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「おっ、一時間で来るとはお主達やるねぇ。じゃあ手始めに広志の後ろから抱きついて首元にキスするかしないかの距離で覗き込む感じでこっち向いて」
いつも通り中学のジャージにすっぴんお団子頭の姫咲。お団子は崩れかけてボロボロだし、目の下のクマが凄いことになっている。こんなに黒くてクマだと分かりやすいクマは見たことが無い。
「は、はぁ!? それは無理! 大体美桜が見てるんだぞ! 出来るわけ無いだろう」
絶対に嫌だ。なに首元にキスって? 吸血鬼の漫画でも描くのか!?
「いいわよねぇ、美桜ちゃん」
ギロリと獲物を捕らえたかのような視線は勿論美桜の元へ伸びている。
「あ、その……控えめに言って最高です」
うぉぉおおおおい!!!
「同志よ」
いやなに二人で固く握手してんの!? 夫が他の男と絡んでるの見たいのか!?
「ふ、腐女子舐めてたわ……」
ぬるっと広志さんはその為に用意されていただろう椅子に既に座ってスタンバイしている。残るは俺だけだ。
早くやれよ、と言っているギラギラした視線。
楽しみワクワク、と期待に満ち溢れた視線。
何も考えいないのか、仕事だと割り切っているのかも分からない視線。
ゴクリと生唾を飲み込み意を決して広志さんの背後に回る。
(朝の七時から俺なにやってんだよ……なんで美桜じゃないんだよ……)
「はい! そのまま腕を回して顔近づけて! そう! そうよ! それよ!」
姫咲のキンキンした声が身体全身に突き刺さる。言葉にしないでくれ……
そのままの状態で美桜に視線をやると見ちゃいけない物を見ちゃったけど見たい、みたいな感じで両手で目は押さえているけど隙間はガッツリ開いてある。
(いや、うん、まぁ可愛い仕草なんだけど……)
「実は新しい仕事を初めてね、小説の表紙とか挿絵なんだけど今回オメガバースの話だからこう首に噛みそうで噛まない所を描きたいのである」
ランランと光る眼光で俺の広志さんを凝視しながら凄い速さで右手が動いている。さすがプロだ。
「お、お、お、オメガバーーーーーースッ」
「な、なんだ!? 美桜!?」
雪崩のように崩れ座る美桜の元へ駆け寄ろうと広志さんから腕を離した途端銃弾のように鋭い「動くでない!」と姫咲からの攻撃を受けて身体が動かない。
恐るべし姉の威力。
「高森亜弥先生の画作でオメガバース……史上最強に素敵なオメガバースになるに決まってる。絶対書います。読む用、観賞用、保管用と三冊買わせて頂きます!」
「同志よ、ありがとう。拙者は素晴らしいオメガバースの絵を書いて見せるでござる」
いやもう、会話の内容がさっぱり分からない。何で同じ本を三冊も買う必要があるんだ? 姫咲の忍者みたいな話し方はいつ直るんだ?
俺は最初のワンポーズで無事地獄から奪還したが広志さんのポーズは本当に見ていて可哀想だった。
ベッドの上で丸くうずくまり服やら靴下を大事そうに抱えているポーズ。これは巣篭もりとか言うらしくてオメガ? の特性らしい。てかオメガってなに?
(まじで自分が受けの方じゃなくてよかった……広志さんごめん)
「オメガって何? って顔に出てるよ! 隆ちゃんには帰ったら私のお気に入りオメガバースを貸してあげるから勉強してね!」
胸の前で両腕を組みフンッとドヤ顔している美桜も可愛い。いや、もう腐女子全開の妻を可愛いと思ってしまう俺は重症なのかもしれない。