テラーノベル
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秋の風が少し冷たくなった頃。
ひでは一人、古い書類を前にしていた。
母から聞いた話。
5歳まで施設にいたこと。
そこに、一緒に暮らしていた男の子がいたこと。
ずっと頭から離れなかった。
『……俺は。』
『誰と一緒にいたんだ。』
机の上には、昔の記録。
養子になる時に残された書類。
ほとんどは見たことのないものだった。
その中に、一枚の紙があった。
「児童記録……。」
名前。
生年月日。
保護された時の状況。
指でゆっくりなぞる。
そこに書かれていた。
『兄弟児』
その文字を見た瞬間。
息が止まった。
『……兄弟?』
知らなかった。
自分に兄弟がいたなんて。
その頃。
愁斗は施設の庭にいた。
「しゅう兄、一緒に遊ぼ!」
「いいよ。」
子どもたちに囲まれる。
笑顔。
楽しい時間。
でも。
少し長く遊ぶと、体は正直だった。
胸が少し苦しくなる。
足に力が入りにくい。
「……。」
子どもたちに気づかれないように、ゆっくりベンチへ座る。
先生が近づいてくる。
「愁斗。」
「休憩。」
「でも。」
「でも、は禁止。」
先生は優しく笑った。
「ひでくんとの約束でしょ?」
愁斗は少し笑う。
「……みんな知ってるんですね。」
「あなたが無理することもね。」
愁斗は空を見る。
「昔は。」
「休むの、嫌いだった。」
「迷惑かける気がして。」
先生は静かに聞いていた。
「でも。」
「最近は。」
「休んでも、誰かがいなくならないって分かったから。」
その言葉に、先生は微笑んだ。
「それは大きな成長だね。」
夕方。
ひでが施設へ来た。
いつものように笑う。
『今日どうだった?』
「普通。」
『普通ってことは?』
「ちょっと疲れた。」
『……。』
「何?」
『成長したなって思ってる。』
「また子ども扱い。」
『違う。』
『嬉しいだけ。』
愁斗は少し照れた。
帰り道。
ひでは迷っていた。
言うべきか。
聞くべきか。
でも。
まだ確信がない。
『愁斗。』
「ん?」
『小さい頃のことって覚えてる?』
その質問に。
愁斗の足が少し止まった。
「……あんまり。」
『5歳より前とか。』
「覚えてない。」
愁斗は少し考える。
「でも。」
『うん。』
「夢を見る。」
『夢?』
「小さい男の子。」
「泣いてる。」
「俺、手を伸ばしてる。」
ひでの表情が変わる。
「……。」
「どうしたの?」
『いや。』
『なんでもない。』
でも。
胸の奥では、確信に近い何かが生まれていた。
その夜。
ひでは再び書類を見る。
震える手でページをめくる。
そこには。
施設にいた子どもの名前。
一人目。
英寿。
二人目。
——愁斗。
文字を見た瞬間。
時間が止まった。
『……嘘だろ。』
何度見ても同じ。
同じ施設。
同じ時期。
同じ場所。
そして。
兄弟児。
ひでは口元を押さえた。
『愁斗……。』
初めて。
その名前を。
ただの友達の名前ではなく。
別の意味で呼んだ気がした。
でも。
まだ言えない。
違ったら?
期待させたら?
もし。
愁斗が拒絶したら?
たくさんの不安が押し寄せる。
それでも。
胸の奥にある気持ちは、一つだった。
『……会えてよかった。』
涙はまだ流れない。
でも。
長い間探していた何かを。
やっと見つけた気がした。
コメント
1件
あっ、やばいやばいやばい!!😭💦 第24話、めっちゃ重くて切なくて胸がぎゅーってなった…!!「兄弟児」の文字が出た瞬間、息止まるの分かるよ…ひでくんの戸惑いと不安がリアルに伝わってきて、こっちまでドキドキした。愁斗くんの「夢で泣いてる男の子」ってエピソードも伏線だったんだね…!ふたりの間に流れる”知らない過去”の存在がすごく切なくて、でも最後の「会えてよかった」にじんわり温かくなったよ。次、どうなるの?早く読みたい!!🌸
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