私が次々と食べて行かないと、篤久様は絶対に自分でイチゴを選ばない。
「あ、これは程よく甘酸っぱい感じで、一番イチゴらしいかも」
「甘酸っぱいのは真奈美さんだけでいいね。俺は中まで赤い、甘いのがいい」
「……もしかして、高級イチゴしか食べたことがないんじゃありませんか?ここのイチゴもすごく高級ですけど」
入場料の分、食べなきゃ……
「俺、分かってきた」
「何をでしょう?」
「甘いイチゴの特徴」
「え……じゃあ、どうぞ選んでください」
「緑のヘタの周りまで赤いもの」
「それくらいは分かる……かも」
「あとは先端が尖った形よりも平らな方が甘い」
「と、思うんですね?」
「思うじゃなく、甘い」
断言した篤久様は
「これ」
と指さしたと思えば、採って私のお皿に入れる。
断言したわりに毒見?と思ったけれど、私はパクリ……
「ぁま……正解です」
「だろ?何事にも法則があるんだろうな」
納得顔の篤久様も同じ株に実ったイチゴを採って食べた。
制限時間ギリギリまでイチゴを食べ、ハウスを出ると
「カフェ、見てみよう」
と、篤久様が大きなログハウスを指さす。
「休日……ってこんな感じですか?」
何も考えず、ふと口から出た言葉に私自身が驚いて足を止めると、篤久様も足を止めて
「いろんな休日があっていいと思う。決まりはないんじゃないかな」
と迷わずに答えてくれた。
そして、通路にあったベンチへと私を促すと先に座った彼は
「休日って、休む日だからね。一生懸命に働いた者だけにある特別な日だよ」
そう言って隣をポンポンと手で叩いた。
私がそっとそこへ座ると
「労働でなくても、一生懸命勉強した学生の休日もあるし、毎日の子育てや家事に追われる主婦の休日もある。その休日が一日中寝ていたっていいよね。それで心身のリフレッシュができればいいと思う。心身が休まればいい…それだけだね」
と屋根の向こうの空を見上げた。
空を見上げることもいつぶりだろうか……と私も真似をしてみる。
「真奈美さんもそうだといい。俺のこと、警戒していたとは思うけど」
「あ……」
バッ……と隣の篤久様を見ると
「バレた、って顔だね」
彼はクスッと笑って、また空を見上げた。
「外から見れば、あれと俺は兄妹だからね。実際には1日もそう思ったことはないけれど。こんな風に二人で出掛けたこともないし、イチゴが好きかどうかも知らない」
「……篤久様が私をかばうようなことを言ってくださった時…正直に言うと……」
いや……正直に言うところかな……?
「邪魔するな、って思った?」
「ぇ………」
「今から思うと、真奈美さんの表情はそういうものだったと想像出来るね」
「……すみません」
「体当たり戦法」
「この後は…頭も使う予定です」
「やっと信用された」
そう言って立ち上がった篤久様は
「真奈美さんを止めるつもりはないよ。真奈美さんと家族の十何年もの思いを、俺が軽々しく手伝うのも違うと思うから手出しもしない。でも……勝算はある?」
と私に聞いた。
「あります。やります」
「そう……じゃあ、存分に。少しイチゴ味の口は落ち着いた?カフェに行こう」
目の前に差し出された大きな手……私はキュッと握って立ち上がった。
コメント
5件
2人の心は間違いなく近付いたね。でも篤久様は全てが終わるまで気持ちを言葉にするつもりはないと思う。でもこうやって大きな手を差し出して自分の存在と想いを伝える、篤久様らしい🤩真奈美ちゃん信用してみよう! 篤久様も甘酸っぱいですよ〜💗
気軽に手伝うと言わない篤久様が信じられる😍今はデートを楽しもう✨
美味しいものを食べて戦闘力を上げないとね(๑•̀ㅂ•́)و✧