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大変遅くなってしまいました!申し訳ありません💦

今回のストーリーですが,以下の注意書きを見て,OKだという人はこのまま読み進めてくださって構いません。

このストーリーを読んでみて,もし何かあれば言ってくれて大丈夫です。


⚠注意

① コナン世界の人物で1人,私が勝手に年齢を設定しております。

② レイへの私のイメージみたいな,勝手な解釈が盛り込まれています。

③ 少々BLっぽいところがありますが,そんなことはありません。家族愛だと解釈してもらえたら嬉しいです。

④ マイク・ラートリーが少々遠回しに気持ち悪いです(そこから始まります)。



以上のことが大丈夫な方はお進みください。

では,本編へどうぞ!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






















羽田国際空港に,ある人物が降り立つ。

その人物は周囲をぐるりと見回すとスマホを取り出し,映った画像を見る。

と,途端にニヤリと不気味に笑った。


「さあ…どこまで逃げ切れるかな……?レイ。」


その人物はレイ達を追いかけているマイク・ラートリーで,スマホの画面に映っているのは……隠し撮りされたレイだった。






















ザワザワとしたある中学校のある教室。

その教室にいる全員が今,全く同じ話題で盛り上がっている。


「ねえ!聞いた聞いた?今日,このクラスに転校生が来るんだって!」

「え?うそ?!先生,そんな話してたっけ?昨日。」

「ううん。してないわ。何でも,急遽転校することになったらしくてね。さっき職員室で先生達が言ってたの,偶然聞いちゃったんだ!」

「へぇー!楽しみー!!どんな子が来るんだろう?」


二人の女の子がワクワクが止まらないとでも言いたげな顔で転校生の話題で盛り上がっている。

此処は帝丹中学校2年A組。

現在,帝丹小学校に通っている一人の弟を持つ円谷朝美は聞いたときから心待ちにしていた転校生のことで頭がいっぱいだった。

弟の円谷光彦のクラスには転校生が沢山来ているらしいが,姉である自分の所には今まで一度も転校生が来たことがなかった。

が,漸く,転校生が来るということで先程からずっと上機嫌である。

転校生が来たら,最初はみんな,話しかけているのだが,時間の流れとともにそれもなくなり,しまいには誰も見向きもしなくなってしまう。そしてその子は新しい環境に馴染めないまま一年を過ごすことになる。そんなの,寂しすぎる。

そこで,朝美は考えた。


(だったら私がずっと話しかけてればいいじゃん!)


そして自分を通して色んな人と仲良くなり,結果的にその子はこのクラスに,そして学年や学校にも馴染むことができる。

ワクワクドキドキが止まらない中,朝の予鈴が鳴ると同時にガラッと扉を開く音を立てて入ってきた先生に,朝美は意識して立てていた聞き耳と,読んでいた(視界に入れていただけの)本から意識を逸らす。

その先生の隣には黒髪の,左目が隠れてしまうくらい長い前髪を持った少年がいた。


瞬間,先生が入ってきたことにより静寂に包まれていたはずの空間に,再びざわめきが起こる。

特に女子が。


(((……わぁ…!)))


女子全員の心の声が一致した瞬間だった。

何を隠そう,その少年はとても端正な顔立ちをしていて,女子の心を鷲掴みにするには十分な要素を兼ね備えているのだ。

だが,朝美が周りを見回すと,ざわついているのは男子もそうだということが分かった。

確かによく見ると,少年は中性的な顔立ちをしている。

再びザワザワとし始めた教室内に先生が「静かにしろー!」と注意をする。

その声に一気にその場がシンと静まり返るが,内心としてはみんな,まだまだ話したりない状態である。

先生は,全員が黙ったことを確認すると,くるりと半回転して白いチョークで黒板にスラスラと達筆な字で何かを書き込んだ。

どうやら人の名前らしいそれは,転校生の名前のであることが予測できる。


「えー。紹介する。急遽転校してくることになったからお前達には言っていなかったが…新しい仲間だ。仲良くしてやってくれ。……君,自己紹介できるか?」


先生に言われ,転校生は,閉じていた瞳をゆっくりと開く。


「………………はい。」


かなりの間を取ってした返事は,小さく,呟くような独り言のようで一瞬聞き逃しそうになったほどだ。

やがて,その転校生はみんなに聞こえるのがギリギリであろうくらいの声量で口火を切った。


「…………睦月夏枝(むつきなえ)です……。宜しくお願いします…。」


その転校生の少年は,昨日日本に到着したばかりの外国人,レイだった。


























時は遡って昨夜。レイ達のグループはリビングに集まってある話し合いをしていた。


「学校に行くなら,偽名を考えないと。」

「ああ。」


オリバーの真剣な言葉にレイも肯定する。

でも,とジリアンが困ったように言った。


「偽名って言ってもどんな名前がいいのか分かんないじゃん。なんか他の国と違うんでしょ?日本人の名前って。」


それに年少者はうーんと腕を組んだり,頭に手を当てたりして考える。

それを見たユウゴがレイにちらっと目で合図すると,それに気付いたレイはコホンッと咳払いをし,自身に注目した子供達を見回して日本人特有の名前についての説明をする。


「俺達にはミドルネームが………ねえけど,普通の人はあるだろ?俺達の場合,つまり日本人じゃない場合はミドルネームが後ろにくるけど,日本人はその逆で,ミドルネームが前にくるんだ。…まあ,日本はミドルネームとは言わずに,『氏名』とか,『名字』とかって言ってるらしいけどな。でも,大体が『名前』って言ってるらしい。因みに,後ろにくる名前はそのまんま『名前』って言ったり,『下の名前』って言ったりしてるらしいけど……。」


と,レイが説明し終わるとその場がシンと静まり返る。

すると,その静寂をやや控えめに打ち破るようにしてアンナが「あの…」と手を挙げる。


「レイ。もしかして……日本語って……………難しかったりする……?」

「する。」


アンナの言葉を予測していたかのようにレイが即答する。しかも,その口から発せられた言葉はたったの二文字。

みんなは一瞬,何のことを話していて,何を言われたのか理解が追いつかなかった。

そして,数秒後に理解が追いついた。


「「「駄目じゃん!!!!」」」

「だからレイに任せるんだって,ノーマンも言ってただろ。」

「落ち着け。」


見事に揃った子供達の声に、ユウゴとレイがすかさず突っ込む。

すると,ジェミマが眉を下げて困ったように手を挙げた。


「ねえレイ。……私達,全然日本人っぽくないけど……大丈夫なの…?」


ジェミマのその問いに,年少者だけでなく,全員がハッとして不安そうにレイを見つめた。

レイはそれに気付くと,優しく微笑みながら,ジェミマの頭を撫でる。


「大丈夫だジェミマ。生まれは日本だけど,育ったのは海外のハーフだって言えばいい話だし,ノーマンがそれを考慮してないはずがない。何かしらの対策はしてるだろうから。」

「…どんな?」

「……そうだな…。例えば,戸籍を偽造するとか。……犯罪だけど。」


でも,それ以外あんま良い方法じゃねえし,それが最善だから。と,レイは苦笑しながら言ったが,GV出身者は気付いている。

【それ以外あんま良い方法じゃない=他にも方法はある】という方程式が出来上がるのだ。

自分達も,戸籍を弄るということくらいは思い付いたのだが,それ以外思い付きもしないのに。いや,まず,その【他の方法】とやらの説明を受けても理解などできぬだろう。


改めて思う。


(((GF怖ぇー!!!)))


そんなGV出身の家族達の心情を知る故もないレイは,一旦,ジェミマの頭から手を離すと,全員を見回してから,再び口を開く。


「取り敢えず,全員の偽名は俺が考える。みんなは,どこの学校に行くかを決めといてくれ。勿論,此処から近いところな。じゃないと,ノーマンやエマ達とかぶっちまうかもしれねえし。それじゃ,わざわざ分かれた意味がねえからな。」

「この米花町内の学校ってことか?」

「ああ。そうだ。」


ナイジェルの質問にレイは肯定すると,目を閉じ,顎に手を当てて全員の偽名を考えるべく,高速で頭を回転させる。

それを見た子供達は,ノーマンから預かっていた米花町の地図と米花町内の学校のパンフレットを机の上に広げワイワイと瞳を輝かせながら行きたい学校を決めていった。(家具は最初からあった。気にしてはならない。byレイ)





そうして,10分後………………









大人とレイ以外の子供達が寝落ちた…………。

































「ね!夏枝君!!何処から来たの~?」

「…………………………インド。」

「え?!インドの日本学校に通ってたの?!すごーい!!」

「……………いや……凄くはないけど……。あと,日本学校には通ってない………。」

「え!?インドの人と同じ学校行ってたの〜?じゃあ,英語完璧だね!」

「………………まあ………うん……。」(←常用語なので。)

「じゃあじゃあ,どうしてこっちに戻ってきたの〜?」

「え……?えっ…と…………………家族を……守るため……かな…。」

「えー?!何それー?!よく分かんないけど超カッコイイじゃん!!!」


朝美の隣の席についたレイは早速質問攻めにあっていた。特に女子に。

元々人見知り傾向のあるレイは,そのあまりの質問量と,ついて行くだけで疲れそうなノリ………ではなく,盛り上がりっぷりに,若干引いてしまう。

…………生理的にも,物理的にも…‥。

まだ学校に通っていなかったレイは,2つ目の質問?にどう答えるべきか迷ったが,一応日本人の認識としては,中学校までが義務教育であるということは知っていたので,とりあえず通っていたということにした。

嘘が上手くつけず,曖昧にだが,ほぼ正直に話してしまっているレイは,ふと,女子の間を割って入ってきた男子達が,レイに近寄ってきていることに気付いた。そして,一番触れてほしくなかった所にさらっと触れてくる。


「てかさ,『夏枝』って結構可愛い名前だな。漢字も。女子みたいだし。」

「あー!確かに確かに!!言えてるわ~!」


一人の男子生徒の言葉に他の生徒も男女構わず同感だと言わんばかりに,歓声と笑い声を上げる。

そのクラスメイトの様子に,レイは興味の無さそうな仮面を貼り付けつつ,心の中ではユウゴへの怒りがまたもや蓄積されていった。


(ッチ…!ユウゴ…‥巫山戯た名前にしやがって…!)


皆さん,もうお気付きだろうか?そう。レイの名前はユウゴが考えたのだ。何故なら,ユウゴがやりたいと言い出したから。

『睦月』はレイの誕生日である1月の旧暦,『夏枝』はNormanとEmmaの頭文字NとE,共通してある,m,aのアルファベットの内のaを取って並べ替えたものである。

『夏枝』という漢字もユウゴが考えたもので,レイが変える前にユウゴはもう勝手に帝丹中学校に『睦月夏枝』の転入手続きをしてしまったのだ。勿論,あのユウゴなのだから確信犯だ。

レイは何度目か分からない溜息をひっそりとついた。

と,同時に授業開始のチャイムが鳴り響き,レイ………いや,夏枝の周りに集まっていた生徒が一斉に着席する。

先生の声を聞きながら,夏枝はまた,溜息をついた。






























「夏〜枝君!!一緒に帰ろ?」


レイは左隣からした声に荷物を纏めていた手を止めて前髪越しに自身の左側を振り返る。


(…………確か……円谷朝美……。)


今日,教師に見せてもらったクラス全員の名前が入った座席表にあった自分の隣の席の人物の名前を思い出すと,無表情のまま,心の中で納得する。


「……………一緒にって……俺の家の場所,知ってるの?」

「え?知らないよ?」

「え?」

「え?」


レイの質問に朝美はキョトンと目を瞬かせ,さらりと首を左右に振って答える。

その朝美の返答に,今度はレイの方がキョトンとなる。


「…………………え……?え…。知らないのに一緒に帰ろうって…………逆方面だったらどうする気…?」

「え?そんなの,私が遠回りして帰ったら良くない?」

「え?」

「え?じゃあ,一応確認はするけれど…夏枝君,家どっち方面…?」


もう一度お互いに聞き返す。もう,二人共,切り出しの言葉が「え?」になっている。レイに至ってはもう,ほとんど「え?」しか言っていない。


レイはマイクにバレたときの危険もあり,あまり他人と関わりたくなかったため,勿論住所も教えたくはなかったのだが,曖昧に答えると不審がられてしまうのと,人間界に来てから嘘をつくことが嫌いに……いや,あまりできなくなり,クラスメイトに質問攻めされたときもそうだったが,正直に話すしかなかったため,事実が口をついて出てしまった。


「……………えっと……。米花…公園の……」

「じゃあ,私のとこと同じだね。一緒に帰ろう。」


笑顔だが,有無を言わさないその表情とイントネーションに,レイは一瞬迷ったが,俯きつつも,小さく頷いた。



















「あ!光っちゃん!」


レイは,朝美と談笑しながら帰っていると,(ほぼ朝美が一人で喋っていた。)急に前方の小学生の群れに向かって大きな声を張り上げ,大きく手を振り出した。


「え…?あ!お姉さん!!」


朝美の大声に反応した小学生の内の一人の男の子が振り返り,朝美の姿を視認すると笑顔で手を振り返した。


「…………お姉…『さん』?」


「お姉ちゃん」でも「姉さん」でもなく『お姉さん』と言った少年に,レイは少々驚き,友達と一緒に走ってきた少年を見る。

その少年は頬にそばかすがついているが,朝美にそっくりで血縁だということがすぐに分かった。

すると,レイの小さな呟き声が聞こえてしまったのか,朝美が苦笑して答えた。


「うちの両親,二人共教師だから,言葉遣いに厳しいのよねぇ。」

「……そうなんだ。」


納得したようにレイが言うと,その少年と一緒に歩いていた子供達が瞳を輝かせた。


「あ!朝美お姉さんだ〜!」

「久し振りだな!!」

「みんな,久し振り!!光っちゃんがいなくなったとき以来だね!」


先程から光っちゃんと呼ばれている,朝美と血縁らしい男の子についてきた,カチューシャをつけた女の子が嬉しそうに駆け寄ってくる。少々……いや,まあまあ(実際はかなりといったほうが正しい。)丸い体型をした男の子も駆け寄ってくるが,敬語は使わず,タメ口で威張りつつも朝美に笑顔で声をかけた。

朝美はその少年の言葉遣いを気にする様子もなく,ニッコリと笑って子ども達に負けないくらいの元気さで応える。(居なくなったという言葉は聞こえなかったことにする。)

すると,子供達の興味はレイに向いたようで,カチューシャの女の子がキョトンと首を傾げてレイを見つめた。


「お兄さん,だあれ?」

「見たことありませんねぇ。」

「兄ちゃん,もしかして彼氏か?!」


カチューシャの女の子,そばかすの少年,太った少年と言う順番でレイに質問が寄せられる。

レイは子供達の目線に合わせるために膝を曲げると,3人共を見回してから口を開いた。


「…………睦月……夏枝……。今日,円谷さんのクラスに転校してきた。」

「えー!?今日転校してきたの?お兄さん!」

「………ああ…まあ……。」

「え?え?ぼ,僕,聞いてませんけど?!」

「……きゅ,急遽…転校…することになったから……。」

「あ~あ!なぁ〜んだ!つまんねえの!」

「……え…?ごめん……。お前が言いたいことは…よく分からん…‥。」


口火を切ろうとしてもやはりこの名前に少々抵抗があり,日頃からの癖というものもあって,自分の本名を言いそうになったのと,あと,相変わらず人見知りの方が勝ってしまい,子供達の目線に合わせてから名乗るまでにかなりの間が開いてしまったがそれでも子供達は反応してくれたことにほっと息をつきつつ,一つ一つに言葉を返していく。

ちらりと先程から向けられている視線の先を辿ると,案の定,そこには,どういう縁なのか,散々自分の事を探ってきたコナンが居た。その隣には,ハーフなのか,赤みがかった茶髪で,ウェーブをかけている,大人しそうな少女もいた。


「…………灰原……。」

「ええ。間違いないんじゃない?実際に合って話したあなたがそう思うなら。私は写真で見ただけだから。」


コナンと哀が小声でやり取りをする。

レイにはその会話は聞こえないが,唇の小さな動きで何を話しているのかは分かった。

話の内容からして自分のことだろうと思ったレイは,自分のことをコナン以外に知っているのは,ここに居る子供達の中では少なくともあの少女だけだろうと結論づける。

一方のコナンはレイに向けていた視線を驚きのものから,鋭く,射抜くような眼光に変え,同時に思考を巡らせる。


(睦月…夏枝…だと…?おかしい。あの人の名前は『レイ』だったはず。あの人の側にずっと居た人達がそう呼んでいたし,何より,灰原が調べてくれたんだ。間違いないはずなのに…。)


それに,とコナンは思う。


(まず第一に,あの人は日本人じゃない。本人がそう言っていたのに……名前だってそうだ。一体,どうして日本人の名前を名乗ってるんだ…?一体何のために…‥。)


分からない。全てが謎だらけだ。

分かったこととしては,睦月夏枝が偽名であることのみ。

だが,その目的も,意味も分からない。




(また俺,怪しまれてる。)


レイは誰にも気付かれないよう,小さく溜息をつく。ここ最近,ずっと溜息ばかりついているようにも思えるが,致し方ないだろうと思う。

もう説明が面倒くさくなってきたが,色々あった結果がこれなのだ。もう疲れるのなんの……。

思わずもう一度溜息が出てきそうになったとき,下から学ランを引っ張られ,レイはハッと我に返った。

レイが目線を下に戻すと,先程の3人の子供達がキラキラとした目で自分を見上げているのに気付いた。


「?どうしたんだ…?」


キラキラとした光あふれるその目に,心は強く逞しく成長していても,体はまだまだ幼さを残している弟妹たちを思い出し,無意識に頬を緩めて優しく問いかける。

此処に来て,初対面の人相手に初めてまともに笑った気がするなと感じつつ,子供達の返答を待っていると,更に瞳を輝かせた子供達は喜々として声を揃えた。


「「「お兄さん!!私/僕/俺達が米花町を案内してあげる!!!」」」

「…………え?」


ニコニコとした笑顔で言われた言葉にレイは珍しくキョトンとしてしまう。

子供達はそんなレイの様子に気付いていないのか,ピシッと謎のポーズを決めた。


「「「だって僕達!私達!俺達は!…少年探偵団なんだから!!!」」」

「………は?」


今度こそ素の声が出てしまい,レイは慌てて「どういうこと?」と問いかける。

幸い,子供達はレイの切り替えの速さについていくどころか気付きもしなかったので嬉しそうにレイに話し出す。


「お兄さん,今日転校してきたんでしょ?だったら,米花町案内してあげようと思って!」

「今お姉さんから聞きました!インドから来たんですよね?」

「俺たちは少年探偵団だからな!困ってる人が居たらすぐに助けるのが役目なんだぜ!」

「え…?いや…それは良い心がけだけど……俺は……別に,困っては………」


ないけど……。と言おうとしてレイは止めた。

子供達の曇りなき眼(まなこ)を見て,うっと言葉に詰まったからだ。

レイはハウスに居た頃,見殺しにしてしまうのだからと,せめてもの思いで,兄弟達の願いはできる限り聞いていたが,(鬼ごっこはパス。脱獄のために読んでいる本の時間が無くなってしまうため。)脱獄してからはそれがヒートアップし,守らなければならないという使命もあったために,家族のおねだりにめっぽう弱くなってしまったのだ。

無論,今レイにおねだりしている子供達はレイの家族ではない。が,小さな弟妹たちとどうしても重なってしまい,米花町の地図は完璧に頭に入っていると分かっていても,断るに断れなくなってしまった。

そして,その結果が,


「………………………ょ……ろしく……。」

「「「任せて/ろ/下さい!!!」」」


これである。

子供達の勢いに案の定,圧されてしまったレイはとても,とっても小さな声で肯定の意を示した。

それに子供達はこれでもかと言わんばかりにキラキラと顔を綻ばせ,レイの両手を取って引っ張っていく。


「あ!私歩美!!宜しくね!!」

「僕は光彦です!もうお気付きだとは思いますが,朝美お姉さんの弟です!!」

「俺は元太だ!宜しくな!兄ちゃん!!」


そのままレイを引っ張って走って行った子供達に,慌てて朝美,コナン,哀の3人は先を行く子供達を追いかける。


「ちょっと,光っちゃん!!待ってよ~!」

「っおい,お前ら!!」

「はぁ…。やれやれ。」


子供達のお陰で,空気が少々和やかな雰囲気になりつつあるが,コナン達も,勿論レイも知らない。この後,ある場所で恐怖のかくれんぼをしなければならないことに。


























「エマ達もレイ達も…元気にしているかなぁ…。」


米花町から随分離れたところにある町の住宅街にある一角。一際大きく目立っているその建物では,夕日が沈みかけているオレンジ色の空を遠い目で見つめながら溜息混じりにぼんやりと呟くノーマンの姿があった。

空のオレンジ色と,明るくて自分が憧れ続けている親友の少女とが重なる。これから暗くなったら,その暗い夜空に,黒髪で自分の良き親友であり,ライバルでもある少年を思い浮かべるのだろう。

ノーマンは,はあ……。と,何度目か分からない溜息をつく。


(………離れ離れになんて……なりたくなかった…。もう…‥二度と‥‥。)


それなのに…!とノーマンは歯噛みする。


(マイク・ラートリー……。何を考えているんだ…?

それと…‥組織‥‥?一体何の組織だ…?)


家と言うには広く,屋敷と言うにはほんの少し狭い住居の廊下を,頭を回転させながら迷いなく歩いていく。

床を睨みつけるように歩いていくと,一つの両開きの扉が足元の方だけ見えたところで足を止めた。

だが,ノーマン持ち前の頭は止まることを知らないかのように高速で回転し続ける。

今度は少し顔を上げて目の前の扉を睨みつけるように眼光を鋭くする。


(今の段階では,まだ,推測の域を出られない。ならばまず,僕らに必要なのは情報だ。情報を徹底的に集めるんだ。そして,これからの戦略を立てていく。)


マイクが襲撃してきたときのことを思い出すと,腹立たしくて仕方がないが,もう一つ,気掛かりなこともある。

分かれる前,レイが気にしていた少年のことだ。

レイはその少年のことをとやかく言っていたわけではなかったが,何かと気にしていたことは空港で合流した時になんとなく気が付いていた。

そのことを聞こうとしたら当の本人であるレイが事件に巻き込まれてしまい,その後も色々あって,時間がなかったこともあり,聞くに聞けず終いとなってしまったのだった。

幸い,名前は分かっているので,あの少年のことも一応調べておこうと考えたノーマンは,深く息を吸い,吐き出すを2回ほど繰り返し,両開きドアを両手で力一杯押して開いた。




























「「「最初はグー!ジャンケンポン!!!」」」


子供達の元気な掛け声で7人の右手が出される。

レイは今,考えることを放棄しているところだった。

歩美,元太,光彦に町内を案内されていたはずが,何故じゃんけんなどをしているのかというと,只々案内するだけのルーティンに子供達は飽きてしまったようで,じゃあということで,誰からともなくかくれんぼをしようと言い出したのである。

朝美とコナン,哀もかくれんぼに(強制的に)参加し,歩美,元太,光彦の掛け声で一斉に手を出す。(因みに,レイはまたしても子供達のキラキラとした瞳に負けてしまった。)


「あ!勝った~!」

「僕も勝ったので隠れる側ですね。」

「うげっ!鬼…コナンかよ。」

「まあ,すぐ見つかるでしょうし,此処,明日取り壊す廃ビルみたいだからさっさと切り上げて帰っちゃいましょう。」

「よ~し!コナン君から逃げ切るぞ~!」

「……………」


じゃんけんの勝敗は一発で決まった。パーが歩美,元太,光彦,哀,朝美,そしてレイだ。逆に,グーを出したのはコナンただ一人。つまり,今回の勝負は負けたコナンが鬼で,残りの勝ったメンバーは隠れる側だ。

だが,レイの頭にはそんなことは入っていなかった。


(鬼……。)


鬼という単語一つに反応してしまう自分に嫌気がさす。

そして,それを聞くたびに思い出すのだ。自分が見殺しにした,兄弟達の顔を,声を,そして…‥悲鳴を……。

実際に殺されたところなど,一度も見たことはなかった。でも,いつも夢に見ていた。兄弟が出荷されていった日の夜はいつも。7歳の頃からは,ほぼ毎日夢を見ていた。兄弟達が自身に恨み言をいい,追い詰め,死への道へ引きずり落とそうとしている。そこで目が覚めるのだ。おかげで寝不足が増し,気が付けば,それが自分の普通になっていた。脱獄してからは,精神的にほんの少し安定してきたのか,毎日のように夢に侵されるということはなくなっていった


「………………,ぉ……さん…!夏枝お兄さん!!!」


まだ声変わりのしていない女の子の高い声が左耳を通して右耳の奥に響き,レイはハッとして辺りを見回す。

自分の左の足元には心配そうに眉を下げて見上げている歩美が居た。


「お兄さん,大丈夫…?なんか,難しい顔してたよ?」

「…っ……あ,ああ。大丈夫だよ。心配かけてごめんな?」


一気に現実へと引き戻されたレイは,一瞬ポカンとした顔を浮かべたが,すぐに頭を切り替え,歩美の目線に合わせるためにしゃがみ込み,安心させるために頭を撫でる。

可愛い妹の一人であるジェミマに重なったことでの行動だったが,勿論,そんなこと知る故もない歩美は,えへへと嬉しそうに顔を綻ばせると「なら,良かった!」と言った。レイはそれに,表面上ではほんの少し頬を緩めて優しい笑みを浮かべるが,内心では,出荷されていった子供達のことも思い出してしまったため,後悔するように,自身を責め立てるように,顔を歪めていた。



そんなレイを見つめていたコナンと哀は,驚きに目を見開いていた。


「……は,灰原…‥!」

「…ええ。彼,左耳が聞こえないのかしら。」


そう。歩美はかなりの声量で声を掛けていたにもかかわらず,レイは全く見向きもしなかったのだ。

ラムの左耳がどうとかは聞いたことはないが,左耳になにか,障害があるのは明らかだった。


最も,レイはハウスに居た頃,発信機の実験をしていたと言っていたが,それは兄弟の耳でやっていたのではなく,自分の耳でやっていて,おまけに,脱獄する際にエマが発信機を取り出したため,左耳だけ聞こえづらくなっただけなのだが……。(エマのやり方がめっちゃ下手くそで,自分でやるよりもめっちゃ痛かったというのも恐らく原因で,その証拠として,暫く左耳とその周囲の体の感覚がおかしかったのだ。因みに,エマは根本から切り落としているため,勿論,何も聞こえない。)


「よし!んじゃあ,数えるぞ!みんな早く隠れ……」

「ちょっといいか…?」


早く終わらそうと,コナンが急かすように全員に呼び掛ける声を遮って,レイは片手に愛用の懐中時計を持って一つの提案をする。


「あんま長引いちまうと色々大変だし,時間決めとこうぜ。‥…そうだな,30分でどうだ?」


レイの提案にそれぞれお互いの顔を見ると,今回の鬼役であるコナンに視線を集める。

コナンは最初,レイを睨むように見つめていたが,ふと,自分も愛用している腕時計(型麻酔銃)をちらりと見て小さく頷く。


「……うん。そうだね。そのくらいが帰るのには丁度いいかな。」

「んじゃ,決まりだな。」


レイは,立ち上がって懐中時計をポケットの中へ丁寧に仕舞うとその場にいる全員の顔を見回す。そして,コナンに向き直ると,唇の端を持ち上げ,宣戦布告する。


「なら,こうしようぜ。俺達の中の誰か一人でも逃げ切ることができたら俺達の勝ち,逆に,お前が俺達全員を捕まえることができたらお前の勝ち。どうだ?おもしれえだろ?」


歩美達はわあ!!と満面の笑みを浮かべ,おもしろーい!!と大喜びしているが,コナンにとっては挑発されたとしか言いようがないそれに,ピクリと眉を動かすと,とても小学生らしいとは言えない,ニヤリとした笑みを浮かべる。


「…いいね,それ。受けて立つよ。」


コナンのその言葉でかくれんぼという名の駆け引きが始まった。

































「はい,元太みぃ〜っけ」

「ちぇっ…!見つかっちまったじゃんか!!」

「えー!元太君まで〜!」

「早すぎですよコナン君!!」

「まあ,仕方ないんじゃない?鬼が江戸川君なんだったら。一生…‥いいえ,永遠にこうなるわよ。」

「つまり,コナン君はかくれんぼが強いってことだね!!すっご〜い!」

「え,えへへ…。ありがとう朝美お姉さん。」


コナンは開始早々,歩美,光彦,朝美,哀,そして元太という順番で,順調に隠れていた場所を的確に当てて見つけ出していく。

残るはコナンにとって本日の本命である夏枝,もとい,レイだけである。

コナンは,ふうと息を吐き出すと,腕時計をちらりと見た。つられて,子供達も自身の腕につけてあるそれを見る。すると,残り時間は丁度あと10分となっていた。


「あと残り10分…。さて,時間内に江戸川君が彼を見つけるか,それとも彼が貴方から逃げ切るか……。ふふっ。楽しみね。」

「灰原……。お前なあ…。」


この状況を楽しんでいるらしい哀に苛立ち半分,呆れ半分で軽く睨むが,そんなことも気にしていない彼女は,クスクスと笑っている。

コナンは一つ溜息をつくと,口角を上げて歩き出そうとし,一歩踏み出す。


「さてと……ちゃっちゃと見つけに行くか。」

「コナン君!!」


もう既に踏み出していた足を止めさせた歩美から呼び止められてコナンはくるりと後方を振り返る。

見ると,歩美だけではなく,哀以外のみんなが懇願するような瞳を向けていた。


「私達も行かせて!!」

「え?何で?」

「夏枝お兄さんが勝つのか,コナン君が勝つのか,見ておきたいの!!」


歩美のその言葉に,コナンは思わずポカンとしてしまう。


「んなの,俺らが帰ってきたら分かるだろ?何でわざわざそんな……」

「結果じゃなくて,その過程を知りたいのよ。私達は。」


それとも,私達がついて行ったら駄目なのかしら?と子供には似ても似つかないだろうその余裕そうな顔で哀にも挑発されたコナンは,半目になりながらも,「………分かった。」と了承した。そして,レイを探しに行ったのだった。


























結果はレイの勝ちだった。

4階の天井裏に隠れていたらしい。そこはかなり狭く,小さな子供がやっと入れるくらいの空間だったため,コナンも,他のみんなも,そこには隠れられないだろうと思っていたのだ。いや,そもそも,天井裏に隠れるなどとは思いもしなかったのだろう。

制限時間が過ぎても探し続けるコナンが,みんなに言われて渋々白旗を上げると,真上から「一旦そこ,退いて。危ねえぞ。」というレイの声が響き,反射的に後退すると,スタッという軽やかで美しい音を立て,美しいフォームで着地してきたのだから,みんなたまげたものだ。

勿論,コナンは拗ねてしまい,レイは終始ニヤニヤとしていた。

おまけに,哀には,


「残念だったわね。ま,そういうこともあるのよ。」


と,心にも思っていないであろう情けをかけられた。

返す言葉のなかったコナンは,歩美達だけでなく,朝美にまで賞賛されているレイを見上げた。

すると,レイはその視線に気付いたのか,子供達から一旦離れると,コナンの方へと歩み寄ってきた。

そして,小さな声で囁く。


「俺には敵わなねえって………あの時に,もう,分かってたと思ったんだけど?」


その言葉を聞いた瞬間,コナンは本題を思い出した。

そもそも,コナンは,鬼になったときに,レイのことを探るつもりでいたのだ。それが,そこらのガキみたいにかくれんぼに夢中になりすぎて,その本題を今の今まで忘れていたのだ。

ハッとしたコナンはレイを睨み上げつつも,子供らしく文句を言おうと思い,口を開こうとするが,当の本人であるレイは既にこちらを見ていなかった。それどころか,驚いたようにコナンの背後を凝視している。

つられて,コナンも後ろを振り返ると,そこには,青い作業服を着た若い男が4人いた。

………いや,正確には,1人の男が指示を出し,あとの2人は頭から大量の血を流して死んでいる男を運んでいた。


「!!!!!?…ひっ…‥!」


誰かが小さい悲鳴を漏らす。

すると,3人ともが此方に気付いたのか,コナン達は男達と目が合ってしまった。


「逃げろ!!!!」


レイが大声で叫ぶように指示を出す。

すると,歩美,元太,光彦,朝美は弾かれたようにすぐ後ろにある階段に向かって一直線に走り出す。

と,レイは先程まで話していて自分のすぐ足元に居たコナンと哀を抱えあげて先に階段に向かっていった子供達を追いかけるようにあとに続く。


「おわっ…!」

「ちょっ…!」

「黙ってろ!!」


レイはコナン達を抱えたままそのまま階下の踊り場へ直接飛び降りようとする。


「…チッ!」


指示を出していた男が大きく舌打ちをし,内ポケットを探ると,取り出したそれをレイに向けた。

それは,拳銃だった。





バァン!!!!




夕日が覗いた空の映る2枚のガラスに夕日よりも濃い,赤色が散った。






































「う~ん…!開かないよぉ~!!」

「俺達,閉じ込められちまったじゃねえか!!!」


歩美と元太のその声にハッと今の状況を思い出したレイは,前方を見る。

するとそこには,何時の間に閉められたのか,銀色の褪せたシャッターを持ち上げようとしている歩美と元太がいた。


「うーん……あ!そういえば,この建物の前にあった看板,今日の午前中に立てられたものらしいんだけど,その立て看板に,『取り壊しは明日の午前中に行います。シャッターは今日の午後7時に閉めますので,出入りは禁止とさせていただきます。』とか,なんとかって書かれていたような……」

「それを早く言ってくださいよ!!」

「仕方ないでしょう?!だって,此処でかくれんぼやりたいって言ったのは貴方達なんだし,すぐ帰れると思ったから…‥」

「えー!?じゃあ歩美達,ここからどうやって出るのー?」

「くっそ!!これじゃあ家に帰れねえじゃねえか!!俺,腹減ったのにぃ~!」

「元太くんはいつもそれじゃないですか!!もっとほかに大事なことあるでしょう!?」

「こ,こらこら!喧嘩しないの!!」


朝美の言葉に全員が各々の反応を示す。

その様子を見ながら,レイは気付かれないように身体を丸める。ズキズキと痛む腹を押さえ,唇を噛み締めた。

哀とコナンは何時ぞやにあった,似たような光景に,揃って溜息をつく。が,哀はコナンを責め立てるように見つめた。


「それもこれも江戸川君のせいね。貴方がいつまで経っても降参しようとしないから。」

「!…わ,悪かったな!」


そう。レイは立て看板を見ていたため,長引いてしまっては大変だと思い,制限時間を設けたのだが,コナンの方は立て看板の存在を知らないまま此処へ入ったため,レイに挑発されたと勘違いし,(実際,挑発していたのは事実だが……。)レイを見つけようと長引いてしまい,結果,こうなったのである。

レイの方はといえば,天井裏が思っていたよりも狭かったため,入って寝転ぶことのできるスペースしかなく(レイは案外華奢。勿論,母親譲りである。)ポケットから懐中時計を取り出せなかったのだ。

コナンはもう一度溜息をつくと,壁にもたれ掛かっているレイに近づき,話しかけようとした。


「ねえ,お兄さ……!!!?お,お兄さん?!それ…!!」

「?…コナン君…‥?どうしたの?」



コナンが驚いたような声を上げると,朝美が心配して声をかける。

だが,コナンの頭には,朝美の声は聞こえていなかった。


「お兄さん…!!もしかして…‥犯人が撃ったあの弾が当たったの?!」


コナンのその叫びとも言える声に,シャッターを開けようとやけになっていた歩美と元太,光彦もくるりとレイの方を振り返る。

と,そこには,腹から大量の血を流しているレイがいた。

コナンの声やみんなの驚きの視線にレイはハハッと自嘲するような笑みを浮かべる。


「あ~あ…バレちゃった……。」

「バレちゃった,じゃないでしょう?!貴方,撃たれていたのなら先に言いなさいよ!!」


何とも思っていないようなレイのその様子に,哀はズカズカと詰め寄りながら声を荒げる。

だが,それにもレイは苦笑を漏らすばかりでちっとも反省していない。

これが喧嘩だったらすぐにでも止めればいいだけなのだが,レイの腹からとめどなく赤い血が流れていっているという事実が,今の状況がひっ迫しているということを物語っていた。

哀が目つきを鋭くさせてレイを睨むが,当の本人であるレイは,少し眉を下げて「意味無いじゃん…。」と言った。


「え…?」

「え…?お兄さん…何言って……」

「だって…意味ねえじゃん……。どーせシャッター開けらんないんだから…‥言ったって……何かなるわけじゃ…ないだろ?」


そのレイの言葉に全員がハッと気付いたように眉を下げて俯くが,哀は耐えきれないとばかりに怒鳴りつける。


「それでも言いなさいよ!!!!応急処置くらいはしておかないと……!!」

「大丈夫…。問題ない。………血管を…‥焼き切れば…いい…だけだし……。」


大丈夫……。とレイは自分に言い聞かせるかのように何度も言う。

だが,その声は途切れ途切れで,徐々に息も荒くなり,苦しそうに眉を寄せているため,説得力というものが欠片もない。

哀はぐっと拳を握り,ギリギリと奥歯を噛み締める。

レイはその様子に十中八九気付いているのだろうが,気付いていないふりをしてポケットからスマホを取り出し,ものの3秒程で何処かにメールを打ち込んだ。

あまりの速さに,子供達が驚くが,そんな暇も与えず,レイは,「どうすんの……?」とコナンに問いかける。


「………え…?」

「いや……え?じゃ…なくて……これからどう…‥すんのさ?………だって……あいつら……‥どうにか…‥しないと……。」


今にも消え入りそうなレイの指摘に全員がハッと気付き,我に返る。

みんなが考える中,コナンは眉を顰めてレイを見た。


「どうにかしないとって言ったって……お兄さん,その状態で何をどうする気…?どうやって逃げるの?」


子供達がレイを抱え上げるなんて芸当,無論できない。かと言って朝美がそれをできるかと問われれば,レイは身長が平均よりも少し高いため,勿論できない。

そんなコナンの質問に,レイは薄く目を開くと,途切れ途切れだが,呆れたように声帯を震わせる。


「んなの…決まってるだろ……普通に…逃げりゃあ…いい……。」

「駄目だよ!?死ぬよ?!」


朝美が思わず突っ込む。

だが,レイはそんなことには動じず,「死なねえよ……。」と溢す。

すると,レイは溜息を溢し,「んじゃあ……こういうの……って……どうだ…?」とある提案を持ちかけた。


「俺が囮になるから……お前らは……その間に…逃げ………」

「「「「「「絶対に駄目!!!!」」」」」」


その提案は,言い終わる前に,コナン達からの猛抗議で却下された。



























「………あ?」


子供達を始末しようとして1階に降りてきた男の1人が思わずといった風に声を上げる。

男達から2メートル程離れた扉の開いている隙間から,茶色いランドセルがちらりと見えているのが視認できたのだ。

あれで隠れているつもりか,と男達は心の中で吐き捨て,リーダーの男がもう2人の男に顎で目の前の扉を示す。

それに2人の男達は,ニヤリと笑うと,扉に近づき,一気に手前に引いた。

だが,そこの部屋はもぬけの殻だった。


「!!!…なっ!!?」

「!!…何処行った!?」


男達が部屋の前で固まっていた,その時。


バンッ!!!


と,盛大に扉を開く音がした。

男達が慌てて背後を振り向くと,赤みがかかった茶髪の女の子と,中学生くらいの女の子が,男達からさほど離れていない部屋の扉から逃げていっているのが見えた。


「チッ!!ガキのくせに…!!」


細身の男が忌々しげに舌打ちをし,2人もの子供を追いかけようとする。が,リーダー格の男がそれを止める。


「待て。行くな。」

「!!…ボス?!何言ってるんですか!!」

「そうですよ!!早く追いかけて始末しないと……!!」

「奴らは囮だ。」


細身の男が驚いたようにリーダー格の男を見つめた。

それに同情して,かなり筋肉質な体型をしている男も口を挟むが,ボス,と呼ばれた男は気にせず言葉を続けた。


「ガキの囮など,いつでも殺れる。まずは,まだ部屋に隠れているガキどもだ。………恐らく,わざわざ囮を出してきたということは,何か仕掛けてくるつもりか,もしくは怪我人がいるか。」


ボスのその言葉に2人の男はハッとしたようにお互いの顔を見るが,やがてその顔は勝利を確信したような,ニヤリとした笑みに変わる。


「ボス……。もしかして,あの弾……。」

「ああ。当たったんだろう。」


ボスもつられて,ニヤリと不気味に笑う。

男達はその笑みを崩さぬまま,先程の子供達が出てきた場所のドアノブに手をかけ,部屋の中に入った,まさにその時。


「「「「せ~のっ!!!」」」」


大きな掛け声が聞こえてきたかと思うと,今度は上からバフンッという派手な音を立てて何かが男達の頭上に落ちてきた。


「っうわあ!!」

「何だこれは!?」

「!!!?…どうした?!」


先に入った男2人がその何かに押しつぶされて身動ぎする。

その声に驚いたもう一人の男は銃を構えながら部屋の中を覗く。

するとそこには,ボロボロで,色褪せている毛布が男2人の上に被さっていた。


その様子を,ホッとして見ている子供達もいる。


2人が暴れているのを見た男は,かえって冷静になり,一番入口近くに居たカチューシャの女の子に銃口を向ける。

引き金を引く,まさにその瞬間。


「歩美ー!!!!危ない!!!!」


眼鏡を掛けた少年が男に気付き,声を張り上げて叫ぶが,男はニヤリと不気味に笑うと,そのまま引き金に力を込めた。
















バァン!!!!
















「グァア…‥!!アア…!」

「…………え?」


コナン達は今,現在進行形で混乱している。

何故なら,撃たれてもがき苦しんでいるのは,男に狙われていた歩美ではなく,その狙っていた本人なのだから。


「……え…?何が起こったの…?」


コナンの叫びに背後を振り返って恐怖を抱いて固まっていた歩美も,混乱しつつ,ぺしゃっと座り込む。元太,光彦もキョトンとして男を見つめていたが,2人してハッと気付くと,歩美のもとに駆け寄った。


「歩美ー!」

「歩美ちゃん!」

「……元太君…光彦君…。」


歩美は,暫くの間,駆け寄ってくる2人を振り返って見つめていたが,やがて,目から大粒の涙を流した。


「ぅっ………うわぁーん!!!」


それに2人は慌てて歩美に駆け寄り,念の為,男から離れさせてから慰める。


だが,コナンは子供達から一旦離れると,入り口から一番遠い,ある一点を見つめていた。


銃声に慌てて2階から下りてきた哀と朝美が走ってきて,歩美が泣いているのを見た朝美は,一直線に歩美達のもとへ駆け寄ったが,哀は入口の前で腕から血を流している男を見て驚いたように目を見開き,コナンの横で立ち止まった。


「工藤君……これ,一体どういうこと…?」

「撃たれたんだ。」


哀の質問に,コナンがさらりと答える。

哀は,驚いたままの目でコナンに視線を向けた。


「どうして…?何処から……一体誰が……。」

「さあ…分からねえけど,多分……。」


分からないと言いつつも,何か心当たりでもあるのか,コナンは,ちらりと部屋の奥へと視線を向ける。

哀もつられてその視線の先を追った。


そこには,苦しそうに肩で息をしつつも,いつ来るか分からない攻撃に備えて男達3人を視線で捕らえているレイがいた。


哀はその意味を理解したのか,驚きに見開いていた目をさらに開いてコナンを見る。


「まさか…彼が撃ったっていうの?!」

「可能性があるってだけだ。元に,歩美が撃たれそうになったとき,俺達はみんな,あいつに背を向けていたからな。」


そう言いつつも,コナンの目は明らかにレイを捕らえて離さない。

哀ももう一度レイに目を向けた,その時。


「警察だ!!動くな!!!」


自分達がよく知る警部,目暮の声が聞こえてきて,全員,肩の力を抜いた。

























































「よし。警察にはもう連絡出来た。すぐ来てくれるはずだ。」


時は遡って,コナン達は今,1階の部屋に居る。

レイの作戦は全員に却下されたので,コナン提案の,ある作戦を実行するために,全員がスタンバイしているところだったのだ。

コナンが通話を切りながらそう言うと,ある作業をしていた歩美達の顔がたちまち希望に満ち溢れる。


「やったー!!じゃあ歩美達,助かるんだね!!」

「よっしゃ!!これで帰れる!!そしたら,いっぱい飯が食えるぞぉ!!」

「まったく!元太君はず〜っとそれじゃないですか。もっと他にあるでしょう。例えば,『これで死なずに済む〜!』とか。」


光彦の言葉に元太だけでなく,歩美まで顔を引き攣らせた。

光彦の言葉はご最もなのだが,少々リアル過ぎてしまったようだ。

歩美達が怖がっているのに気付いた光彦は,慌てて言い訳をした。


「ぁ……いや…。あの……そういうわけではなくてですね……その……僕は,元太君の言葉があまりにも不謹慎だなぁと思いましたので……」

「光っちゃんのは逆に現実味がありすぎてるけどね……。」


身振り手振りを大袈裟に使って否定しようとするが,姉である朝美に苦笑されながら突っ込まれると,光彦もうっと言葉に詰まる。

コナンはその様子を同じく苦笑しながら見つめていたが,一度息を吐き出し,全員に呼びかける。


「よし。じゃあ,準備も終わったみたいだし,改めて作戦を確認しよう。」


コナンがそう言うと,全員がピシッと無意識に背筋を伸ばす。

コナンは,その様子を見てから口火を切った。


「まず,男達を朝美お姉さんと灰原が引きつける。」

「うん!」「ええ。任せておいて。」


コナンの言葉に朝美と哀が同時に応える。


「次に,この部屋に入ってきた男達を俺と歩美,元太,光彦が一網打尽にする。」

「ちょ,ちょっと待てよ!」


今度,コナンに返ってきたのは返事ではなく,元太の静止の声と質問だった。


「灰原達が引き付けるんだよな?だったら,彼奴等は灰原達の方へ行くんじゃねえのかよ?」


元太の言葉に全員が驚き,ぴしっと固まる。

誰よりも早く我に返ったのは光彦だった。


「元太君?!何言ってるんですか!!」

「え…?」

「え…?じゃありませんよ!!あの人達は2日前から逃亡している銀行強盗だから,頭の切れる人もいる。灰原さん達が引きつけてもそれがハッタリだということにすぐに気付かれる可能性があるから,だから僕達が一網打尽にしようって,さっき説明してくれたでしょう?!」

「え…?そうだっけ…?」

「そうですよ!!っていうか,ついさっきまでその準備をしていたんですよ?!元太君!君は何のためにやっていたんですか!!」

「ちょっと光彦君…!!声大きいよ!」

「あ……。すみません。」


そのやり取りを呆れた目で聞いていたコナンと哀は,揃って溜息をつき,伸縮サスペンダーで吊るし,引っ張れば落ちてくる仕組みになっている毛布が掛からないよう,部屋の奥で座り込んでいるレイのもとへと向かった。

まず,話しかけたのはコナンだ。


「お兄さん。大丈夫だよ。救急にも連絡したから。」

「…そうか………。さんきゅ。」


息も絶え絶えで,出血量も多いのに,それでもレイは,コナンに向かってぎこちなく笑みを向けてお礼を言った。

因みに,血管を焼き切るというレイの案と行動は全員で全力で止めた。血管を焼き切るという行為は,あまりにも苦しすぎる。麻酔も何も無いこの状態でそんなことをしてしまうと,最悪,痛みで死んでしまうかもしれない。(コナンの麻酔銃は30分で効果が切れるため,使わないことにしたのだ。)

また,GPで血管を焼き切ったエマの場合は,元々気を失っていたし,『生きたい』という気持ちも強くあったため,死なずに済んだのだった。

だが,それを知る故もない子供達には,レイのその行為は自傷行為にしか見えず,(レイの場合,一応事実。)また,酷い姿を想像し,顔を真っ青にして泣きながらやめてくれと言ったのだ。(無論,レイは一発で折れた。)


「……ねえ。こんな時に何だけど,貴方,さっき誰かにメール打ってたわよね?…‥あれって,一体誰に……」


何て打ったの?と聞こうとして,哀は口を閉ざす。

全員が部屋の扉を見つめた。

複数人の足音……あの男達がこの部屋に迫ってきていた。

コナン達は,お互いを見つめると,それぞれの場所に散っていった。








































「レイ!!!」


警察に保護され,担架に乗せられて救急車の中に入ろうとしていたレイは,聞こえてきた声に,思わずピシッと硬直し,睨むようにその方向を見つめる。

1階に下りたたときに連絡したユウゴが走って来ているが,お礼も言わず,ジトリと目を細めた。

ユウゴはレイの視線に気が付くと,レイのすぐ横,つまり,救急車の,患者が乗るところの前まで来て止まり,一瞬キョトンとしたが,すぐにハッとし,「あ…‥いや……夏枝…。大丈夫か?」と言いにくそうに,でも,面白そうに言い直した。


(……ぜってぇ遊んでやがる…!)


未だに名前のことを根に持っていたレイはニッコリと微笑むと,ドスッとユウゴに腹パンし,(勿論グーの形で,手の甲側を勢いで押し付けただけだが。)「ああ。大丈夫だ。ありがと,ユウゴ。」と思ってもみないお礼を言う。

勿論,力が上手く入らなかったレイの拳は効かず,ユウゴはケラケラと笑っているが……。

笑い事ではない。とレイは眉を寄せてそっぽを向く。

レイはユウゴにだけ,子供らしい一面を見せることがあるのだ。


「……レイ…?」


と,案の定,不思議に思ったのだろう歩美がコテンと小首を傾げて聞いてくるが,レイとユウゴは聞こえなかったふりをする。

そのやり取りを聞きながら警官に連れられていっている男のうちの一人,リーダーの男が,いきなり警官を足で突き飛ばし,隠し持っていたナイフを持ってレイに向かって一直線に,駆けていく。

コナン達と,レイ達を保護した佐藤高木両刑事も,そのいきなりの行動に驚き,慌てて叫ぶ。


「危ない!!!!」

「やめろー!!!!」


ユウゴは咄嗟に「レイ!!!!」と叫びそうになるが,なんとか堪えると,レイを守るように立ち塞がる。

声が出せなかったユウゴの代わりに,佐藤と高木が叫ぶ。


「どけえぇぇー!!!」


男が物凄い勢いでレイに,ユウゴに向かって突っ走っていく。

佐藤達が戦闘態勢に入ろうとするよりも速く,動く影があった。


ドガッ!!!!


大きな音をたてて男が地に伏す。

その男の顔のすぐ真横に男が握り締めていたはずのナイフがグサッと刺さった。


「ヒッ…!!!」

「おい」


地を這うような低い声に,男は顔に恐怖の表情を浮かべる。

その声の正体はユウゴだった。

ユウゴは,右手に持っているナイフを地面に差し込んだまま,男に顔を近づけて思いっきり睨みを効かせる。


「あいつを撃ったのはてめえか?…‥俺の家族に‥‥レイに‥‥手ぇ出すんじゃねえよ。」

「す,すみません……!!」


次はねえぞ。と低く呟いたユウゴは,ナイフを引き抜いてゆっくりとした動作で立ち上がった。

近くにいた高木にナイフを渡し(押し付け),レイのもとへ向かったが,サッと顔を真っ青にさせる。

あまりの出血量と痛みに,気を失っていたのだ。


「っおい!!何やってんだ!!早く運べ!!」

「!!!…は,はい!!」


救急隊員は,ユウゴの声に慌てて返事をし,急いで救急車にレイを乗せる。

急な展開に思わず固まってしまっていた佐藤達もハッと我に返ると,「待って……!!」とユウゴを呼び止めた。


「……何だよ…?あんた。」


振り返ったユウゴは不機嫌を隠そうともせず,煩わしそうに顔を歪めると,低い声で問い返す。(勿論,英語で。)

それに一瞬怯んだ佐藤だったが,構わず言葉を続けた。


「このあと,貴方は事情聴取が……」

「悪いが,事情聴取ならそこに居るガキ達にお願いしてもらえるか?俺はこいつに付いとかなくちゃならねえんだわ。………家族だから。」


佐藤の言葉に間髪入れず,ユウゴが否定の言葉を返す。

「付いとかなくちゃならない」と言ったことからして,事情聴取をする気はないのだろう。

「ですが……」と言いかけた高木を見て,ユウゴは小さく溜息をつくと,「しゃあねえな…。」と頭を掻きながら渋々口を開く。


「明日の午前10時くらいに警視庁に俺とこいつの母親が行く。…事情聴取くらい,明日になっても,別にいいだろ?」


そう言うなり,ユウゴはさっさと救急車に乗ってそのまま病院へと去ってしまった。

佐藤達も子供達も,暫く固まっていたが,ユウゴのあの走り方と先程の洗練された動きを見たコナンは目を鋭く光らせていた。


(…あの男の走り方,あの動き……。一体何者なんだ?)


先程の男は,もう何もする気力もないのだろう。警官に大人しく連れていかれている。だが,その顔は真っ青だった。

先程,ユウゴは目で追えるか追えないかの瀬戸際の速さで男に突っ込み,ナイフを取り上げ,男を地面に,そのまま投げ飛ばした。

ナイフを取られたのも,地面に押し付けられたのも,男にすら気付かれずに。

同時に,つい昨日の出来事を思い出したコナンは,ユウゴのことも警戒対象に入れる。

此方に来るときのユウゴのあの走り方は,レイと全く同じで,全く足音が立っていなかったのだった。

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