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「うわあ」
目の前の車いすを見た途端、樹の口からは感嘆の声が出た。食い入るように見つめている。
無事にリハビリの過程を終え、退院した樹は車いすメーカーの店に来ていた。以前大我に紹介されたものを、見せてもらっている途中だ。
その車いすは、赤色のフレームで、タイヤが八の字になっている。座るところが黒色で、背もたれが短い。スポーツ用なので、動きを邪魔しないように背もたれが短くなっているのだ。
「ほかのスポーツ用って、もうちょっとタイヤの角度ついてますよね?」
担当者に尋ねる。
「そうですね。バスケとか、テニスとかだと、もう少しキャンバー角がついていますが、こちらのモデルはなるべくスリムにすることで、ダンスのアクションを妨げないようになっています」
キャンバー角というのは、タイヤの角度のことだという。
「ダンサーさんですか?」
「ダンスもするんですが…」
少しの間を置き、言う。
「歌とダンスをしています。…実は、ジャニーズのグループに所属していまして…」
「そうなんですか! なるほど。こちらとしてもぴったりの商品をご用意できて良かったです」
もう一度、車いすに目をやる。フォルムが何ともスポーティーでかっこいい。大我が一目惚れする理由もわかる。
「色って、ほかにどんな色があるんですか?」
ちょっとお待ちください、と言い、奥に消える。
そして戻ってきた担当者は、一枚の紙を持っていた。
「こちらが色見本となっております。フレームカラーはもちろん、タイヤの色などもカスタムできます。今のところ、どんな色をご希望ですか?」
「そうですね…黒とか、青です」
メンバーに一度、どんな感じがSixTONESに合うか聞いたところ、こんな答えが返ってきた。
慎太郎「やっぱり俺らって黒衣装とか多いから、黒が似合うんじゃない?」
ジェシー「メンカラの青とかも入れたらどう?」
その意見を取り入れることにしたのだ。最初は自分の好きな色にしようかと思ったが、やはり一番に考えるのはSixTONESのことだった。
「ございますよ。黒や青の中にも、メタリックなものやつや消しなど、種類があります」
しばし相談をした後、フィッティングに入る。車いすを横に付けて移乗し、座ってみる。
「おお…。座り心地、すごく良いですね」
「お身体に合うようで、良かったです」
そして、身体の幅や脚など、採寸をする。次のときに、最終決定をするそうだ。
店を出ると、SixTONESのグループラインで報告した。
『車いす見てきた
フィッティングもしたよ
めちゃかっこよくて、気に入った!
もう一回相談したら、作るんだって
楽しみに待っててね!』
それにみんなが反応する。
いつも句点が少なく、絵文字なども使わない樹のメールだが、珍しくビックリマークがついている。その文に、よほど嬉しくて興奮しているんだな、とみんなは解釈した。
ジェシー『そっかー☺ どんなのになるかな?』
北斗『楽しみ!』
慎太郎『何色になるんだろう~』
高地『おー、よかったね! 待ってるよ~!』
大我〈グッドスタンプ〉
樹『今のところ、大体が黒でちょっと青も入れるつもり
出来たらみんなに一番に見せるよ』
大我『わー嬉しい!』
北斗『絶対似合うだろうな』
高地『だろうねえ』
慎太郎『見なくても分かる、カッコいいやつやん!』
ジェシー『うわー、早くその車いすで一緒にパフォーマンスしたいな!』
樹『俺も待ちきれない!』
真新しい座席に座り、つやつやのハンドリムを慎重に触る。ここだけが、メタリックなシルバーになっている。フレームはつや消しの黒で、同じく黒いシートの背もたれの一部が青色だ。
お気に入りの配色に仕上がり、満足のいく一台が出来上がった。
初めて乗った樹は、キラキラとした笑顔で「うわぁ!」を連発していた。
北斗「ったく、子供みたいにはしゃいで」
それを見つめているメンバー5人も、嬉しそうな顔だ。
大我「良かったね、すごくいいのが出来て」
慎太郎「ほとんど黒だから、黒スーツにも合うしね!」
ジェシー「これから、黒スーツオンリーにする?」
樹「それはないよw」
高地「にしても、マジでかっこいいな」
北斗「ガチで、ギャンギャンにかっけーよ」
褒められ、さらに顔が明るくなる。「でしょ~!」
北斗「お前が作ったんじゃないだろ笑。でも、ほんとに良いな。羨ましい」
大我「俺も乗りたい!」
ジェシー「後で乗らせてよ」
樹「えー、やだ」
ジェシー「ダメなの⁉ なんでえ~」
樹「だってこれは俺のだもーん」
ジェシー「えぇー」
高地「試しに、そこ走ってみたら?」
そう言われ、ハンドリムをもう一度握り、静かに漕ぎ出す。音もなくタイヤが動き、滑らかに回転する。
「…めっちゃくちゃ気持ちいい」
そのまま、くるっとターンした。華麗。その一言で表せるような動きだった。
樹「すっげえ軽い! 超、身軽。羽生えてるみたい」
慎太郎「うん、めっちゃ綺麗じゃん。俺らのターンより断然綺麗だよ!」
北斗「マジ羨ましい」
高地「北斗、さっきから『羨ましい』ばっか言ってるw」
ジェシー「いっそみんな車いすで出る?」
樹「それは俺だけでいいだろ笑」
大我「でも、絶対ダンスで映えるわ。目立てるよ」
樹は、希望に満ち溢れた、晴々とした表情で頷いた。
続く