ステージ会場を離れてしばらく歩くと、遊園地の端に、まるで時間が止まったような建物が現れた。
黒い壁。
歪んだ窓。
赤く揺れる薄暗いライト。
「……絶対ホラー系だろ、これ。」
じゃぱぱは苦笑しながら看板を見上げる。
『呪怨の館・恐怖体験ホール』
名前からして全力で来る気満々だ。
でも――
なぜか胸がじんわりと温まる。
「ここにも……誰かの記憶がある。」
そうつぶやいた瞬間、
入口の扉がひとりでに“ギィ…”と開いた。
「……行くしかねえよな。」
息を吸い、足を踏み入れた瞬間。
ぱん、と照明が落ちて真っ暗になった。
「うわっ……なにも見えない……!」
足音。
それも自分じゃない誰かの足音が、ゆっくり近づいてくる。
ぞくりとした瞬間――
「じゃぱさん。」
低く静かな声が、闇の奥から届いた。
「えっ……?」
ふわりと光が灯り、
そこに立っていたのは――
**なおきりさん**だった。
片手に小さな提灯を持ち、
姿勢を崩さず、ゆっくり歩いてくる。
「お待たせしました。」
なお兄は穏やかに微笑んだ。
「……来てくれると思ってました。」
「なお兄……!ここ、なお兄の記憶なの?」
「どうやら、そうみたいですね。」
提灯を軽く上げながら、優しい声で続ける。
「足元、暗いですから。気をつけてください。」
自然すぎるその言葉に、
じゃぱぱは思わず後ろをついていった。
廊下はひび割れ、
古い絵がこちらを見ているように並んでいる。
影がゆらゆら揺れて、不気味さが増していく。
「ねぇ、なお兄。」
じゃぱぱはぽつりと声を出す。
「なんで俺の記憶、こんな場所なんだろう。」
「それは……怖いからではないでしょうか?」
「俺が、怖がりだから?」
「いえ。」
なお兄は首を振る。
「“忘れてしまうことを”怖がっているのだと思います。」
「……忘れるのが?」
「はい。」
提灯の光が、なお兄の横顔を柔らかく照らす。
「優しい人ほど、記憶を失うのはつらいものですから。」
その言葉は静かだけど、
胸の深いところに刺さる。
その時――
“ガシャァン!!”
頭上から金属のカゴが落ちてきた。
「うわぁああっ!!」
じゃぱぱが飛び上がった瞬間、
なお兄は片手で軽く押し返し、
もう片方の手でじゃぱぱの腕を引いた。
「大丈夫ですよ。」
耳元で、揺るがない声が響く。
「僕がいますから 、笑」
その瞬間、
じゃぱぱの頭の奥に何かが灯る。
――暗いお化け屋敷で、なお兄が前を歩いてくれていた記憶。
――怖がるじゃぱぱに、怖がるでもなく。
――ただ静かに、守るように進んでくれる背中。
――「大丈夫ですよ。僕がついています。」
その声だけで安心できた時間。
胸が熱くなる。
「……俺、思い出してきた……なお兄との記憶。」
「それは良かった。」
なお兄はほんの少し、やわらかく微笑む。
「じゃぱさんが前へ進めるのなら、何よりです。」
提灯の光が強くなり、
なお兄の輪郭がゆらゆらと揺れ始める。
「この光は、きっと“鍵”になりますよ。」
「鍵……?」
「じゃぱさんが大切な人を思い出すとき、
中心にあるのは“安心”ですから。」
光が強くなる。
「じゃぱさん。」
姿が薄れながら、なお兄は最後に言った。
「この先は、もっとつらい記憶もあると思います。
ですが――」
目を細め、穏やかに笑う。
「あなたなら、大丈夫です。」
その言葉とともに、光は弾けた。
残ったのは提灯だけ。
じゃぱぱはそっと拾い上げる。
「……絶対に、全部思い出してみせる。」
胸の奥にあたたかな光が灯ったまま、
じゃぱぱは次の記憶を探しに歩き出した。
コメント
3件
めっちゃ気になるー!!最終回はどうなっちゃうの?!
次は誰がくるんだ、、 あと、絵が少し遅れます、🙌 1000全部でまで押してやったぜ^ ^