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その後始まった座学は非常にスムースに進んだ。
主にコユキがぶーたれなかったからだ。
「昨日の練習の後考えたでござるが、コユキ殿にはこれ以上の攻撃訓練は意味が無いと思うのでござる」
いつもの様に善悪が言った。
「そうなんですか? 昨日も三か、いや五回ぐらいで動け無くなっちゃったんで、改善した方が良いのでは無いですか?」
この期(ご)に及んで、モリヤガッタ。
まぁ、簡単に人って変われないって事だろう。
一方の善悪はコユキの話し方に多少やりにくそうにしている。
「ん、んんん~、そうなのでござるが、昨日の様子を見る限り、急激な成長は困難だと判断したのでござる」
そう言って、黒板に向きなおり、チョークで今後の予定を書いていく善悪。
コユキも一所懸命チラシの裏へと書き写している。
一頻(ひとしき)り書き進めた後は、順を追って丁寧に今後の行動指針を説明して行った。
曰く、
・最終的な目標としては、茶糖家の皆の魂魄(こんぱく)の奪還。
・その途上で可能であれば上位悪魔(バフォメットの親分)の排除。
・その間になるべく手下の悪魔を倒して、復活までの時間を稼ぐ。
・稼いだ時間で少しでもコユキの戦力アップを図る。
・現れた手下は善悪の法力で索敵(さくてき)し、コユキが殲滅(せんめつ)に赴く(おもむく)。
・パーティ名は、『聖女と愉快な仲間たち』とする。
・ご飯、おやつは善悪が提供するが、コユキはわがままを言わない。
・お互いに節度を持って接し、倫理に沿った行動を心掛ける。
・月のお小遣いは一万円、無駄遣いをしない。
・トイレットペーパーの三角折りはダメ、絶対。
・飲酒、喫煙、薬物摂取は厳禁。 欲しがりません勝つまでは!
と決まったようだ。
更に、時間的余裕がどれほどあるか皆目見当がつかない現状を鑑(かんが)みて、と前置きしてから善悪が提案した。
「最初にも言ったでござるが、攻撃も敏捷(びんしょう)も体力も耐久もなんて、ゲームみたいにバランスよく上げる暇は無いかもしれないでござろ?」
対してコユキは真剣な顔で頷き、それを受けて善悪が少し悪そうに微笑みながら続けた。
「そ・こ・で、今回のキャラ、コユキ殿の育成方針は『特化』でござる。 はっきり申せば『回避特化』で、ござるっ!」
なるほど、ゲームなんかで良く有る特化型というやつだと思われる。
確かに昨日の体たらくを思えば回避特化は有りなのかも知れない、そんな風に思いながら観察しているとコユキが手を挙げて口にした。
「先生! 一点確認よろしいでしょうか?」
「? 三角折りの事だったら再考の余地は有り申さぬが……」
「いえ、そこは納得していますので大丈夫です。 衛生観念は大切です。 世の中もこんな状況ですし」
「はて? では一体なんの事であろ? ささっ、遠慮なく言ってみるでござる」
その後のコユキの主張は概(おおむ)ねこんな感じであった。
曰く、
学生時代から体育が苦手な自分が使い物になるのか心配との事。
五十メートル走は三十秒が自己レコードだし、走り幅跳びは砂場に届いた事も無い。
反復横飛びに至っては、平行ラインから足が出た事はなく、いつも中央ラインの左右で傍目にはご機嫌そうに見えるステップを踏んでいただけだ、とも。
先生(善悪)の話を聞いていて、もしかしたらと思い心の中で『ステータスオープン』と念じてみたが何も起きなかった事。
『回避特化』と言う事であれば、『すばやさ』だとか『敏捷性』のステータスを上げるのか、若(も)しくはスキル回避Lv1みたいな物が有るのか?
有ったとしても、課金絡みではお金が無いため絶望的である事。
幸福寺のお蔵かどこかに、『星が降って来そうな腕輪』や『ビア○カのリボン』みたいな物が有れば貸して欲しい。
そんな事を、慣れない敬語で一所懸命に語ったのだった。
それに対して善悪は残念そうに首を横に振りながら、
生憎(あいにく)自分も毎日数回は『ステータスオープン』や『スキルツリーオープン』、あと『鑑定』とか『アイテムボックス』とか言ってはいるが未だ成功していない事。
寺の蔵には便利アイテムの類(たぐい)は見当たらず、もしどこかに存在するなら御本尊を質に入れてでも欲しい事、その場合は、仮に『風○ぼうし』でもいい、との事。
さらに、課金の為の借金については、はっきりと断っていた。
一見、絶望の淵に立たされたかに見えた二人だったが、善悪がさも自信ありげに言った。
「僕ちんに任せるでござる! 我に非策アリっ! で、ござる!」