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暑い日差しがじりじりと照りつける中、咲莉那は額に手をかざして空を見上げた。「あ゛~暑い…。火楽~、近くに村はありそう?」
火楽は少し後ろを振り返りながら肩をすくめて答えた。「さっき空華の祠を見つけたでしょう?だからもう少しですよ。頑張ってください、主様。」
「まぁ確かにけっこう暑いですもんね。」瑛斗が微笑みながらつぶやき、手で顔をあおぎ始めた。
咲莉那は不満げに口を尖らせつつ、川辺に目をやりながら呟く。「せめて、冷たい水でも浴びられたらなぁ…。」
その時、火楽がニヤリと笑いながら「じゃあ、川に飛び込んでみます?きっと主様の勇姿が拝めるはずです。」と軽口を叩いた。
「誰が飛び込むか!」咲莉那が手近な石を火楽に投げる素振りを見せ、三人は笑いながら歩を進めていった。
緩やかな坂道を登り切ると、目の前には透き通った川が広がり、小さな水車が静かに回る風景が現れた。水のせせらぎが心地よく耳に届き、三人は立ち止まってその光景に見入った。
「こんな綺麗な村、久しぶりに来たね。」咲莉那が感嘆の声を漏らしながら、川の水を覗き込む。水底には川魚がゆったりと泳ぎ、太陽の光にキラキラと反射していた。
「平和な場所って感じですね。」火楽がのんびりと息を吐きながら言った。「しばらく戦いはお休みしましょう。」
瑛斗は無言で周りを見渡し、小さく頷いた。この穏やかな風景にどこか懐かしさを感じながら、心の中で自然と安らぎを覚えた。
村の子供たちが遊び声を上げながら駆け回っているのが見え、咲莉那は小さく笑うと「みんな楽しそうでいいねぇ~。しばらくゆっくり出来そうで良かった。ここのところずっと戦いばっかりで疲れちゃった。」それに瑛斗も賛同した。「少しの間お世話になりましょう。」
その時、一人のお婆さんが三人の元へ歩み寄り、穏やかな微笑みとともに軽く会釈をした。「旅の御方ようこそお越しくださいました。私はこの村の村長でございます。」
咲莉那がすぐに頭を下げ、「突然お邪魔してすみません。少しの間こちらで休ませていただいてもよろしいでしょうか?」と丁寧に尋ねた。
村長は柔らかな声で言った。「どうぞどうぞ。ここは静かな村ですが、川魚料理は自慢です。お楽しみいただけますよ。それに、村を簡単にご案内いたします。」
火楽が嬉しそうな表情を浮かべ、「それは楽しみだなぁ。」と呟くと咲莉那がくすりと笑う「火楽は川魚の料理好きだもんね。あ、そうだ。ここってお酒はありますか?」と付け加えた。村長は微笑んだ「ええ、ございますよ。うちはお酒も自慢ですからね。」
咲莉那の表情が明るくなった。「本当ですか!?やったぁ!」
村長の案内で三人は村の中心部へと向かって歩き始めた。その途中、咲莉那がふと立ち止まり、近くから聞こえる子供たちの楽しげな笑い声に気づいた。
「ずいぶん賑やかな声が聞こえますね。川沿いですか?」と尋ねると、村長が微笑みながら「ええ、そうです。あの辺りは子供たちが遊ぶのにぴったりな場所なんですよ。ちょうどご案内しましょうか?」と促した。
三人は村長とともに川沿いへ向かい、小さな水車のそばで遊ぶ子供たちの姿を目にした。近くには水龍である雫の祠もある。村長がその光景を指さしながら言った。「あの子たちは毎日こうして川で遊ぶんですよ。暑い夏にはとても楽しい時間ですね。」
咲莉那がその光景に目を留め、小さく微笑みながら「わぁー楽しそう。私も少し休憩して遊びたい。」とつぶやく。村長が「どうぞどうぞ。ご自由に楽しんでください。」と促すと、火楽は早速履き物を脱ぎながら「いいですね!ちょっと子供たちに混ざってみます!」と川へ向かった。
子供たちは火楽を見て歓声を上げ、「おじさんも遊ぼうよ!」と声をかけた。その言葉に火楽は一瞬固まり、目をぱちくりさせる。「おじさん…?」内心で反芻しながら、額に手を当ててそっと呟く。(俺ってそんなに老けて見えるのか…?)
しかし、そんな彼の迷いも子供たちの笑い声にかき消され、「早く早く!」と元気な声に急かされてしまう。火楽は気を取り直し、いつもの笑顔で「よーし、いっちょやってやるか!」と叫ぶと、子供たちに負けじと水を飛ばしながら駆け回り始めた。
一方、瑛斗は最初は少し離れた場所でその様子を眺めていたが、子供たちに手を引かれ、「お兄ちゃんも遊ぼう!」と誘われる。その後、子供たちと一緒に涼しげな川の中で遊ぶ瑛斗の表情は、どこか穏やかで柔らかいものだった。
咲莉那も川辺で涼を楽しみながら、「こんな平和な時間、久しぶり~。」と呟き、川水の冷たさに満足げな表情を浮かべた。
夜になると村の広場に灯りがともり、焚き火の周りでは村人たちが笑顔で三人を囲んでいた。川魚がじっくりと焼かれ、その香ばしい香りが広がる中、地元の特産酒も用意されていた。
「これは村の自慢の一品です。どうぞ召し上がってください。」村人の一人が焼き立ての川魚と酒を咲莉那たちに差し出した。
咲莉那は杯を受け取り、酒を一口飲むと、その味わい深さに感激した表情を浮かべた。「はぁ~こんなにうまい酒は久しぶりだぁ~」と思わず声を上げ、満足げに笑った。
瑛斗がその様子を見て、「そんなに美味しいんですか?なら俺も少しだけ。」と杯を手に取り、酒を飲もうとすると、すかさず火楽が首を横に降り、「やめておけ、お前にはすすめないぞ。」と言った。瑛斗は戸惑いながら尋ねた。「どうしてですか?」
それに火楽はすかさず言った。「この酒はけっこう強い。俺もさっき飲んだが、弱いやつはすぐ潰れるぞ。」
「なら俺はやめておきますね。」
瑛斗は杯を置き、静かに川魚料理を口に運びながら、村人たちの話を聞いていた。この穏やかな夜に、彼は久しぶりの安らぎを感じていた。
村人たちはさらに酒と料理を三人に振る舞いながら、暖かな笑い声を広場に響かせた。村の温かいもてなしに包まれるこの夜は、三人にとって忘れられないひとときとなるようだった。
夜が更けていくにつれ、広場の喧騒も少しずつ落ち着いてきた。星空が澄み渡り、川のせせらぎが遠くから静かに聞こえる。
咲莉那が空を見上げながら、幸せそうに微笑んで言った。「こんな穏やかな夜を過ごすのは、久しぶりだったなぁ。本当にこの村の皆さんには感謝しなきゃね。」
火楽が焚き火のそばでごろんと横になり、「本当に、お酒も料理を美味しくて、最高でした。」と笑みを浮かべた。
瑛斗は少し離れた場所で、静かに星空を眺めていた。その表情はどこか穏やかで、心の中では「こういう時間も悪くない」と思いながら、ふわりと心が緩むのを感じていた。
翌朝、澄んだ空気が村を包み込む中、三人は村の入口に集まる村人たちに見送られていた。
咲莉那は目を輝かせながら、「本当にお世話になりました。ここでの時間は忘れません。」と深く頭を下げた。
火楽もその横で、「お酒もお料理も美味しくて、最高でした。本当にありがとうございます。」と頭を下げる。
瑛斗は静かに村人たちに向かい、「ありがとうございました。皆さんのおかげでゆっくりと過ごせました。」と感謝の言葉を述べた。
村長は微笑みながら、「どうぞお気をつけて。またいつでもいらしてください。」と優しく言った。
三人はゆっくりと村の入口を歩いていた。その途中、瑛斗が立ち止まり、少し真剣な表情で二人に向き直った。
「桜香さん、火楽様、一度故郷の村に帰りたいんです。調べたいことがあって、それに…秋穂さんにも会いたいですし。」瑛斗の声にはどこか決意が込められていた。
咲莉那は少し驚いた表情を見せたが、すぐに柔らかく微笑んだ。「そっか、いいよ。一度帰ろうか。」
火楽も腕を組みながら軽く頷いた。「ついでに森の様子も見に行きましょう。それと薬草も取りに行かなくては。」
三人の間に穏やかな空気が流れる中、村を後にする彼らの姿を、村人たちが手を振りながら見送っていた。