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木々の間から視界が開け、瑛斗の故郷の村が姿を現した。彼は思わず足を止め、その光景をじっと見つめた。村の古い屋根と石畳の道がまるで彼を迎え入れるかのように佇んでいる。その先には川が穏やかに流れ、風がふわりと花の香りを運んでくる。
瑛斗は深く息をつき、懐かしさに胸が締め付けられるような感覚を覚えた。「帰ってきたんだな…」その呟きは、ほとんど聞こえないほど静かだったが、彼にとっては確かなものであった。
咲莉那はその横で微笑みながら言った。「瑛斗、懐かしいでしょ。」彼は静かに頷き、「そうですね。やっぱり、ここは変わらない。」と小さく答えた。
「村も近いし、そろそろ化けるか。」そう言って咲莉那は狐の半面を袖の中から取り出し、顔につけた。ポンッという音と共に咲莉那は狐に化けたのだった。
「万が一白華楼に見つかったら大変ですもんね。」瑛斗は咲莉那に感心しながら、火楽に尋ねた。
「火楽様は変化しなくても良いのですか?」
火楽は腕を組んだまま目を細め、「いや、俺はこのままで平気だ。村の人たちも白華楼のやつらも俺の本尊、龍の姿しか見たことがないから、バレるはずもないのさ。」と肩をすくめて言った。その自信たっぷりの態度に、瑛斗は少し苦笑いを浮かべながら「それなら大丈夫ですね」と呟いた。
火楽は狐に化けた咲莉那を抱えると瑛斗の方に振り向いた。「俺と主様は、森に行ってくるから、先に行っててくれ。それと、もし、村の人たちが俺たちについて何か聞いてきたら、誤魔化しておいてくれ。」
瑛斗は頷き「分かりました。誤魔化しておきます。」と言った。
「用事が終わったら、俺たちも村に行くから、またあとでな。」そう言って咲莉那と共に森へと入っていった。
村の広場に足を踏み入れると、村人たちの明るい声が瑛斗を迎えた。「おお、瑛斗帰ってきたのか!」「瑛斗、久しぶりだな!」懐かしい顔ぶれに瑛斗は少し微笑みながら頭を下げた。
村人たちはしばらく瑛斗の周りに集まり歓声を上げたが、ふと辺りを見渡し、「火楽様と咲莉那さんはどこに行ったのかね?」と尋ねてきた。瑛斗は少し考えながら穏やかに微笑み、「お二人は少し出かけています。でも、そういえば最近白華楼の様子について何か変わったことはありませんか?」と質問で返した。
村人たちはその言葉を聞き少し考え込んだあと「最近忙しいのか、バタバタしてたな。」と話し始めた。瑛斗はその反応に頷きながら話を聞き続け、巧みに話題を白華楼に集中させることで、咲莉那と火楽の不在に疑問を持たれることなく会話を進めた。
村人たちが「白華楼の人たち、最近村をよく訪れるんだが、理由は分からないんだ。」と話し出す。瑛斗はその言葉に注意を払いながら、さりげなく「村に何か困り事が起きているんですか?」と尋ねる。村人たちは困惑気味に「いや。特にはないんだがな…。」と答えた。
瑛斗は村人たちの話を聞いて少し考え込んだ後、軽く頷きながら口を開いた。「そうですか…それなら、ちょうど白華楼に用事があるので、直接聞いてみますね。」その言葉に村人たちは「ありがとな、瑛斗。」と安心した様子で頷いた。
瑛斗は再び軽く頭を下げると、村人たちと別れて白華楼の方角に向けて足を進めた。胸の奥では、一抹の不安と強い決意が交錯していた。「いったいどうしたんだろう、そうだ、先輩に聞いてみよう。」そう自分に言い聞かせるように呟きながら、瑛斗は静かに歩を進めた。
一方その頃、咲莉那たちは、森の様子を確認すると共に薬草摘みをしていた。
「主様、森は問題なさそうですね。」火楽はそう言いながら、薬草を摘み。咲莉那は「そうだね、いや~なんともなくて良かった。」と答え、変化を解いて木の上で寝転がり、一つあくびをしている。
火楽は薬草を摘みながら話しかける。「眠くなりましたか?」
咲莉那は「そうだね。遠くにある滝の音で余計に眠気がくる。」とまたあくびをしながら言う。
「それなら少し昼寝をされてはどうです?」と火楽が提案すると、「うん、そうする。」と咲莉那が言った。「なら俺は先に村に行ってますね。少し経ったら起こしに行きましょうか?」そう火楽が尋ねると、咲莉那は手を縦に軽く降ると「起こしに来なくていいよ、自分で起きるから。」と言った。
火楽は薬草を摘み終えると「分かりました。ではお先に村に行ってますね。」そう言って村へと向かっていった。
咲莉那は「さて、一眠りするか。」そう呟いて眠りについた。
その半刻後咲莉那は目を覚ました。「ん~良く寝た~」そう言いながら伸びをし、よいしょっと立ち上がると何故か視界が傾いたのだった。
白華楼の門の前に到着した瑛斗は、その中に足を踏み入れた。すると、隊員たちが慌ただしく駆け回り、緊迫感に包まれている様子が目に飛び込んできた。状況を掴もうと、瑛斗は近くにいた先輩隊員に声を掛けた。
「一体、何があったんですか?」
先輩隊員は急ぎ足で書類を手にしながら、こちらを振り返ると短く答えた。「南の方角で咲莉那だと名乗るヤツが現れたらしい。それの対処で手一杯だ。」
その言葉に瑛斗は思わず眉をひそめた。「咲莉那…?」心の中で湧き上がる疑問を抑えきれないまま、彼は状況の深刻さを悟るのだった。
先輩隊員は続けて「まぁよくあることなんだか、もし仮にそいつが咲莉那だったら大変だからな。悪いが忙しいから、もう行くな。」
と言うと小走りで去っていった。
「あ、文献調べなきゃ、咲莉那さんのこと、もっと分かることが載ってればいいんだけど…。」
瑛斗は当初の目的を思い出すと図書室へと向かった。
瑛斗は図書室の扉を押し開けると、静寂の中に足音が響いた。棚の間を歩きながら、咲莉那に関する手がかりが載っていそうな文献を探す。手に取った古びた書物をめくるたびに、目の前の世界が少しずつ形を変え、咲莉那の謎が深まっていく。
「これって。」一冊の文献の中に、一際目を引く言葉を見つけた瑛斗は、息を飲んだ。心の中で疑問と期待が交錯しながら、彼はその文献の内容を精読していく。
瑛斗は文献を読み進める中で、記された内容に目を留めた。「討伐の計画が練られたのは半年前…だが、予期せぬ事によって中断された?」文献の記述は断片的で、具体的な詳細を明らかにしていなかった。
彼はその内容に困惑しながらも、さらにめくり続けた。「予期せぬ事」とは何なのか。瑛斗の心には疑問が次々と浮かび、咲莉那にまつわる謎が深まっていく。その中には、咲莉那の火龍使いの力が絡んでいる可能性があった。
文献には、咲莉那が討伐隊と交戦した際の記録が詳細に記されていた。『彼女は静かに姿を現し、静かな声でこう言った。「私が隊員を殺してないって何度言えば分かってくれるの?」その言葉は空気を切り裂くように響き、彼女の瞳には底知れぬ謎と強い意志が宿っていた。彼女はこちらをじっと見つめ、白華楼の隊員たちをその場に立ち尽くさせた。
しかし、張り詰めた沈黙を破るように、隊員たちは言葉を交わす間もなく攻撃を開始した。その瞬間、緊迫した場面が一気に動き始めた。
戦闘は次第に激しさを増し、隊員たちは死力を尽くして咲莉那に立ち向かった。しかし、戦闘の混乱の中で、副司令官の娘が命を落とすという悲劇が起こった。その瞬間、咲莉那の瞳は異様な光を宿し、彼女の力が制御を失い暴走状態に陥った。
咲莉那の暴走は凄まじいもので、周囲の風景が一変するほどの破壊を引き起こした。白華楼は甚大な被害を被り、多くの隊員が倒れ込み、その場は悲惨な光景となった。――』と記された文章に、瑛斗は息を飲んだ。
甚大な被害を受けた白華楼の隊員たちが、その後どのように回復したのかや、咲莉那がなぜ暴走したのかについての記述は曖昧だった。しかし、咲莉那の名前がそこに明確に記されている以上、彼女が原因で白華楼の隊員の多くが命を落としたことは明らかだった。
瑛斗は頭を抑えながら、深い溜息をついた。「これは思った以上に重大なことだ。どうして彼女がそんな状態になったんだ…?」
その後、瑛斗は図書室を隈なく歩き回り、さまざまな文献に目を通していった。しかし、どの文献にもあの一冊ほど細かい記録は見当たらなかった。一枚一枚めくるたびに失望感が募り、手がかりをつかむ期待が薄れていく。
「やっぱり、あの文献しか細かく載っていないのか…?」瑛斗は手にしていた本を閉じ、再び深いため息をついた。咲莉那にまつわる真実を追い求める中で、この謎がますます深まり、自分の手の届かない場所にあるような感覚が胸を締め付ける。
瑛斗は少し考え込み「先輩たちは忙しいから、引退した人に聞いてみよう。」と呟くと図書室をあとにし、真っ直ぐ知り合いの家へと向かった。胸の内で期待と不安が入り混じる。「あの人なら、きっと何か知っているはずだ…。」
古びた木の扉の前に立つと、瑛斗は迷いなく扉を叩いた。だが、返事は返ってこなかった。「う~ん、外出中かな?探しに行こうっと。」瑛斗はそう呟き、家をあとにした。
村の中をずぶ濡れの一匹の狐が歩いていた。体からはポタポタと水が滴る。(はぁ~、まさか、木の上から落ちるなんて…)そう、あのとき咲莉那は木の上から落ち、したの湖に落ちてずぶ濡れになってしまったのだ。
村の中を歩くずぶ濡れの狐に、村人たちは次々と目を留めた。「あれ、なんだ?」「狐がこんなところにいるなんて珍しいな。」ざわめきが広がる中、咲莉那は気まずい気持ちを抱えながらも足を止めることなく進んだ。(目立つのは仕方ないけど、これ以上騒ぎにならないといいけど…。)
ふと、近くにいた子供が駆け寄ってきた。「お母さん、見て!狐さんが濡れてるよ!」その声に、周囲の村人たちも集まり始めた。「かわいそうに、どこかで雨に降られたのかしら?」と老婆が呟きながら、咲莉那に近づいてきた。
「ちょっとおいで、私が拭いてあげよう。」老婆の優しい声に、咲莉那は一瞬戸惑いながらも、その場に立ち止まった。
老婆が狐の咲莉那を拭いてあげるとそのまま抱き上げ、その目をじっと見つめた。「まぁ、本当に美しい目の色ね。」その言葉に、子供も興奮した声を上げた。「こんな狐さん、初めて見たよ!」しかし、老婆の表情が一瞬変わり、疑問が顔に浮かんだ。「あら、この目の色もしかして…咲莉那ちゃん?」その言葉が響いた瞬間、咲莉那の胸には冷たい緊張が走った。
(まずい、気づかれた…!)彼女の心は動揺しながらも、外見を保つために静かに視線を移した。
老婆は狐の咲莉那をじっと見つめ、「やっぱり、咲莉那ちゃんね。」と静かに言った。その言葉に、咲莉那の心は大きく揺れた。(ああ、白華楼に付きだされる…!)彼女はそう思い、目をギュッと瞑った。
しかし、次に聞こえてきた老婆の声は、彼女の予想とはまったく違っていた。「皆、咲莉那ちゃんよ。咲莉那ちゃんが帰ってきたわ!」老婆は嬉しそうに叫び、村人たちの間にその言葉が広がっていった。
「なんだって!?」「咲莉那が!」「咲莉那様!」「火龍使い様!」村人たちは驚きの声を上げながら、老婆の元へ次々と駆け寄った。
咲莉那は村人たちの反応に目を見開き、思わず後ずさりしたくなる。(みんな…どうして、こんなに喜んでいるの?)彼女の混乱は隠しきれなかった。
「咲莉那様、お帰りなさい!」と一人の青年が声を上げると、周囲の人々も次々に頷いた。「私たちはずっとあなたをお待ちしていました!」咲莉那は村人たちの反応を不思議に思い、心の中で呟いた。(みんな、私のこと嫌いなんじゃないの?)その時、老婆が微笑みながら咲莉那を優しく見つめていた。
「咲莉那ちゃん、もうそろそろ、術を解いたら?もうバレてしまったんだから、するのは無意味よ。」
咲莉那は心の中でため息をつくと、老婆の腕のかなから抜け出した。
村人たちはポンッという音と共に立ち込めた煙が消える様子を見つめていた。そして、その中から現れた咲莉那を目にすると、驚きの声を上げた。「本当に咲莉那様だったのか!」「信じられない、火龍使い様が…!」一人の女性は目に涙を浮かべながら、咲莉那の姿をじっと見つめていた。
咲莉那はそんな村人たちの反応に戸惑いながらも、小さな声で言った。「どうして…そんなに喜んでくれるの?」彼女の不安そうな表情は隠せないままだった。
老婆は優しく彼女に、「そう思うのも無理ないわよね…。一度だけでいいから、皆の話を聞いてくれないかしら?」と語りかけた。
咲莉那は「…分かった。」と小さく呟いた。老婆は柔らかい笑顔を浮かべ、「ありがとう。」と静かに言った。その言葉をきっかけに、村人たちは咲莉那に向かって話し始めた。「まずは謝らせて欲しい。本当にすみません。俺たち、咲莉那様のあの言葉を聞いたあと思ったんだ。俺たちは、なんて薄情者なんだろうって、咲莉那様にたくさん助けてもらっておいて、咲莉那様を真っ先に信じず、白華楼の言葉を信じてしまった。白華楼の言葉が正しいと思ってしまった。少し考えれば咲莉那様はそんなことしないって分かったはずなのに、白華楼に流されてしまった。俺たちを信じてくれていたのに、恩を仇で返して、最低だ。あなたは俺たちに言いました。『みんなが私を責めても…私はみんなを守る。』とだからこそ、今度は俺たちが守ります。あなたが俺たちにしてくれたように、あなたの味方でいます。」
咲莉那は村人たちの言葉を静かに聞いていたが、その胸は複雑な感情でいっぱいだった。(どうして…私みたいな存在のために、こんなにも心を込めてくれるの?)彼女の瞳が少し揺らぐのを見た老婆が、そっと肩に手を置いた。「大丈夫よ、咲莉那ちゃん。私たち、今度こそあなたを守るわ。」
村人たちは次々に頷き、「咲莉那様、どうか信じてください。もう二度と、あの時のようなことは繰り返しません。」と声を揃えた。その決意に、咲莉那は小さく息をつきながら静かに答えた。「…ありがとう、皆。」その声は、微かに震えていた。
村人の一人が突然声を上げた。「秋穂さんに咲莉那様が帰ってきたって伝えてくる!」その言葉を残し、彼は勢いよくその場を駆け去っていった。
しばらくすると、「秋穂さん、こっちだよ!」という声と共に二人の人影が走ってきた。村人たちの間を抜けて、一人の女性が咲莉那の姿を見つけると、その足を止めた。「咲莉那!」秋穂は涙を浮かべながら、咲莉那に飛び付き、その喜びを全身で表現した。
咲莉那は秋穂の熱い抱擁に戸惑いながらも、静かにその感触を受け入れる。「秋穂…。」
「良かった…良かった…!」秋穂は涙を流しながら咲莉那の手をぎゅっと握りしめた。「私、咲莉那が死んだって聞いたとき、信じたくなかった。生きていて欲しいってずっと願ってた…瑛斗から生きているって聞いて、すごく嬉しくて…本当に良かった…。」
その言葉を聞いた村人たちは親友の再会に涙を流したあと、一斉に頷き、「咲莉那様、これからは私たちも力を合わせます!」と声を合わせて叫んだ。その瞬間、咲莉那の胸には少しだけ温かさが戻り始めていた。
「皆が集まって騒いでると思って来てみれば、咲莉那じゃないか!」釣りざおを肩に担いだおじさんが嬉しそうに声を上げながら、こちらに歩いてきた。「久しぶりだな!」その快活な声が村人たちの間に響き渡り、場の空気がさらに明るくなった。
「源次(げんじ)おじさん!」咲莉那が驚きの声を上げると、釣りざおを肩に担いだ源次おじさんが目を細めながら笑った。「この様子だと、おまえたち、ちゃんと咲莉那に伝えれたみたいだな!」
源次おじさんは村人たちを見渡し、「良かった良かった」と軽く頷きながらハハッと笑った。その笑い声が場をさらに和やかにした。
源次おじさんは周囲を見渡しながら、「あれ、そういや、瑛斗は?一緒じゃないのか?」と咲莉那に尋ねた。
「瑛斗は、もうとっくに村にいるはずだよ?見なかったの?」咲莉那が問い返すと、近くにいた村人たちが源次おじさんの代わりに答えた。
「瑛斗なら、白華楼に行きましたよ。」
「白華楼に?」咲莉那は驚いた表情を浮かべた。
村人たちは頷きながら話を続けた。「白華楼で何か変わったことがないかって聞かれて、それで最近忙しいのかバタバタしてたなって答えたんです。それを聞いて瑛斗が、ちょうど様子を見てくるって言って、白華楼に向かったんですよ。」
「なるほど、調べたいことって…私関連かな?」咲莉那は村人たちの話を聞きながら、静かに呟いた。
瑛斗は白華楼の元隊員の知り合いを探して、渡りを歩き回っていた。「う~ん、どこにいるんだ?」彼はあたりを見回しながらつぶやいた。ふと視線を遠くに向けると、村人たちが集まっているのが目に入った。「どうしたんだろう?」と不思議に思いながら近づいていくと、彼の目に飛び込んできた光景に思わず立ち止まりそうになった。
「咲莉那さん!?」瑛斗は驚きで声を上げると同時に、大急ぎで咲莉那の元へと駆け寄った。
(瑛斗のことを探しに行くべきかな…?でも、すれ違いになったら面倒だし…。)咲莉那は一瞬足を止めて考え込んだ。その時、「咲莉那さん!」と聞き慣れた声が彼女の耳に飛び込んできた。驚いて声の方を振り向くと、瑛斗がこちらに向かって全力で走ってくるのが見えた。
「瑛斗!」咲莉那が咄嗟に声をあげると、瑛斗が息を切らせながら駆け寄り、「咲莉那さん、どうして術を解いているんですか!」と問いかけた。その真剣な声に咲莉那は少し肩をすくめ、「いや、最初はちゃんと化けてたんだよ。でも…目の色でバレちゃってね。それで、今こうなってるわけ。」と苦笑いを浮かべながら話した。
老婆は微笑みながら言った。「咲莉那ちゃんの目の色は、特徴的だからね。淡く薄い紫だけど透明感のある、美しい瞳。私たちが忘れるわけないでしょ。目を見た瞬間、『咲莉那ちゃんじゃないか』って思ったんだよ。」
その言葉に村人たちは頷きながら、「確かに!」と笑い声を交えつつ、咲莉那を見つめた。
村人たちが瑛斗に問いかけた。「瑛斗、白華楼が村を最近訪れる理由聞いてきてくれたか?」
瑛斗は頷くと「ああ、理由分かったよ。」と言い、話し始めた。「どうやら先輩によると、南の方角で咲莉那だと名乗るヤツが現れたらしくて、その対処に追われているとのことでした。」
咲莉那は苦笑いしながら、「たまに居るんだよね~そういうヤツ。」と軽く肩をすくめて言った。
「あ、そうだ。源次おじさんは居る?」瑛斗が老婆に尋ねると、「俺ならここだ。どうした、瑛斗?何か俺に用か?」と源次おじさんが釣りざおを肩に担ぎながら軽く声をかけた。その穏やかな問いかけに瑛斗は少し息を整えながら、「源次おじさん、実は聞きたいことがあるんです。」と真剣な表情を浮かべた。
「俺に聞きたいことって言うことは、白華楼関係だな?」源次おじさんが肩にかけた釣りざおを軽く揺らしながら瑛斗に問いかけた。瑛斗は頷きながら真剣な表情を浮かべた。「はい、そうなんです。」
「それで、何が聞きたいんだ?」と源次おじさんがさらに促すと、瑛斗が「それが…」と話し始めようとしたその時、咲莉那と秋穂の楽しそうな笑い声が聞こえた。
瑛斗がふと視線を向けると、二人が和やかに話している様子が目に入る。源次おじさんはその光景を見つめながら、ふと釣りざおを肩に担ぎ直し、静かに呟いた。「これで、冬叶(とうか)ちゃんも居たらな…。」その声には、どこか切なさが滲んでいた。
「冬叶?」瑛斗が名前を聞き返すと、源次おじさんは懐かしそうに目を細めた。「ああ、瑛斗は知らなかったな。冬叶ちゃんは、咲莉那と秋穂の友達で、いつも三人一緒だったんだ。」
瑛斗は軽く眉をひそめながら尋ねた。「だったんだ…?今は?」
その問いに源次おじさんは少し間を置き、遠くを見つめながら静かに言った。「それがな…。」
「死んでしまったんだ。」源次おじさんの声は低く、どこか遠い記憶を辿るようだった。
瑛斗は目を見開きながら問い返した。「死んでしまったんですか…?」
源次おじさんはゆっくりと頷き、「ああ、十年前にな。」と静かに言った。その言葉が村の空気を一瞬張り詰めさせた。
「それで、聞きたいことは何だ?」源次おじさんが瑛斗に問いかけると、瑛斗は真剣な表情で口を開いた。
「咲莉那さんについてなんですが…。白華楼の記録によると、『戦闘の混乱の中で、副司令官の娘が命を落とすという悲劇が起こった。その瞬間、咲莉那の瞳は異様な光を宿し、彼女の力が制御を失い暴走状態に陥った。
咲莉那の暴走は凄まじく、周囲の風景が一変するほどの破壊を引き起こし、白華楼は甚大な被害を受けた。多くの隊員が倒れ、その場は悲惨な光景となった。』と記されていました。」
瑛斗は源次おじさんを見つめながら続けた。「ただ、記録には咲莉那さんが暴走した原因までは書かれていなくて。何か知っていることはありませんか?」
源次おじさんは少し考え込み、静かに口を開いた。「恐らくだが、咲莉那の暴走の原因は…冬叶ちゃんだろう。」
「何故冬叶さんなんです?」瑛斗が問いかけると、源次おじさんは瑛斗をじっと見つめながら言った。「お前、さっき副司令官の娘が亡くなったあとに咲莉那が暴走したって言ったよな?」
瑛斗は頷きながら答えた。「はい、そう文献に書いてあったので…。」
源次おじさんは肩にかけた釣りざおを軽く揺らしながら、ゆっくりと言葉を続けた。「副司令官の娘…それが冬叶ちゃんなんだよ。」
源次おじさんは遠い記憶を辿るように目を閉じ、一息ついた。「冬叶はな、いつも明るくて、村でも人気者だった。咲莉那と秋穂とは本当に仲が良くてな…三人でいるのが当たり前みたいなもんだったんだ。」
瑛斗は静かに頷きながら、源次おじさんの言葉を待った。「咲莉那を討伐しようとした、あの日、咲莉那を庇って冬叶が命を落とした。副司令官の娘という立場もあって、彼女の死はただの悲劇じゃ済まなかった。」
瑛斗が眉をひそめる。「つまり、その瞬間に咲莉那さんが暴走したのは…彼女の死を目の当たりにしたからなんですか?」
源次おじさんは釣りざおを軽く揺らしながら、低く答えた。「それがすべてかどうかは分からん。ただ…あの日の咲莉那の瞳は、それまで見たことがない光を宿していた。」
しばらく沈黙が続き瑛斗が口を開いた。「咲莉那さんを討伐しようとした十年前の日こと、教えてくれませんか?」
源次おじさんはしばらく目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。「分かった、話そう。だがこれは、お前にとって少々刺激が強いかもしれん。それでも良いか?」瑛斗は頷くと「かまわない。咲莉那さんの真実に近づけるのなら。」覚悟のこもった声で言った。
源次おじさんは瑛斗の真剣な表情を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。「あの日、俺たち白華楼は、咲莉那を討伐するべく、咲莉那と火楽様が拠点にしている山へ向かう準備をしていたんだ。準備が終わって、俺たちは戦前の簡易的な宴をしていたんだ。『明日こそ、決戦のとき、咲莉那を殺し、罪を償わせるのだ!』最高司令官の冥央様がそう叫ぶと皆が酒が入った杯を高くあげ、冥央様に続いて叫んだ。『咲莉那を殺し罪を償わせる!』とな、実のところ俺は咲莉那のことを信じていたんだ。咲莉那はそんな子じゃないからな。だがそんなことを言えば、白華楼の隊員たちから白い目で見られる。俺はそれが怖くてな、だから言えなかったんだ。だから本当は殺したくはなかった。話がそれてしまったな。皆が叫んでいた瞬間空気が不穏になるのを感じたよ。木々はざわめき、鳥たちは一斉に飛び立った。それに気づいた皆もすぐに警戒した。突然、咲莉那が静かに姿を現した。月光が彼女の黒色の衣を照らしていた。静かに咲莉那は言った、『私が隊員を殺してないって何度言えば分かってくれるの?』その声には、悲しみが宿っていたよ。すぐさま冥央様が刀を抜き、『火龍使い・咲莉那よ、そちらから出向いてくるとはな、好都合だ。皆の者、数はこちらの方が上だ、恐れることはない、かかれ!』と叫んだ。その瞬間戦いの火蓋が切られた。」