この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません______________________________________
玖村side
数ヵ月前に出会った特殊清掃を生業とする男と付き合いはじめて早4ヶ月。最近妙な夢を見る。愛する彼が何かの罪を犯していて、俺に対する愛なんてこれっぽっちも持っていなくて。そこに一人の別の男が現れて、俺の心の隙間を埋めてくれる。身体も心も、その男に全て支配されるような感覚に陥る。彼はホンモノの愛を俺に向けてくれて、強すぎるほどの執着を俺に対して持っていて。でもその彼の顔を見ようとすると決まって目が覚める。
『貴方は、俺の…』
今日もそうだった。彼から告げられる言葉には不思議な力があるようで、彼の言うこと意外何も信じられない。あれだけ愛していたはずの、吐夢の声さえ彼の言葉には霞んでしまう。それほどまでに強い言霊を持っている男だった…ような、気がする。なのに、その男の顔も声も、何もかもが思い出せない。夢から覚めてしまえばそれっきり
《…ふふ、聞いていた通り_______》
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『……あ。』
「…起きましたか、」
『お、はよう、ございます…』
目が覚めると隣には永山吐夢がいた。当たり前だろう、昨日も彼と寝たんだから。俺には彼しか信じられる人も、愛する人もいないんだし。なのに、何故か夢の中のあの男のことが気掛かりで仕方がない
「…魘されていますよね、ここ最近」
『…え、?』
「悪夢でも、見ているんじゃないですか」
『いや…俺はそんな、』
悪夢?悪夢なんて見ているはずはない。ただ知らない男が出てきて、その男に沢山の愛をもらっている。夢の内容はただそれだけなんだから。いやまあ、恋人がいながら他の男に抱かれているだなんて現実であれば大問題だし、その男の名前は愚か、顔さえ覚えていないんだけど
「何かあったら言ってください。そういうものに詳しい友人が居るので」
『友達居るんだ』
「…。」
黙っちゃった、地雷踏み抜いちゃったかなあ。言った後に急に申し訳なさが生じてくる。まあいっか、鋼の精神持ってるし。夢なんて信じるもんじゃないし、いつかは普通に眠れるようになる。そう思って俺は今日も新しい職場へと足を運んだ
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また、夢を見る。初めて見る男だ。いや、初めてではないのか?何か言っている。俺は彼の事を知っているんだろうか
《…年振りかな、……らず~~…だ》
『…え、?』
《また忘れたふりをするんだね。そういうところも変わってない》
『ち、ちょっと待ってください。話が全く見えてこないんですけど』
《…?》
『そもそも貴方は、』
《僕のこと、ほんとに忘れたなんて言わないよね?》
そう言って俺を見詰める目にはそんなこと言わせない、言わせるわけがないという凄みがあった。きっと俺は彼のことなんて少しも知らないのに、よく知っている
《…ところで、毅はこの記事見た?》
『記事?』
《連続殺人犯、捕まったんだって》
そこに記載されていた名前と顔写真は紛れもなく俺の恋人のものだった。新聞にある彼の顔は初めて見るほど冷えきった表情だった。さっきまで、俺と一緒に居た筈なのに。俺のことを初めて愛してくれた、人だったのに
『っは、?…ぇ、何これ、これ…って、』
《これからは、俺が守ってあげるからね》
『…っ吐夢さんがそんなことするわけ』
《記録として残ってるんだ。今すぐにとは言わないから、ちょっとずつ彼のいない生活にもなれていこう》
『…で、も、吐夢さんがいなくなったら、俺…』
《これからは、俺が守るよ》
『…ほ、』
本当に?と聞こうとしてその言葉を飲み込む。ちょっと待て、そもそも彼は誰なんだ。知らないし、夢だから吐夢は捕まったりしていないし。真に受けてどうする
『…だから貴方は誰なんですか』
《何でわからないふりをするのかな。僕はずっと君のことを》
『いいから。答えてください、俺は貴方の名前が知りたいだけで』
《はぁ…僕は、》
目が覚めた。隣に吐夢が居なくて焦って起き上がり、リビングへ移動すると寝られないのか湯気の出る何かを飲んでいた。夢の中みたいに、彼が居なくなってしまったらと考えるとゾッとする。何よりも失いたくないものなのに、夢の中だと彼よりも大事なものが出来たと思えてしまう自分が嫌だった。これ以上あんな夢は見たくなかった
「…あれ、玖村さん。起きたんですか」
『ちょっと、目が覚めちゃって』
「…寝汗、かいてますね」
『…夢が、』
「夢?」
『悪夢、が…』
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自分一人じゃ絶対に入らない、というか俺たち二人でも絶対に入らないであろう洒落たカフェの扉を開く。店員さんが近づいてきて、何名かと聞く…より先に、一人の男が此方へゆっくりと歩いてきているのが見えた。なんか堂々としてるし、ちょっと見覚えがあるようなシルエット。どこだ、俺は彼をどこで見たんだ
「…連れです。彼の」
センター分けの何処か掴み所のない雰囲気を漂わせている男を、吐夢は連れだと言った。きっとこの男が、以前言っていた “そういうものに詳しい” 人なんだろう。確かになんか詳しそう、はっきり言うと胡散臭いけど
《どうぞ、座ってください?》
『ありがとう、ございます…』
男の正面に吐夢が座って、その隣に俺は腰かける。斜めのアングルから見ても、中々整った顔立ちをしているように見える。てか今思ったけど悪夢見るのを相談するって、この人精神科医かなんかなの?ほぼ確実に違うと思うんだけど。まさか悪夢の原因が非科学的な何かだってことを吐夢が信じている?だからこんなよくわかんない人に話をしようと提案したのだろうか。元々思い込みも思想も強い人だから、その可能性は捨てきれないな
《君は、吐夢の恋人さんだよね》
『あ、はい。玖村毅です』
《…ふふ、聞いていた通り。綺麗な人だ》
『…ん、?どうも、?』
《吐夢とはどこで出会ったの?》
『え…っと、』
「そんな話、しに来たんじゃないですよ。…と言うか、玖村さんとは初対面ですし、挨拶くらいしてください」
《あぁそうだ、名乗っていなかったね。これは失礼》
「いえ、少しだ…け、?……何でもないです」
少しだけ、彼を知っている。そう言おうとしたけれど、吐夢からはなにも聞いていないし初対面なんだから知っているわけがない。何故俺は今、彼を知っていると言おうとしたのだろうか。どこで彼を見たと思ったのだろう
「…話を、始めたいんですけど」
《そんなに焦らなくても良いじゃないですか》
「早く」
《…では、改めて。初めまして、北斗総一郎と申します》
彼は口の端だけをつり上げるような笑い方をした
コメント
4件
わお😳😳
えっともう大好きです