいた。
そこで、あたしは飽きたからダンゴムシを投げようと狙いを定めた。
あたしが、ぽいってダンゴムシをなげようとしたとき、ママがダンゴムシを握ったあたしの右手を止めるように掴んだ。
「__沙藍、やめなさい。」
「…え?」あたしが間抜けな声をだすと、あたしが油断したすきに、ママがあたしが強く握ってたダンゴムシを奪って、庭に優しく置いた。
「…ママ?」
「…沙藍、」
「あのね、沙羅。
ダンゴムシさんだって生きてるんだよ。
私たちより下の存在に沙藍は見えてるかもしれないけど、違うのよ。
命はどんなに違う形をしていても、同様の価値で、そうやって乱暴に扱ってはいけないの。」
あたしが口をぽかんと開ける。
「…だから、ね。
虫でも人間でも同じ、そうやって体を乱暴に扱っちゃいけないよ、ママと約束しよ。」そう言い終えると、「手痛かったよね、ごめんね」 とあたしの頭を乱暴に撫でた。
「…うん、約束する!」
私は笑って小指をママに突き出した。
ママも優しく笑って、小指を出した__。
…澪がこっちを、何してんの、と言うように睨んでいた。
…怖い。
何その目。怖い…怖い。
これ以上、できることなら澪に近づきたくはない。2メートル以上、2メートル以上出来れば近寄りたくないのだ。
…けど。
「時には殴った方が早いっ!!」
私は、そう言って__
澪の頬をパーで殴った。グーは正直にいうとまだちょっといざとなって怖気付いた。
…その瞬間、澪の頬は赤く腫れた。
澪は信じられないようにこっちを見つめたが、すぐさっきの睨むような眼差しに戻った。周りはまだざわめいている。「キャーッ!!」ってひとりは騒ぎ立てている。
…やばい、ここ教室だし皆こっちみてるな。
でも、今更恥ずかしいとかない…!!
「…は?あんた、今私のこと殴った?」
「そうだよ、殴ったよ。」
教室がざわめく。地味に、快感になった。
「…はあ?今更暴力が悪いと思ってるわけ。
お前だってたくさん私のこと殴ってきたじゃん。」
パーどころじゃないよ、グー、と付け足す。
澪はあたしが言い返してくるとは思ってなかったみたいで、口をぽかんとあける。
その顔が、昔のあたしみたいで腹が立った、からもう一発食らわせた、今度はパーだ。
「…みんなどうした?」
いつの間にか、中休みが終わる時間だったようだ。担任の田中が入ってくる。何も知らないんだろう。
…ていうか、なんにも知らなくはない。
だってあたしのこと見て見ぬふりしてたんだもん。
ふざけんな、許さない。
…ていうのは、嘘だ。
本当は先生はきっと助けてくれると少々期待しすぎてた。あたしが過度に期待してただけだ。
…まあ、そんなことはどうでもいい。
田中も事態を理解してきたみたいなのでそろそろ…
「逃げよう!」
思わず口から溢れ出てきた言葉に内心焦ったが、今はそんなことどうでもいい。
とにかく走った、バレなさそうなところを走りながら探す。田中は追ってきてないみたいだ。
…久しぶりに、周りの目を気にせず走れた。
気づくとあたしは、自分の口角が上がってたような気がした。