「ん〜!色々あったけど,またみんなと飛行機乗れて楽しかった~!」
「それは良かったな。俺は最悪の一日だったよ。」
背伸びをしながら明るい声で感想を言ったエマに,軽い睨みを効かせながら暗い声でレイが嫌味を言うように毒づく。
まあ,それもそうだろう。レイは朝起きて間もなくして膝蹴りを喰らうし,骨を折られかけるし,乗った飛行機内ではハイジャックに遭うし,事件が解決したと思ったら今度は空港で事件に巻き込まれるし,挙句の果てには変な子供に目をつけられてしまうしで,もう最悪だった。
因みに,あの後,軽い事情聴取が行われたのだが,レイが名前を聞かれてスペルまで丁寧に答えると,佐藤と高木は勿論,目暮も心底驚いた。レイのことを日本人だと思っていたらしい。
コナンもそうだったが,佐藤達もまた,コナンと全く同じ理由からレイを日本人だと決めつけてしまっていたようだ。
まあ,それもそうだろう。他の子供達は英語で話しているし,肌の色や,髪色などからして間違いなく外国人だということが分かる。それに対し,レイは饒舌な日本語を話していたし,肌の色も黒いわけではない。髪色だって日本人特有の黒色だ。ノーマンのように透き通るような白髪でも,エマのように明るいオレンジ色でもない。だから佐藤達もコナン同様,勘違いしてしまったのだ。
その時のレイは,「俺ってもしかして日本人…?」と,イザベラに確認するかのようにちらりと見ながら疑問を抱いていたとかいなかったとか。
「うっ…!そっか。ごめんレイ。」
「因みに,インドから日本まで来るのに24時間42分かかっているから,正確には,丸1日と42分間が,レイの『最悪』だよ。」
「あー。はいはい。もういいから。細けえことはさ。」
ノーマンが細かく刻んで訂正を入れる。
それにレイは溜息をついて面倒くさそうにあしらうと,んで?とノーマンを見る。
「ん?」
「ん?じゃねえよ。どうすんだよ。これから。日本には一応来たは来たけど,住む場所確保しねえと,俺達そういった意味では死ぬぞ。マジで。」
レイの言葉に,全員がハッと気付いたようにノーマンを一斉に見る。
ノーマンは相変わらず,温厚そうな笑みを浮かべて安心させるように話す。
「うん。それね。その辺は全然大丈夫だよ。空き家を予め購入しておいたんだ。広さ的に足りなくて,もう2軒,買ったから,僕達,3グループに別れないといけないんだけどね。」
ノーマンがそう言い終わると,子供達からわあ〜!と歓声が上がる。
「すっごーい!!何時の間に?!」
「やっぱノーマンがついてくれりゃ百人力の味方だぜ!」
「おう!」
「あはは。トーマ達,それ,前も言ってたよね。」
ノーマンとみんなが再会したときに言った言葉をトーマとラニオンがそのまま言うと,ノーマンは,ちゃんと覚えていたのか,ニコニコと笑って懐かしいなあと何時ぞやの記憶の余韻にしたる。
「……ねえ………。ノーマン,そのグループって……」
「駄目だよ?ママ。」
「……………そうよね……。」
丁度3つのグループは飛行機に乗ったときのグループと全く同じにするだろうと瞬時に読み取ったイザベラがノーマンと再度交渉しようとするが,またしても言い終わる前にニッコリとした笑顔で遮られる。
顔は笑っているが,目が全然笑っていない。
そんなノーマンの圧にあっさりと負けたイザベラは溜息をつきつつも,大人しく従う。
ちらりとレイの方を窺うと,レイは服の上からお腹をさすっていた。分かりにくいが,若干顔も引き攣らせている。
イザベラは驚いてレイに近寄ろうとして……止めた。自分にそんな資格はないと自身の理性に言い聞かされたのだ。
「おい,レイ!!大丈夫か?!」
その時。ユウゴがイザベラ同様気付いたのか,慌ててレイに駆け寄った。
いきなり大声で名前を呼ばれたレイは,ビクッと肩を大きく揺らすと,驚いたようにユウゴを見上げる。
「ユ,ユウゴ……。」
「痛むのか?」
ユウゴは心配そうにレイの顔を覗き込む。
ユウゴの声が大きすぎたのか,みんなの視線がレイへと集まる。
イザベラはその様子を無表情で見つめる。が,心の中はレイのことが心配で心配で気が気じゃない。台風が直撃したかのように大荒れだった。
と,ユウゴが突如,イザベラレイも含めた全員がフリーズしてしまうような行動に出た。
「場所が悪いから捲りはしないが触るぞ。」
「は…?ちょ,何して……」
なんと,ユウゴはレイの腹に直接触れたのだ。服は捲っていないが,下着の上からでもなく,レイの服の間にスッと手を差し込んでレイの肌に直接触り,腹を撫でているのだ。
ピシッと全員の動きが止まる。
ユウゴ的にはお腹が痛そうにしているレイを心配してのことなのだろうが,流石にこれはヤバい。28歳の成人男性が14歳の少年の腹を撫でる。しかも距離が近い。場所も悪い。つまり,これは誰がどう見ても通報ものだ。
「ちょ,ユウゴ…!やめっ……!いっ…!!」
「やっぱり痛むか?」
みんな,手も足も声も出ない。
あまりのことに一切身動きが取れずにいると,
「ちょ!ストップストップストーップ!!!やばいから,それ!!絵面やばいからぁ〜!!!」
いち早く我に返ったエマが慌ててストップをかける。
それにびっくりしたのか,ユウゴは,バッとエマの方を振り返ると,また同じようにバッとレイの方に向く。
レイは前髪で隠れていて顔が見えないが,ユウゴから目を離しているし,体を強張らせているのは確かだった。
「わ,悪い!!」
漸く自覚したユウゴはレイの腹から手を抜き,盛大に頭を下げて謝る。
「…………………いや…………別に……………。気にしてないし……………。」
「嘘だろ!!嘘だな?!ほんっとうに申し訳ない!!!」
いくら同性とはいえ一応,レイは14歳の少年である。成長期の真っ只中である。
その時にあれはない。
レイと同い年で同性であるノーマンは瞬時にそう思った。
同性なら気にしないという人も居るが,そうでない人も居る。少なくとも,LGBTの人は気にするだろうし。
それに,レイに至ってはあの事だってある。それも漸く分かったからこそ,ユウゴはああやってめちゃくちゃ謝っているのだろうが。
はあ。と思わず溜息が出てくる。ちらりと恐る恐るイザベラの方を見てみると,イザベラはじっとユウゴの方を見ているが,その目は決して何時もの優しさなど欠片もなく,まるで飼育官としてノーマン達を見ていた時の目のように冷たい。
それを視認すると,ノーマンは過去のことを思い出した。ハウスに居た頃,ノーマン達がまだハウスの真実なんて欠片も知らなかった頃,イザベラは何処か,レイに執着しているようにも見えていた。
勿論,小さい頃はそんなこと気付かなかった。
だが,ノーマンは成長するにつれ,ふとした時のイザベラの異変に気が付くようになった。
生きていた姉,スーザンも,いつの日か言っていた。
『なんか,よく分かんないんだけどさ,ママって,レイのこと特別扱い?してる感じがするんだよね。何でだろう?ママは私達のことを,分け隔てなく,平等に接してくれているはずなのに。』
ノーマンもそう思った。いや,その時にはもう既にそのことになんとなく気が付いていた。
レイ本人は全く自覚などなかっただろうが,ノーマンやスーザンならば察せられるくらい,レイのことを特別扱いしているように思えたのだ。
ただし,これといった根拠があるわけではない。
でも,少なくともノーマンには,イザベラは,レイのことを牧羊犬とは違った意味で執着しているということは分かった。
今だってそうだ。ノーマン達とはもう,ハウスで何も知らなかった頃のように,今度は出荷なんて気にせず,お互いがお互いを普通に愛しているのにも関わらず,レイだけは,未だに何も進展がない。それどころか,イザベラとレイは,こちらの世界に来てから殆ど言葉を交わしていない。
確かにレイは内通者として6年間,たった一人で何もかもを背負い込んでいたし,それ以前からレイは自分ひとりだけなぜか持っている,生まれたときの記憶に苦しんでいただろう。それに関しては確かに『ママ』として思うところはあるだろうが,もし,内通者がレイではなかったら,ノーマンやエマだったら,イザベラは今も尚,話すことができていないだろうか。
答えは否だ。
内通者がレイだからこそ,レイだったからこそ,イザベラは今もずっと気にしてしまっているのだろう。
何故かは解らない。マチルダやユウゴ達大人は知っているのだろう。ノーマン達もイザベラとレイのことに関してはかなり熱を入れて取り持とうとしているが,大人は何だか,熱の入り方というか,入れ方というか,そういった熱量や気合の具合が子供達とは違う気がする。
とはいえ,イザベラもレイも,自分達のことに関しては一切妥協してくれない。二人が話したくないのならばノーマンは,ノーマン達は,無理に吐かせるつもりは毛頭無い。
ノーマンはそこまで考えると,はあ。と軽く息をつく。考えを深めるために無意識に閉じていたらしい,瞼をゆっくりとした動作で持ち上げる。
視界いっぱいに広がったのは,未だにユウゴがレイにしつこく謝っているらしい,再度溜息をつきたくなるような光景だった。
「本っっ当に悪かった!!レイ!!」
「……いや…………ユウゴ。あのさ……本当に俺……気にしてないから……。」
レイの様子からして本当に気にしていないのだろう。寧ろ,もうこれ以上言わないでほしいと顔に書いてある。
再度溜息をつきたくなる光景に再度溜息をつくと,重たい口を開く。
「それで,これからのことなんだけどね……」
ノーマンの声に全員が口を閉じる。それによってこの場は,傍から見れば変にざわざわとしていた空間が妙なタイミングで静まり返ったようになる。
「僕達の企業,会社は,もう畳んだ。だからこれからの生活はより一層自分達でどうにかしないといけない。向こうにいたときほど環境が悪いわけではないけどね。」
ノーマン達がもう既に会社を畳んだことくらいは皆,予想していたのか,さして驚くようなこともなく清聴している。
「日本語については,当初の予定通りに,レイに任せよう。家についても,先程言ったように,3軒に分かれて過ごそう。グループはさっき飛行機に乗ったときのグループで構わない。もし,何か要望があるなら言って。勿論,場合によっては却下するかもだけど。学校も,グループごとに,それぞれ違うところに通うようにして。あと,違うグループ同士で会ったりするのも避けて。勿論,人に話すのも駄目だ。」
「はあ?!」
ノーマンが口頭で一気に説明し終わると,一番に反応したのは,先程迄ユウゴと押し問答していたレイだった。
「お前馬鹿か?!家のこととか,今後グループ内以外ではお互いに関わらないようにするとか,それに関しては俺も賛成だが,何で学校なんか通うんだよ?!インドに居たときでさえ,俺達,まだ学校行ってなかったんだぞ!?学校なんか行ったら一発で居場所バレるだろうが!!」
「そうなんだけどね…‥。」
レイのご尤もな言葉にノーマンは苦笑して答える。
「レイの言った通り,みんな,学校に行く前にこんなことになってしまって,結局行けず終いだっただろ?ここは日本だけど,折角なら行かせたくてね。僕自身,正直行ってみたいし。それに,が一のことがあったとしても,一気にバレることなんてそうそうない。バレたとしても一つのグループだけだ。それに,違う学校に通っていればすぐ逃げることくらいできるだろ?」
「いや,そりゃそうだが……。でも」
それはお前のやりたいことだろ?
思わず出てきそうになったレイのその言葉は,最後まで続かなかった。ノーマンの気持ちも分かるからこそのレイなりの配慮だろう。
実際,そのとおりだった。
万が一,1つのグループのことがバレても,他2つのグループはその間に逃げられるし,バレたグループも,ママやシスターを数人入れているし,ノーマン,レイ,エマの3人がそれぞれ分かれてくれている。
でもそれは,本当はノーマンにとって都合のいい言い訳でしかない。言い訳にしか使っていないのだ。
本音としては,レイが言いかけた,『自身の願望』でしかないのだ。
途端にその場が静まり返る。
その沈黙を破って真っ先に口火を切ったのは,エマだった。
「私も行きたい!学校!」
「エマ……!」
遂にはエマまでそんなことを言い始めた(なんとなく予想はしてた。)ことにレイは思わず声を抑えつつも叫ぶ。
それに続いて子供達も次々と声を発する。
「私も学校行きたーい!!」
「僕も僕も!!みんなだけズルいぞ!!」
「お前らまで……。その気持ちは分かるが,危険過ぎる…!」
「ああ。そうだ。レイの言うように,今この状況下で,俺達の名前も住所も公共の場に晒すわけにはいかない。」
「名前は偽名でも考えればいいでしょ?住所だって空き家でも余分にまた買っておけばいくらでも誤魔化すことは可能だ。問題無し…No problemだよ。」
エマを始めとした家族の殆どが味方に加わってくれたことで戦力は十分確保したとでも言うように,ノーマンは余裕な笑みで口を挟む。
それにユウゴは言葉に詰まり,ちらっと助けを求めるかのようにレイを見る。実際,こういった交渉のようなものはレイの得意分野である。
その視線に気付いたレイはユウゴと一瞬視線を合わせるとくるっと時計回りに半回転して自身の後ろに居る人物にどうする?と聞いた。
「え?私……?」
「他に誰が居るんだよ。」
レイの後ろに居たのはイザベラだった。
いきなり話しかけられたイザベラは勿論,ノーマン達も思わずフリーズしてしまうほどには驚いた。
レイはそれに気づいたのか,気付かなかったのか,呆れたような溜め息を溢しながら,ママに言ったんだよ。と改めて言う。
「ママが良いって言うなら………俺は‥‥別に構わない。」
「レイ?!」
レイの言葉にユウゴが驚いたように叫ぶ。イザベラも少々,いや,かなり驚いているようで,言葉を発することもなく放心してしまっている。
最も,イザベラは,ユウゴとは違った意味で驚いているのだが。
(………どうして……。どうして,私が良ければ構わないの……?)
ノーマン達の瞳が徐々に期待の色へ変わっていっているのを見て見ぬふりをしてぐるぐると頭を回転させる。
何故レイはそんなことを言ったのだろうか。
イザベラが『みんなのママ』だから?それとも,何も言わないイザベラの意見を聞こうとした?或いは…………………。
そこまで考えが深まっていくと,イザベラはハッとして,瞼を閉じて視界を黒一色にすることで慌ててその思考をシャットアウトする。
(そんなこと有り得ないわ……。レイが態々私に聞いてきたのは『みんなのママ』だから。きっと……いえ,絶対そうよ。それ以外,なんにも理由なんてない。)
これについても何度も言うが,イザベラとレイは物凄く似ている。
イザベラもレイも,自己肯定感が低いのである。
イザベラは,閉じていた瞼を開き,不安そうな表情で此方を見るノーマンとエマに視線をぶつけると,2人は緊張したようにピシッと反射的に背筋を伸ばした。
「そうね。構わないわ。貴方達は貴方達のやりたいことをやればいい。『何が幸せかは自分で決める』んでしょう?エマ。」
「!!ママ…!!ありがとう!」
イザベラの言葉を聞いたエマとノーマンが,ぱあっと顔を輝かせる。
ニッコリとした満面の笑みでありがとう,とエマが言うと,みんなも口々にありがとう!と口にする。
その様子に,イザベラはほっこりと胸が温かくなり,つられて笑みが溢れる。
そんな温かい空気の中,ノーマンがニッコリと,今度は悪戯顔でレイに迫る。
「なんだかんだ,レイは僕たちに甘いよねぇ。」
「そうそう!なんか,レイ。脱獄してから私達に対して過保護になった感じ?まあ,そういうの!!」
「自分で言うの恥ずかしいからママに言わせたんでしょ?」
「なっ…!!」
ノーマンが漕ぎ出した船にちゃっかりエマも乗り,レイを揶揄る。
図星を突かれたのか,レイは言葉に詰まり,八つ当たりで2人を睨む。
その様子を見ていた家族は面白そうに声を上げて笑った。
家族全員でまた会える日を願って。
一方その頃,空港から帰ってきたコナンは,急いで荷物を片付けると,蘭と小五郎に一声かけ,全速力で走って阿笠邸に向かっていた。
チャイムもそこそこに勢いよく玄関の扉を開ける。
コナンの連絡を受けて鍵を開けておいてくれたのだろう。相変わらず気が利く相棒に心の中で感謝しつつ,靴を脱ぎ捨てて家の中へ駆け込む。
「灰原!!」
コナンのその声を受けてソファに座っていた少女が呆れ顔で振り返る。
その少女の名は灰原哀。だが,本名は宮野志保。哀は元々コナンを幼児化させた薬を開発していた張本人であった。だが,唯一の姉,宮野明美を組織の人間に,コナンを幼児化させた男達,ジンとウォッカ(2件とも,実際に手をかけたのはジン)に殺されたことが原因となり,組織に反発し,自殺しようとしてコナンが飲まされたものと同じ薬を飲んで体が縮んでしまったのだ。そして,今は組織から逃れるために普通の小学一年生を装って,灰原哀として生活している。
「工藤くん,貴方ねえ。もうちょっと,いいえ,もっと,丁寧に開け閉めしなさいよ。扉が壊れるでしょう?」
「わりい,灰原。でも,それより……!」
「ハイハイ。分かってるわよ。」
哀はこれ以上言っても,もう過ぎたことなのだし,コナンに言ったって意味がないということが分かっているため,溜息をつきつつもコナンがここに来る際に頼まれていたものを調べたパソコンを膝に乗せたまま,近付いてきたコナンに見えるよう角度を変える。
「さっき貴方に頼まれたもの,ちゃんと調べたわ。貴方の言う,ノーマンって人とレイって人は,確かに社長・副社長っていう関係みたいよ。まあ,明らかに若すぎるけれどね。」
コナンがパソコンの画面を見ると,ジャーナリストが撮ったであろうノーマンとレイの写真が映し出されていた。
哀が白髪で,温厚な笑みを浮かべている少年,ノーマンの方を指差す。
「こっちが社長のノーマン,で,こっちが副社長のレイよ。二人共外国人で,なーんとびっくり。私達よりも年下の14歳よ。」
「14歳?!14歳で会社立ち上げたのか!!」
「ええ。そうみたいよ。信じられないけれどね。最も,正確に言えば,副社長は彼の他にもう一人いるみたいだけれど。」
「え?もう一人…?」
ここでコナンが知り得なかった情報が入る。
コナンは思わず身を乗り出した。
「灰原!!出来ればそいつも…!!」
「言うと思った。もう調べてるわよ。」
言うが早いか,哀は一度パソコンの画面が自分の方に見えるように向きを戻し,少し操作すると,再びコナンの方へ画面を向けた。
「さっきの2人程有名ではないけれど,彼も十分,良い成績を残しているみたいなの。名前はヴィンセント。この人も外国人よ。但し,年齢は二人より4つも歳上の18歳。」
「同じ副社長は百歩譲っていいとして,社長の方が年下なのかよ?!4つも!?」
「事実,そうなっているし,大体そんなことを此処で言ったってどうしようもないじゃない。それに,多くはないけれど,最近は社長のほうが副社長よりも年下だなんてこと,よくあることでしょう?。」
「いや,そうなんだけど……。俺が言いたいのはそっちじゃなくて…。」
要するに,おかしいのだ。構成が。
具体的に言えば,何かの権利を持っているのも,経済力があるのも,圧倒的に年上だ。
確かに,哀の言うように,最近は社長より,副社長のほうが年上だなんてことはいくらでもあるが,それは,前の社長から指名されたり,或いは子供が継ぐ場合であったり,そういった特別なケースが多い。
だが,この3人は,家族ではないだろう。
根拠として,まず,この3人は人種が違う。
肌の色,髪の色,それらから容易に想像ができる。
ノーマンの白髪は地毛のようだし,ヴィンセントも,頭の大きな傷が気になるところだが,肌の色は日焼けしたわけではなく,生まれつきだろう。レイに至っては,日本人なのかと未だに疑ってしまうほど,アジア系で,日本人のような顔立ちをしている。
そして,社長自ら会社を立ち上げたのなら,当然,前の社長など,いるわけがない。
「まあ,何も今,そんなに悩むことはない。まだまだ分からないことだらけなんじゃろ?新一くん。」
「博士……。」
思考の海に沈んでいると,後ろからしわがれた声が聞こえてきて振り返る。するとそこには,この家の家主である阿笠博士博士がいた。
阿笠博士は,哀がこの隣の家,工藤邸,もとい,新一の家の前で倒れていたのを見つけて助け,今やコナンと哀の良き理解者でもある,コナンが昔からお世話になっていた人物だ。
阿笠のその言葉にコナンはそうだな。と一旦区切りをつけると,もう一度口を開いた。
「その3人の出身地は?どういう経緯で出会って,どういう経緯で会社設立することになったんだよ?」
「それが,分からないのよ。」
当然,何か少しでも有力な情報を得られると思っていたコナンだったが,哀は途端に顔を曇らせ,首を左右に振って答えた。
その返答に思わず,え?と間抜けな声しか出なかったコナンは,自分のその声で我に返り,哀に詰め寄る。
「なんでだよ?いつものお前なら出身地だけでも,もうとっくに……」
「だから,どれだけ調べてもわからないのよ。」
哀のその苛立ったような声に怒らせてしまったかと思ったが,どうやら,自分自身に腹を立てているらしい。
「わしも手伝ってはみたんじゃが……。」
「…………詳しく,説明しれくれねえか?」
「ええ。勿論よ。」
哀はゆっくり深呼吸をすると,険しい目つきでパソコンの画面を睨む。それにコナンも無意識の内に眉間にシワを寄せる。
「何にも出てこないのよ。彼らの情報が。」
諦めたような,面倒くさいような声で,哀は吐き捨てるように言う。
「……どういうことだ?何で……。」
「さあ?それは分からないわ。今の段階で分かるのは,ノーマンさんとレイさんが中心で数日で会社を立ち上げ,その後の1〜2日で大企業へと発展させたってことと,ノーマンさんとレイさんが凄ぉ〜くモテてて,モデルでもアーティストでもないのにファンレターやラブレターを大量に貰っているっていうことと,あと,レイさんが優秀過ぎて幾つかの取引先の相手から男女関係なくセクハラ行為をされたり,誘拐されかけたりしているってことだけよ。」
「一番最初以外どうでもいい話じゃねえか!!!っつか,セクハラされたり誘拐されたりしてるんだったら警察行けっつの!!」
「会社のイメージが下がってしまうことを懸念して行かなかったそうよ。あと,誘拐されたんじゃなくて,されかけたのよ。」
「会社のイメージなんか気にしてる場合か!!それに誘拐されかけたんじゃ,されたも同然だろ!!」
色々と脱線し,修羅場と化しかけているが,突っ込まずにはいられないコナンだった。
「こ,これこれ,新一くん!!少しは静かにせんか!!近所迷惑じゃろう!!」
阿笠が落ち着かせようと宥めるも,意味を感じさせる間もなく,コナンの怒号が響き渡った。
丁度コナンが哀に電話でレイ達のことについて話していたとき,皆は別れを惜しみつつも,それぞれ3つグループで分かれ,各々ノーマンに指定された場所へと向かっていた。
レイ達のグループは,住宅街にある,大きな2階建ての,白を基調とした家の前で棒立ちになっていた。
「此処が……私達の新しいお家…………?」
「………ああ。間違いねえ。此処だ。」
年少者が呟いた言葉に対し,レイは,自身の記憶と目の前の家を確認するかのように(ノーマンに一瞬だけ地図を見せてもらって覚えた。)目を閉じると,確信したようにはっきりと告げた。
すると,年少者の子達は,この綺麗で賑やかな場所が自分達の住む所だと理解すると,わあ〜!!と歓声を上げ,一気に家の中へと雪崩込んでいった。
「おい,お前ら!危ねえだろ!!」
『わぁ〜!!!』
レイの静止の声も虚しく,子供達の声に掻き消され,年少者はみんな,家の中へと駆け込んでいった。
「…ったく。あいつら。」
「あんなに急がなくったって,家は逃げねえのにな。」
「ああ。もう,ホントそれだよ。」
頭を掻いてレイに近付いたユウゴはレイに耳打ちをする。レイもそれに同意し,でも諦めたのか,はあと溜め息を溢すと,年少者とは反対に,ゆっくりとした動作で家の中へと足を踏み入れる。
途端に目の前に飛び込んできたのは,小さなシャンデリアが天井に数メートル間隔で吊るされ,大人数でも出入りのしやすい,大きな玄関だった。
「………おお。」
ユウゴは思わず声を上げる。
レイも声が出そうになったが,残念ながら,出ることは叶わなかった。足元に目が行ったためである。
「凄いな。レイ。」
「ああ。本当に凄いし広い。完璧だよ。…………脱ぎ捨てられて散乱してる靴がなけりゃあな。」
「………おお……。」
ユウゴの口から,今度は真逆の意味での歓声が漏れる。
顔を見合わせると,レイとユウゴは丁寧に靴を脱ぎ,全員分綺麗に揃えてから,奥へと進む。
その様子を,イザベラは眉を下げた状態のまま,眉間にシワを寄せて見ていた。
玄関を入って右側は,洗面所,その奥にトイレがあり,その丁度向かい側には風呂場があった。何ならその中には更衣室もつけられていて,その先にあるキッチンは,ダイニングと同じ部屋となっている。
また,その3m先には畳が敷かれて,その上には焦げ茶色の木目で,天板が楕円の形をしたローテーブルが置かれている客室,そのすぐ先は左右に分かれていて,右側は裏口になっており,左側は2階へと繋がっている階段がある。
その2階には上がってすぐの左側にトイレがもう一つあり,右側には部屋が全部で6つ一列に並んでいた。部屋自体は広くもないが狭くもない。どの部屋も二段ベットが入ってすぐの入口前に左右に分かれて一つづつ設置されている。その奥には勉強机があり,此方もベッド同様,左右に2つづつ分けて置かれている。
部屋が6つとリビングで,キッチンとダイニングが繋がっているため,7DKだとすぐに判断できる。
よくそんな家があったなと思ったレイだったが,元々自分達がインドに居たときに住んでいた家はこれよりも広かったことを思い出し,そうでもないかと考える。
部屋割りはママに考えてもらおう。レイはそう考えてくるっと半回転する。
部屋の向かいにはベランダがあり,そこの大きな窓には薄い水色のカーテンが取り付けられていた。
ベランダに出てみると,下には,緑色をした草が生えた美しい庭,家を囲むブロック塀が見えた。どれもこの場に合っているように見えたレイは,思わず頬を緩めた。
その様子を,ユウゴは横で父親のように見守り,イザベラは後ろからスパイのようにコソコソと隠れて見つめていた。
レイとユウゴが1階に戻ると,やけに騒がしい声が段々と,リビングへ近づいていくにつれて聞こえてきた。
みんな,はしゃいでいるのだろう。なんせ,ずっとピリピリしていたのだ。こうなるのも無理はない。だが,近所迷惑になってしまっては元も子もないので注意しようとリビングへと体を滑り込ませる。
と,案の定,年少者達がワイワイと騒いでいた。
「こら!お前ら!!近所迷惑だろ!!少しは静かにしろ!!」
レイが子供達に負けないくらいの声量でそう叫ぶと,全員,シーン………と静まり返る。
が,途端に子供達は一斉にレイへと一目散に近付いてきた。
…………いや,猛ダッシュしてきた。
『レーイ!!!』
「え?!うお!!」
子供達の全力のハグを,レイは咄嗟に後ろへ少しだけ飛ぶことで衝撃を和らげる。
ノーマンならば一瞬で倒れていただろうななどど考えていると,子供達のキラキラと輝いている瞳とパチッと合ってしまう。
「レイ!!!ご飯作って!!!」
「……………は…?え……。それだけ?』
「うん!!それだけ!!!」
子供達の意外な要求に目をぱちくりとさせる。
レイの心を読んだかのように次々に子供達が目を輝かせて言う。
「だって~!レイが居るんだもん!」
「レイが居るんだったらレイのご飯食べなきゃ損だよ!」
「え……。あ,いや……。そう思ってくれるのは嬉しいんだが,ちょっと早すぎねえか?朝食は飛行機の中で食べちまったし,昼飯はまだだけど,でも,まだ10時になったばっか……」
『それでもいいいの〜!!!』
「太るぞ,お前ら。」
『いいの〜!!!』
「いや,よくねえだろ。将来困るぞ。肥満にでもなってみろ。そしたら足腰に負担がかかって……」
『いいの〜〜〜!!!!!!!!!』
「よかねえよ!!!!」
今度は,子供達を思うがためにレイまで騒がしくしてしまっている。
このままでは本当に近所迷惑となり,地域住民から苦情が出るため,父親属性のユウゴ,兄属性のオリバーが止めに入る。因みに,ジリアンとぺぺは微笑ましそうに皆を見つめていて,マチルダは呆れたように,イザベラは何とも言えぬ表情でやり取りを見つめている。
暫くして,ユウゴとオリバーのお陰で漸く話が落ち着き,結局レイが子供達の熱意に折れ,早めの昼食を摂ることになったとかならなかったとか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
遅くなってすみませんでした!!
というわけで,取り敢えず今回はここまでです。
また,折り入ってお知らせがあるのですが,実は私,受験を控えている受験生なんです。なので,これから少々更新が遅くなるようなことがあるとは思いますが,どうか広い心でお許しください。
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ち、父親属性…:( ´ ꒳ ` ): あ、兄属性…( ,,>з<)ブッ