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Ep63 竜巻戦線

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2024年03月05日

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 ミカエルは、ルシフェルに手を差し伸べた。

「僕たちは同じだ。僕も素直になる。ルシフェル、君も自分が今、本当にすべき事は分かるよね?」

「あぁ……七神を守るよ……バベル……」

「そう言うことです、ヤマト。この場で空間移動が出来るのは貴方だけです」

 そうだ、暴発は始まってしまったが、まだ終焉を止めることは出来るのだ。

 この世界は、これから七神が自我を失い、以前よりも自然界の力を宿して暴走を始める。

「まずは……風の神の『竜巻』か……」

岩の神カズハの大地の破壊も危ないですが、一番魔力が残されていることもあるので、ルシフェルとカエンさんたちの協力があれば抑えておけるはずです」

「じゃあミカエル、僕と自然の国へ向かおう……!」

 一度、守護の国を龍族の一味とルシフェル一向に任せた僕とミカエルは、自然の国へと向かった。

「やはりもう始まっているな……。クッ……風が強い……」

「ヤマト! 急ぎましょう! バルトスさんたち守護神は暴発の対処なんて知りません!」

 僕たちが駆け付けると、森林街に聳え立っていた樹々たちは、

「え……無事……?」

 何事も無いようにそこに聳え立っていた。

 そして

「遅かったじゃねえか、唯一神!!」

「お前……フーリン!!」

 そこには、バルトスさん、ランガンさんと並んで、竜巻から街を守っていたフーリンの姿があった。

「その声……ヤマトくんなのかい!?」

 バルトスさんは驚きに声を上げる。

「一先ず、事情はグレイスから聞いたよ! 君が来てくれて助かった!」

「グレイスさん……!」

 そうか、風龍の力を呼び起こして、光龍ライトに自然の国へ真っ先に転送してもらったんだ……!

「それで、グレイスさんとヒーラは!?」

「自然の国、荒野地帯のもっと奥だ……。ここでも竜巻がとてつもないのに……遥か向こうにいる……」

 荒野地帯は真っ新な広野が広がっていた。

 吹き荒れる暴風。

「行くぞ、ミカエル……!」

 僕たちは暴風の中を奥へ奥へと突き進み、やっと戦闘している数人を視認することが出来た。

 風の神ヒーラは気絶しており、化身のような人型のエネルギー体が暴走をしている。

 そこに立ち向かっていたのは、風龍の力を得たグレイスさんと、既にボロボロのレーランさんだった。

「ヤマトくん、来てくれたか」

「レーランさん……!? 危ないですよ!?」

 彼はグレイスさんの愛弟子にして、荒野地帯の現副隊長を務めているが、やはりランガンさんやバルトスさんに比べて実践経験の差が劣っている。

「そうだ、レーラン! 後は任せて退け!」

「そうは行きません!!」

 そして、両手剣を再び構えた。

「私たちは、あなたがいなくなってから、この国を一度裏切ろうとしてしまいました……。あなたの弟子として、この国の兵士として、今じゃなきゃ返せないから!!」

 そして、レーランは再び雷をその身に宿した。

 全身を雷で覆うことで、この暴風の中を凌いでいた。

「そんなことしてたらすぐに魔力が……」

 そんな僕の言葉を静止するように、グレイスさんは構えた。

「ならば着いて来い! レーラン!!」

「はい! 隊長!!」

 彼らは……どうしてそこまで……。

「ヤマト、バベルの記憶を取り戻し、ヤマトとしての記憶もある中で、未だ彼らの勇士が分かりませんか?」

 いいや……分かってる……!

「風神魔法 ウィンドストーム!!」

 僕は二人に追い付く。

「風の神ヒーラの暴走を止める為には、あの暴走している人型のエネルギー体を抑える必要があります……!」

「どうすればいい!」

巨大な岩魔法で暴風を閉じ込め、中で雷を放電させてエネルギー体にダメージを負わせ、弱まったところを風魔法で一気に吹き飛ばせれば……」

 しかし、この中で巨大な岩魔法を扱える者はいない。

「雷の使い手は二人いるのに……どうすれば……」

「困ってるみたいだな! ヤマト!」

「アズマ!? どうしてここに!?」

 東の社から自然の国までは距離があるのに……。

「仙人ガロウさんか!」

「そう言うことだ! 他の三人も結界を張り終えて、それぞれ戦地に向かっているはずだ!」

 アズマの水防御ならこの暴風は大丈夫そうだが……肝心の巨大な岩魔法の問題が……。

岩魔法が必要なんだろ?」

「え……?」

「ミカエルー!!」

 すると、ミカエルは既に察知していたかのように光槌をその手に宿していた。

「アズマ! 貴方に掛かっていますよ!」

 そして、光槌はアズマに向けて放たれる。

 光は風を干渉しない。

「俺は長男だぜ! 任せろ!!」

 そして、光槌をそのまま地面に

「オウラッ!!!」

 ドゴン!! と、叩き付けた。

 ボコボコボコ! と、地面から巨大な岩盤がもの凄い勢いで放たれ、一面は岩で覆われた。

「ぶっ壊される前に頼んだぞ!!」

「す、すごい……! いつの間にそんな連携……。お二人に、雷魔法を頼めますか……!」

「久しぶりにアレをやるぞ、レーラン」

「アレ、ですね……!」

 すると、グレイスさんの槍はレーランさんの手に、レーランさんの双剣はグレイスさんの手に受け渡された。

「普段、国を守る際は対個体が多いから、強烈な一槍を向けられる槍を使うんだがな……」

 すると、レーランさんはその身に雷を蓄電させる。

「受け取ってください! 隊長!!」

 そして、満面に蓄電された槍をグレイスさんに投げる。

「レーランは蓄電能力が長けている。それを……」

 バチバチに雷が宿された槍を、片足で受け、その身全身に雷を受けるグレイスさん。

「合体雷魔法 イクスボルトブレイド!!」

 全身から思い切り双剣を振り下ろし、目に見える巨大な雷の二剣の雷刃を放出した。

 雷刃はヒーラのエネルギー体を真っ二つに斬り裂く。

 そして、グレイスさんは双剣を捨て、槍を構えると一息に紫色の雷光を光らせて駆け上がる。

「ヒーラ様、直ぐに助け出してみせます……! リューダ、力を貸してくれ!!」

 そして、ヒーラに向けて槍を構える。

「風龍魔法 スパイクトルネード!!」

 天に昇るほどの竜巻を巻き起こし、ヒーラに宿っていたエネルギー体は完全に姿を消した。

 すごい……僕の力要らなかったな……。

 まあでも、ここからが僕の仕事だ……!

「光神魔法 エイレス!!」

 僕は、ヒーラに掛けられていた暴発の結界を解いた。

 たちまち、自然の国を覆っていた竜巻は消滅し、ヒーラらその場にパタリと……

「おっと……」

 倒れそうなところを、グレイスさんが支えた。

「流石は自然の国の “矛” ですね!」

 グレイスさんは、そっと綻ぶような笑みを溢した。

 暫くして、バルトスさんやランガンさん、フーリンも駆け付けてきた。

「無事で何よりだ! 守護神である僕が何も出来なかったなんて……情けない話だ……」

「そんなことはない、バルトス。お前がいなければ、俺は前線で戦うことは出来ないのだからな」

「グレイス……」

 ヒーラを優しく寝かせると、グレイスさんは立ち上がる。

「さあ、役目は終えた。リューダ、君も自由だ」

 風龍リューダは、そっとグレイスさんの身体から抜け、その大きな身体を露呈させた。

「隊長……!」

 レーランさんは涙を浮かべさせた。

「ふっ、ランガン」

「はい! 隊長!!」

 涙ぐむランガンさんに、グレイスさんは向き合う。

「隊長は俺ではない。お前だ。この先の “矛” を、お前たちに任せたぞ」

 そして、静かにグレイスさんは消えて行く。

 兵士たちも、こぞってその場に駆けて来ていた。

 ランガンさんは、全員を迅速に整列させ、レーランさんを強引に立たせると、涙を溢れさせながら声を上げた。

「この国の英雄、荒野地帯 元隊長 グレイス殿に、全員、敬礼!!!」

 ザッ!と、全員は敬礼し、最後はニッコリと笑って、グレイスさんは消えて行った。

 ――

 雨が降る荒野に、小さな子供がトボトボと歩く。

「おや、外から来たのかな?」

「お前は……?」

「私はこの国の神。風の神のヒーラです。あなたは?」

 少年は、睨み付けて答える。

「……グレイス」

「そうですか。グレイス、あなたの心が休まりますよう。この自然は、あなたの心をきっと癒します」

 しかし、グレイスの心は緑で満たされることはなく、ひたすら荒野で鍛錬に明け暮れていた。

 面倒はバルトスが見ていたが、バルトスにも一向に反抗的な態度を示し、鍛錬の相手にさせられていた。

 その内、正義の国から海洋隊の兵士たちが来る。

「グレイスという男はいるか?」

「グレイスなら、一応僕の部下ですけど……」

 バルトスは兵士たちと対面していた。

 そして、グレイスは狙っていたかのようにその身を乗り出し、槍を突き立てる。

「……!!」

 それを制したのは、風の神ヒーラだった。

 グレイスの槍をモロに肩に刺された。

「風の神……どうして……」

「あなたが誰かを殺すことなんかない……!」

 そして、ヒーラは直ぐに自己治癒を行った。

 兵士たちも少し目を丸くさせていた。

「グレイス……何があったかは分からないが、妹のクイナさんが寂しく待っているんだ……。あの子に次期隊長は務まらない……」

「そうだ、ウチの長男もどっか行ったしな……。正義の国もピンチなんだ……」

「うるせえ! 海洋隊の隊長が父上を殺したところを、俺は見ていたんだ!! 復讐してやる……!!」

 しかし、兵士たちは何も知らない顔を示す。

 その内、「いやでも、あんな人だったし……」と、ポロポロと溢し始めた。

 まるで、殺されることが仕方なかったかのように。

「人は何があっても殺してはいけません! 正義を盾に好き勝手言わないでください!!」

 グレイスが再び槍を手にする前に、声を荒げたのは、風の神ヒーラ自身だった。

「ヒーラ様……」

 兵士たちも、突然の神の声色に退く。

「ロズの国は、そんなにも低落してしまったのですか」

「そ、それは……」

「ロズを崇める正義の国の人間なら、恥ずかしい真似を外で露呈させるのはおやめなさい!」

 兵士たちは、やむ追えなく帰還して行った。

「なんで……俺のことなんて放っておけば……」

 そんなグレイスを、ヒーラは優しく抱きしめた。

「私は治癒を司る神なのに、あなたの負傷してしまった心を治癒させてあげられていないようですね。彼らの前で偉そうなことを言いましたが、自分の国の人間を治癒させられない私もまた、未熟な神です」

「自分の国の……人間……」

「そうです。あなたは、立派な自然の国の一人です」

 それから、グレイスは更に鍛錬に磨きを掛けていた。

「お、おい……! 復讐はもう……」

 バルトスの声掛けに、グレイスは笑って答える。

「ちげえよ、バルトス! この国を守る為だ! ヒーラ様に恩を報いる為にな! まだまだ行くぜ!」

 そうして、グレイスは雷槍を掲げた。

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