コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ねえ北斗ぉ、手伝ってよ~」
楽屋のソファーに寝転がった樹が、甘えた声で北斗を呼んでいた。
北斗「なんでだよ。自分でやれ」
樹「…無理!」
樹は先ほどから、ズボンを脱ぐのに苦戦していた。
バラエティー番組の収録があるので、楽屋でみんな着替えている。最初は自分でやると言ったが、伸びないズボンで下半身に時間が掛かり、どうにもできなくなった。
北斗「自分でやるって言ったんだから、ちゃんとやれ」
大我「まあまあ、そんな厳しくなくても…」
北斗「…でも、なるべく自分でできることは増やさないと。樹のためにもならないし」
慎太郎「ていうか、家だったら着替えとかどうしてんの?」
樹「ああ、ヘルパーさんに来てもらってる。着替えはなるべく一人で。料理とか掃除はやってもらってるんだよね」
慎太郎「へえ」
ジェシー「じゃあ俺手伝おうか?」
北斗「ジェス!」
ジェシー「ごめんなさあい」
高地「ほら、頑張れ! 時間なくなっちゃうよ」
樹「頑張ってんだよ! ああ脱げないっ怒」
慎太郎「イラつくなって。絶対できる」
樹「――やっと脱げた!」
大我「偉い偉い」
樹は起き上がって衣装のズボンを手に取り、履き始める。
高地「っていうかさ、俺らが出る歌番組とかバラエティーの衣装って、黒衣装多くね?」
今日も、みんな黒が中心の衣装だった。
ジェシー「まあ俺らっていえば黒だからね」
慎太郎「高地、黒好きじゃないの?」
高地「いや、好きだよ」
大我「じゃあいいじゃん!」
大我の屈託のない笑顔に、高地も笑顔になった。「みんな黒好きだもんねー」
樹「くっ、ここが難関…」
樹がしばらくズボンと格闘していると、時計を見上げた北斗が、
「……時間ないわ。しょうがねえな、手伝うよ」
樹「ありがと北斗~…」
北斗「いいか。今度からは、自分でやれるんなら時間に余裕をもって着替えること。手伝ってほしいなら、事前に頼むこと」
樹「はい…」
慎太郎「って言っても、大体樹の世話してんの北斗じゃ?」
北斗「それは言うなよ!」
振り返って、困り顔で言う。
慎太郎「ははw」
大我「確かに笑」
支度を済ませ、楽屋を出るときには、スタジオ入りの時間が差し迫っていた。
高地「ほら樹、急げ!」
速足で歩くみんなに対し、樹は必死に漕いでいる。だが、樹にとって「急げ」というのは無理な話。
樹「おい待てよっ」
慎太郎「いいよ、ゆっくりで」
大我「押そうか?」
樹「押されたら怖いんだよ!」
ジェシー「何だよそれAHAHA!」
と言いながらも、大我が後ろからグリップを握って押す。
樹「いやぁぁああああ!」
北斗「叫ぶほどじゃないだろ」
樹「……そんな怖くないな」
高地「どっちだよw」
移動のときもとにかく楽しそうな6人は、通りすがりのスタッフに微笑まれていた……というか、苦笑されていた。
ジェシー「腹減った~」
収録が終わり、廊下を歩く最中にジェシーがいつもの大声で嘆いた。
慎太郎「ねえ飯行かない?」
北斗「おお、いいね。みんな空いてる?」
慎太郎と北斗の声かけに、それぞれ反応する。
ジェシー「うん!」
大我「…俺、大丈夫」
樹「俺も」
高地「空いてるわ」
慎太郎「おっしゃ、食いに行こ!」
北斗「奇跡的だね」
大我「なに食べる?」
樹「和食だろ」
北斗「またそれかよwww」
樹「いいだろ、好きなんだから」
ジェシー「あ、でもバリアフリーのとこじゃないと」
樹「ほんとだ。じゃないと俺入れないじゃん」
高地「なんか樹の最近の行きつけとかないの? 一人で行ったとことか」
樹「ええ、俺車いすで一人でご飯行ったことない。怖いもん。今日はみんなと一緒だから行ける」
大我「じゃあ初ご飯だね!」
慎太郎「確かにー」
ジェシー「じゃあ車いす以来の初ご飯の記念に、和食行くか。空いてるかな?」
北斗「記念ってなんだよ」
樹「ほんと? やった!」
予約が取れたテレビ局近くの店に行き、案内された席に着く。
慎太郎「何食べようかな~」
メニューをみんなでのぞく。
高地「うおっ、さすが高級和食店、結構高い」
大我「そお?」
値段にビビる5人に対し、大我はとぼけている。
北斗「え、金銭感覚どうなってんだよ笑」
樹「お父様に料亭とか連れてってもらってたんだろうな~」
慎太郎「それで価値観狂ったんだな」
大我「ねえ何がある?」
北斗「和食だよ」
樹「そりゃそうだろ、和食屋なんだから笑」
ジェシー「俺ハンバーガー食べたい」
高地「だからここ和食屋だって!」
そして、みんながメニューを決めていく中で、高地と北斗がまだ迷っていた。
高地「そばもいいけどな~、天ぷらもいいんだよな~」
北斗「このおすすめのやつもめっちゃ食べたいんだけど、これも食べたい」
ジェシー「じゃあどっちもにすればー?」
北斗「それは無理」
樹「おすすめにすれば? 季節限定じゃん」
高地「じゃあ俺季節のおすすめ定食ね」
北斗「えちょっと待ってよ、えどうしよう」
慎太郎「早くしろよ」
北斗「急かすなって! じゃ俺も高地ので」
ジェシー「はいはい頼むよ」
しばらくして、6人分の料理が運ばれてきた。おいしそうな料理を前に、みんなのテンションも上がる。
ジェシー「めっちゃうまそう!」
高地「えーみんなのもおいしそう」
北斗「いただきます」
大我「いっただっきまーす」
慎太郎「……うま!」
大我「うまぁ~」
樹「おいしい」
ジェシー「しんたろ、一口ちょうだい」
慎太郎「えー」
ジェシー「お願ーい」
慎太郎「一口だけね」
あーん、と口に入れているのを見て、
樹「ふっw」
北斗「お前らなにやってんだよw」
と噴き出した。
ジェシー「うまーい!」
樹「おいしいね」
高地「樹、多くない?」
樹「もうちょっとあとで、多かったら取って」
北斗「やっぱ和食もいいな」
大我「ねー」
樹「…俺さ、最近思ったんだけどさ」
5人「ん?」
樹「ライブのあと落ちたとき、首とか折ってなくてよかったなって。首の頚髄損傷したら命も危ないし、手も動かせなくなってたかもしれない」
大我「不幸中の幸いだったよね…」
樹「頚損だったら、ダンスもできなかったと思う。こうやってみんなと食事することもなかったのかな…って。最近はポジティブに考えられるようになった」
慎太郎「そっか」
樹は箸を置き、みんなを見据える。
樹「あのとき、ずっと俺を励ましてくれてありがとう」
北斗「な、なんだよ急に。当たり前だろ」
明らかに照れを隠す北斗。
高地「そうだよ、支え合いはメンバーとしての使命だろ?」
ジェシー「いいんだよぉ」
大我「良かったよ、またこうやって6人で楽しく過ごせるようになって」
慎太郎「これからもずっと支え合いだな!」
大我「だね!」
慎太郎「こんな良い話してると、さらにご飯がうまくなりそう」
ジェシー「確かに~」
樹「いやーおいしかった。ごちそうさまでした!」
北斗「いいえ~」
今日は樹以外の5人で割り勘だった。
高地「めっちゃうまかったね」
ジェシー「ね~」
大我「また行きたい!」
慎太郎「お父上に連れてきてもらったら?」
北斗「俺らじゃ無理だから。一回きりが限界」
大我「まあ親父、特別和食が好きってわけでもないんだけどな」
樹「あ、そうなの」
大我「うん。ま、樹と一緒なら行きたい」
樹「え、あ俺と?」
大我「だって気に入ったんなら…」
樹「じゃあきょもの奢りな!」
大我「そんなこと言ってねーよ!」
ジェシー「HAHAHA笑」
樹(やっぱ、飯食うなら6人だよな)
恥ずかしくて声に出しては言わなかったものの、満ち足りた心の中でそう思った樹だった。
続