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───3日後……
『カラスバさ〜ん!すみません、お待たせしました』
「ん、ええよ。そんな待っとらんし」
『わあ…カラスバさんの私服初めて見ました』
「どうや、いつものカラスバさんと違ってかこええやろ」
『んー、なんか新鮮な感じです…!!』
いつものピシッとしたスーツではなく、ゆるっとしたジャケットに身を包み、髪も緩く分けられており、メガネもいつものものではなく、スクエア型の一般的なメガネだからか新鮮な感じがする
そんなカラスバを見て微笑むシオンに吊られ「そこはお世辞でも頷くもんやで」と笑う
『それにまだ寒くないのに、長袖なんですね』
「ま、刺青入れとるしな」
『え!?え〜!!かっこいい!見たい!!』
目を輝かせて見たい!とカラスバを見つめる
「そうやな、ほんならこの服脱がなあかんな。脱がしてくれるん?」
『……エッッッ!?!?!?──ゔ、ゲホッ、ゲホッ!!』
意地悪そうに笑うカラスバに驚いて大きな声を出したせいでむせてしまうシオン
「すまんすまん、冗談や!大丈夫か?」
『ゲホッ!ゲホッ…!!だ、大丈夫です…』
深く深呼吸をし、なんとか落ち着かせる
『もう、変な事言ってないでカフェに行きますよ』
「ははっ、すまんすまん」
そういって口を尖らせそっぽを向くシオンに対し、カラスバは楽しそうに笑った
『それで本題ですけど…改めて、本当にありがとうございました。』
「別にそない頭下げんでええ、はよ上げ」
『そう言われても、私達にとってあそこから逃がしてくれたカラスバさんは命の恩人のようなものですから』
てっきり、アザミの待遇について根掘り葉掘り聞かれて怒られると思っていた為、こうも真剣に感謝されるとは思わず驚く
「オレがしたくてしたんや、やから気にせんでええ」
『…本当に、ありがとうございます』
シオンにこうも真剣に感謝されると慣れないからか、気が重くなる
『…それなら少し本題なんですけど…どうして施設の場所がわかったんですか』
シオンの静かで綺麗な声が響く
まさか、勘づいたのだろうか。3年前も変に勘が良かった
少し冷や汗をかくがすぐにいつもの営業スマイルを浮かべる
「…3年前お前の様子見に来た、施設のモンがおってな、怪しかったさかい捕まえたらすぐ居場所吐いたわ」
『施設の人間が…?…珍しいけど……そうなんですね、』
アザミが考えた嘘はどうやら通用したようや
勿論アザミ曰く、実際施設の人間が外へ出る事は滅多にないし、口も硬いと話していた
しかし、アザミよりかなり能天気なシオンにはバレなかった様子
『じゃあ私はなんで倒れてたんですか?3年も
それに首の装置が取れてるのも不思議ですね…その理由も知ってたりします?』
ああ、ほんま勘が鋭い女やわ
「そうやな、まぁアザミから聞いとる通り不慮の事故や。施設の情報を知る前にお前事故にあってな、そん時の当たり所が悪うてだいぶこと眠ったみたいや
記憶喪失もその後遺症やな」
『えぇ……』
少し疑っているようだが、声には出さずに少し不思議そうにしつつも頷き納得する
「首のモンについても、 アイツら頭だけで力はなかったし、施設凸った時に少し脅したら簡単に解除してくれはったわ」
これは本当
現にアザミの装置は少し脅しただけで、解除された
あの時の虚しさは今でも覚えている
あの時のシオンを苦しめていた首輪がこうも簡単に外されてしまうのかと
もっと別の方法を探して、此奴らの場所を突き止めていたらシオンはあーならなかったのではと
「(また、過ぎたこと後悔してもうて…)」
少し眉間を抑え、切なそうに瞳を揺らす
『…あの、カラスバさん』
「なんや」
『私達姉妹が殺し屋って事は知ってますよね、それは3年前も同じですか?』
「そうやな…まぁ3年前もお前が殺し屋って分かっとった」
その言葉にシオンは目を見開く
『それなのに、どうして殺さなかったんですか?
今もこうしてアザミの面倒を見てくれたり、私にも気を使って……』
そんなの、好きだからだ。
なんて言えるはずがなかった
「ま、お前ら程の戦力に恩は売っといて損はないやろ?実際にアザミはええ働きするし」
『怖っ…というかアザミをあまりこき使うのはやめてくださいね』
「わかっとるて、安心し」
そう言うとシオンは聞きたいことを全て聞けたのか、ずっと前に来ていたパンケーキを頬張る
『んー、でもなんかモヤモヤしまふね〜
こりゃ、早く記憶戻さないと』
そう話すシオンに対し、視線を下に落とすカラスバ
「そない、張り切らんでええんやない?
───無理に思い出すんは体に悪い言うで」
『大丈夫ですよ、私人より強くできてるので!カラスバさんはよくご存知でしょ?』
そう言うとカラスバは「身に染みてわかっとるわ」と笑った
『すみません、今日はありがとうございました〜』
「こちらこそ、おおきに」
『わ〜、ミアレの夜は綺麗ですねぇ〜!』
暗くなった空を見上げながら、シオンが笑う
「ミアレはカロスで1番の街やからな」
『綺麗…』
施設で生まれて外に出るまで数十年、母の話しか聞けなかったが母が話していた外の世界を今見ているのだと実感する
綺麗な夜空に煌びやかな街明かり
冬は『くりすます』というものがあって、この街がもっとキラキラ輝くのだとか
そして雪が降る、母が見たことの無い雪
『…ミアレでも雪見れるのかな』
「ミアレではあんま降らへんけど、ミアレから少しでたエイセツシティの方行ったら見えるんとちゃう?」
『そうなんですね…エイセツシティか……』
エイセツシティ…何か、引っかかる
何か、何だ。何かをそこで……
───ズキッ!!
その瞬間、頭が突如痛みその場で頭を抑え後ろへ後ずさりする
気づくと、白色の、冷たいふわふわした地面を見つめていた
これが母の言っていた雪だろうか?
しかし母が言っていた雪は真っ白のはず
何故、こんなにも雪が赤いの?
その時自分の目の前に、口から血を垂らした女が立っていることに気づく
瞳は同じだが、髪色が紫で心做しか顔色も悪く見える
『…貴方、誰』
そういうが相手はクツクツ、と不気味に口角を上げて笑うばかりで気味が悪い
そんな相手を不気味に思いつつ、睨んでいると相手がこちらに近寄り、胸ぐらを捕まれそのまま地面に押し倒される
『っ、なにし───』
〖──……せる、私…なんて───いらない〗
相手の方を見た瞬間、紫髪の女が苦しそうにしながら、小さなナイフが私の首目掛け突き刺そうとしていた
『っは…!!はっ!!』
一気に目が覚める
ここはどこだろう
それにさっきのはなんだったんだろう
慌てて首を触るが、突き刺されたような感じはない
ということはなにかの夢だったのか
にしてはリアルだった
それにあの瞳は間違いなく私だった。
しかし何を言おうとしたのだろう、何故私を殺そうとしているのだろう
── それになんであの私は血を吐いてたのだろう
そう思いながら辺りを見回していると、部屋のドアが開く
「姉さん!よかった……っ」
『ア、アザミ?ここは…?』
「私の家だよ。カラスバが血相 抱えて姉さん抱いて来たから焦ったよ」
『あ…そっか、私途中で…カラスバさんは?』
「カラスバは…少し忙しいから」
それだけ言うとアザミはシオンに水を渡す
その水を飲み「そっか…」と落ち込む
きっと目の前で倒れてしまって驚かせてしまったはず
また、日を改めて謝りに行かないと
「姉さん、今日は少し寝なよ。まだ色々混乱してるでしょ」
『あ、うん…』
そういってアザミは部屋のカーテンを閉めた
────サビ組事務所
「ただいま戻りました。」
「!シオンはどうやった」
アザミが事務所に来るなり、青ざめた顔でシオンの容態を聞くカラスバ
「起きましたよ。特に体のどこかが悪いとかは無いみたいですけど、今は私の家で弟が看病してます」
そういうとカラスバは安心したように椅子に崩れ落ちる
「…オレの、せいや」
そう呟き落ち込むカラスバ
ジプソ曰く、先程からずっとこの調子だそう
「オレがエイセツシティの話なんかしたけんや」
「そんなの分からないじゃないですか…それに姉さんは無事なんですし…」
まぁそう言えど、目の前で1度姉を失ったカラスバからしたら相当なトラウマだろう
ジプソと目を合わせた後、カラスバを心配そうに見つめる二人
一旦1人にした方がいいだろうと思い2人揃って静かに事務所を後にした
〖…っは……カラ、スバさ……〗
今でも鮮明に覚えている、シオンが咳き込み白い雪がシオンの血で赤く染まったあの日
今日シオンが倒れた時、あの日のように見えて頭が真っ白になった
倒れて今度こそ目を覚まさないのかと
「…っ、あかんな…」
あの様子を見た感じ、エイセツシティがシオンのトリガーなのだろう
「今後は控えなあかんな…雪も、全部」
勿論記憶を戻して欲しいという我欲はある
記憶さえ戻ればシオンは自分の手元に手に入るはずだから
しかしそれで、またシオンが苦しんだら?
今度こそ倒れてそのまま起きなければ?
そっちの方が耐えれない
それなら思い出さなければいい
それに記憶を思い出さなくてもシオンの好きな物は全て把握している
焦らずじっくり囲めばいい
もう一度、惚れさせればいい