テラーノベル
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勇斗が手を離した瞬間、店内のざわめきが耳に押し寄せてきた。
個室に満ちる陽気な笑い声や、グラスがぶつかる乾いた音が甘く熱を帯びていた意識を容赦なく現実へと連れ戻していく。
「じゃあ、そろそろ抜けよっか」
勇斗は当然のように俺の腕を軽く掴んで立ち上がらせた。立ち上がった瞬間に足元が少しふらついたのは、アルコールのせいだけではない。
「え、お前本気で言ってんの、?」
「はは、なに?冗談だと思ってたの。」
先程の熱を孕んだ視線を向けていた奴とは思えない程、柔らかい笑みを浮かべるそのギャップに耳の後ろがまたじんわり熱くなるのを感じる。
断る隙も与えられず、俺は勇斗に半ば引きずられるようにして個室を出た。メンバーやスタッフに軽く手を振る勇斗の横で、俺は紅く染まった顔が見られないよう伏せながら出口に向かうしかなかった。
店を出ると冷たい夜風が顔を打って、火照った肌が一瞬で粟立った。昂ぶっていた身体が、少しだけ冷静さを取り戻す。
隣を歩く勇斗の指が、俺の手を離さないまま深く絡みついてくる。熱くて少し汗ばんだ掌が密着し、指の間を埋めるようにきつく絡められる。
男同士、ましてや一端の芸能人がこんな風に手を繋いで歩いているなんて、この状況が誰かに目撃されれば、明日には「グループ内恋愛」「禁断の関係」といった見出しで大々的に取り沙汰され、世間の晒し者になるだろう。
周囲の視線が気になって心臓が嫌というほど鳴っているのに、勇斗の、俺より一回り大きな手を振り払うことができなかった。
勇斗は全く気にする様子もなく、俺の手をしっかりと捕らえたまま、夜道を進んでいく。
逃げ場なんて、どこにもなかった。
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