テラーノベル
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第7話 「テレビ・デーモンの電撃勧誘」
ハズビン・ホテルの外へ買い物に出かけていたノアは、少しふわっとした黒髪を揺らしながら、お気に入りの赤い花が咲く通りを歩いていました。肩にはいつも通り、相棒のレインがちょこんと乗っています。
その時、周囲の街頭防犯カメラが不自然にノアの動きを追うようにカチカチと音を立て、近くの巨大な街頭スクリーンがバチバチと青い電気ノイズを発した。
『ハロー、ハロー! そこを行く美しいお嬢さん、ちょっとお時間をいただけないかなぁ!?』
スクリーンに映し出されたのは、ネオンに輝くテレビの頭部を持つ男――ヴォックスでした。
彼はいつものビジネスライクな、だけどギラギラとした笑顔を画面いっぱいに浮かべています。
ノアが足を止めると、ヴォックスの本体がスクリーンから電気の火花と共にストリートへスマートに着地した。
「初めまして、『フェザー・デーモン』ことノアちゃん。俺はヴォックス。この地獄のエンタメとテクノロジーの頂点に立つ男さ。……いやぁ、ずっと君に直接会って、スカウトしたいと思ってたんだよ!」
ヴォックスはノアに近づき、画面の顔を近づけてニヤリと笑った。
「聞いたぜ? 地獄に落ちた初日にチンピラを一瞬で消し炭にしたってなぁ。しかも、あのカビ臭い『ラジオ野郎』が珍しく自分の番組で君を褒めちぎっていた。あいつが目を付けるなんて、君は相当な価値がある魂だ」
ノアをアラスターの仲間、あるいはそれ以上の脅威だと警戒しつつも、ヴォックスは自分のVeeズ陣営(ヴァレンティノやベルベットの組織)に彼女を引き込もうと、甘い言葉で畳みかける。
「どうだい? あんな場違いなハズビン・ホテルなんてボロ宿、さっさと引き払って俺のタワーに来ないか? 君の持つ30羽のカラスの軍勢を、俺のメディアネットワークと融合させれば、地獄の全情報を完全に支配できる。欲しいものは何でも最先端のトレンドで揃えてやるぜ。あの時代遅れの鹿野郎(アラスター)と一緒にいるより、何百倍もエキサイティングだろ?」
普通の悪魔なら、オーバーロードであるヴォックスの強引な勧誘に怯むか、欲に目が眩むところだ。
だが、誰に対してもフランクで、物事を冷静に見通しているノアは、驚くこともなく、いつもの落ち着いた低い声でクスッと微笑んだ。
「ふふ、ごめんなさい、ヴォックス。お誘いは嬉しいけれど……私は今のホテルがとても気に入っているの。チャーリーちゃんも、パパ(ルシファー)も、みんな優しいから」
ノアがいつも通り境界なく「ヴォックス」と名前を呼んで親しげに断ると、肩のレインも「ガァ」とヴォックスを牽制するように短く鳴きました。
自分の完璧なプレゼンを、落ち着いたイケボで一瞬でかわされたヴォックスは、テレビ画面にピキッとノイズの筋を走らせる。
「……チッ、王(ルシファー)だけじゃなく、あのラジオ野郎とも本当にデキてんのかよ。ノアちゃん、俺を敵に回すのはビジネスとして最悪の選択だぜ?」
ヴォックスの身体からパチパチと青い電撃が走り、ストリートの空気が一気に一触即発の緊迫感に包まれる。
ノアのふわっとした黒髪の影から、30羽のカラスたちの不気味な気配がじわじわと染み出し、ノアの左目が前髪の奥で静かに開こうとした、その時――。
ヴォックスが放つ青い電撃と、ノアの影から染み出すカラスたちの不気味な気配が、ストリートの空気をピリピリと震わせたその瞬間。
――ザザッ……ピーーーー……。
ヴォックスの身体や、周囲のスクリーンが一斉に激しい緑色の電波ノイズにジャックされた。
『おやおや、ヴォックス! 私の電波を盗み聞きするだけでは飽き足らず、今度は私のお気に入りの友人に、随分と下品なノイズを浴びせているようですねぇ!』
空間を切り裂くような大音量のラジオ音声と共に、アスファルトから這い出た巨大な黒い影が、ヴォックスとノアの間に割って入った。
影が実体へと収束すると、そこにはいつも以上の満面の笑みを浮かべ、目をラジオのダイヤル型に変形させたアラスターが、鹿の杖を強く地面に突き立てて立っていた。
アラスターの参戦により、ストリートの重力そのものが歪むような、圧倒的なオーバーロードのプレッシャーが渦巻く。
「アラスター……!! テメェ、また邪魔しにきやがったな!」
ヴォックスのテレビ画面が怒りで真っ赤に染まり、電気の火花が激しく飛び散ります。アラスターは首を不気味に真横へ傾げ、笑い声をスピーカーから響かせた。
『ハハハ! 邪魔だなんて心外ですとも! 私はただ、ハズビン・ホテルの大切なゲストであり、私の良き話し相手であるノアちゃんを、退屈なテレビショッピングの勧誘から救いに来ただけですよ』
アラスターは振り返り、ノアに向かっていつもの紳士的な仕草で帽子に手を当てた。
『お怪我はありませんか、ノア? あなたのその少しふわっとした美しい髪に、こんな埃っぽい電気泥棒が触れなくて本当に良かった』
アラスターがノアに対して「ノア」と親しげに名前を呼んだのを聞いて、ヴォックスの怒りは頂点に達します。
「ふざけやがって……! おい新入り(ノア)、そいつの口車に乗るな! そいつはただ、お前の30羽のカラスとパワーを自分のコレクションにしたいだけだ!」
ヴォックスは右腕を鋭い電撃のブレードに変形させ、アラスターへ飛びかかろうとする。
対するアラスターも、背後に巨大な影の触手を無数にのたうち回らせ、戦闘態勢に入った。
二人の大物がストリートを吹き飛ばさんばかりの魔力をぶつけ合おうとした、まさにその時。アラスターの横から、トコトコと一歩前に出る影があった。
ノアだ。
ノアは、普段は隠されている「左目」を静かに開帳した。
その瞬間、アラスターの緑のノイズとも、ヴォックスの青い電撃とも違う、すべてを飲み込むような圧倒的な「漆黒の闇」が、ノアの背中の「漆黒の翼」から波のように広がった。
彼女の影から30羽のカラスたちが一斉に目を赤く光らせて飛び立ち、ヴォックスとアラスターの頭上を不気味に旋回する。
ノアはいつもの落ち着いた低い声で、だけど絶対に拒絶を許さないトーンで、二人のオーバーロードに語りかけました。
「二人とも、そこまでよ。ストリートが壊れてしまうわ。……お買い物の邪魔をしないで頂戴?」
ノアがフランクに、だけど底知れない笑みを浮かべてそう言うと、肩に乗ったレインも「ガァッ!」と鋭く鳴き声を上げた。
そのあまりの威圧感と美しさに、ヴォックスは一瞬息を呑み、電撃の勢いを失いました。
アラスターも、ノアのその凛とした強さにいたく感じ入ったようで、おぞましい魔力をフッと収め、嬉しそうに拍手をしました。
『いやはや、実に見事な仲裁だ! 確かに、美しいマダムのお買い物を邪魔するのは、紳士のすることではありませんね』
ヴォックスは、ノアの底知れない実力とアラスターのコンビを前に、これ以上の深追いはビジネスとして不利だと判断したようだ。
「……チッ、今回は引いてやるよ、フェザー・デーモン。だが、あんなラジオ野郎に騙されるなよ!」
ヴォックスはそう吐き捨てると、バチバチッと激しい電気の光と共に、ストリートから姿を消し、近くのスクリーンの中へと逃げ帰っていった。
「ノアーーー!! 大丈夫かい! 僕の最高の親友(ベストフレンド)!!」
ヴォックスが去り、アラスターがノアへ微笑みかけたその瞬間、真っ赤な空から激しい火の玉がストリートへ真っ逆さまに落ちてきた。
――ドガァアアアン!!!
凄まじい爆発音と共にアスファルトが弾け飛び、火煙の中から現れたのは、リンゴの杖をへし折らんばかりに握りしめ、目を怒りで真っ赤に光らせた地獄の王、ルシファーだ。
ルシファーは白い翼を激しく羽ばたかせながら、ものすごい勢いでノアの元へ駆け寄ると、彼女の肩をガシッと掴んで上下左右にくまなく視線を走らせた。
「テレビのバカが君に妙な電波を流したって、僕の surveillance(監視網)に引っかかってさ! どこだ!? どこに行きやがったあの画面野郎は! 今すぐスクラップにして、地獄中のゴミ箱に生ゴミと一緒に捨ててやる!!」
ノアの少しふわっとした黒髪に電気の火花が残っていないか、過保護の極みのような剣幕で心配するルシファー。
ノアは隠されていた左目をそっと閉じ、いつもの人間に近い穏やかな姿に戻ると、少し低い落ち着いたイケボでクスッと笑った。
「ふふ、パパ、落ち着いて。ヴォックスならもう逃げ帰ったわ。私なら髪の毛一本傷ついていないから、大丈夫よ」
ノアが優しく宥めると、彼女の頭の上に移動していたカラスのレインも「ガァ(平気平気)」とルシファーをなだめるように鳴いた。
ルシファーはノアの無事を確認して
「ほっ……良かったぁ……」
と一瞬でいつものへなへなとした表情に戻り、胸をなでおろした。
が、その直後。ルシファーの視線が、ノアの隣に立つアラスターへと向けられる。
アラスターはいつもの満面の笑みを浮かべたまま、わざとらしくパチパチと拍手をした。
『おやおや、これはこれは地獄の王様。相変わらずドラマチックで、そして……随分と遅いご到着(おでまし)ですねぇ! 私がスマートに解決した後に火の玉になって降ってくるなんて、まるで時代遅れの三流劇場のヒーローのようだ! ハハハ!』
アラスターのラジオ・ノイズ混じりの煽り文句に、ルシファーの額に青筋がピキッと浮かぶ。
「あぁん!? なんだとコラ、鹿野郎!! 誰が遅いって!? 僕が来る前にノアに何か怪しい契約でも迫ってたら、お前をアヒルの餌にしてやるところだったんだからな!!」
「パパ、アラスターは私を助けに来てくれたのよ」
とノアが落ち着いた声で間に入りますが、一度火がついたルシファーとアラスターの 「ノア(とチャーリー)の信頼を巡るマウント合戦」 は止まらない。
『おや、王様。契約だなんて人聞きの悪い。私はノアと、彼女の愛らしい30羽の黒羽の友人たちと、大変エレガントで有意義な時間を過ごしていただけですよ。お邪魔虫(ルシファー)が乱入してくるまではね!』
「お邪魔虫だとぉ!? 僕はノアの『一番の親友』 なんだよ!! 宮殿で僕の作った限定アヒルを一番最初に褒めてくれたのもノアなんだからな!! お前なんかより、僕たちの絆の方がずーっと深いんだ!!」
子供のようにムキになってアラスターに詰め寄るルシファーと、それを涼しい顔でかわしながら、わざとノアの隣に一歩寄り添って笑顔を崩さないアラスター。
地獄のツートップが路地裏で子供じみた小競り合いを繰り広げるという、最高にハズビン・ホテルらしいコメディな光景に、ノアはため息をつきつつも、やっぱり低い声で楽しそうに微笑んだ。
「本当に……二人とも仲が良いんだから」
カラスのレインたちも、そんな2人を見ながら「ガァガァ」と呆れたように大合唱している。
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……今回は長くしたぞ!!
疲れたぁ……
次回は、第8話「雷鳴とエッグマニズ、そして可憐な闖入者」
コメント
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アラスターにルシファー…しかもボックスまで……この三人がハズビンホテルの中での推し的存在なのよねぇ〜もう最高💗 もっと喧嘩してねぇ!!
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