テラーノベル
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診療所にシスター達を連れて戻ると、瞬時に状況を察したマコトが、通信機で誰かに連絡を取った。
「30分以内には着くってさ」
頑張ったな二人とも、とマコトはカノン達の肩を抱いてふわりと笑った。
「これで、クズどもを一網打尽だ」
物腰柔らかなままだが、雰囲気が非常に物騒に変化していく。
「ふふふふ。首魁がこっちの手中にあるのを気付かれない内に本拠地を押さえれば、証拠隠滅も出来ないだろうからな。……前回は、建物ごと何もかも燃やしやがったんだ」
「どこに連絡したのか、聞いていい?」
カノンは個人宅に通信機があるのを初めて見た。―― まあ、医者なら緊急時に必要だとかあるのだろう。多分。
「夜中からでも拠点制圧に動いてくれる人達のとこ。それ以上は言えない」
ほどなく、黒いローブを纏った集団が診療所に現れて、意識を失ったままの三人を連行して行った。
「あの、あたしは……」
シスター達と一緒に行かなくて大丈夫なのだろうか。何だか、自分もあちら側として連れて行かれなくて良かったのか心配になる。
アトリが、カノンの頭に手を乗せて、軽くぽんぽんと叩いた。
「外に長いこと居たから、身体が冷えただろ。マコトがフロ沸かしてくれたから、先に入りな。後のことは、朝になってからだ」
「……ありがとう」
渡されたバスタオルを両手で抱き締めたので、二人に泣き顔を見せずに済んだ。
こんなに色んなことがあった後で寝られる訳がない、と思ったが、布団はフカフカで、心地よく暖められていて、カノンはすぐに眠りについてしまった。
翌朝。
再びミントグリーンのドアの店に朝食を食べに来ていた。今回はマコトも一緒だ。
「……あんまり寝た気がしない」
いかにも苦そうなブラックコーヒーを啜りながら、マコトが呟く。
「そうなんだ?俺はぐっすり寝た。お陰様で」
対照的に、その隣に座るアトリは輝くような笑顔でパンにバターを塗り、マコトに差し出している。
「……あたしもすぐ眠れた」
「なー。疲れたから爆睡したよなー」
にこにこしながらカノンにもパンを渡してくれる。何故かマコトは眉間に深い皺を寄せていた。そんなにコーヒーが苦いんだろうか。
(あれ、そういえばアトリって、どこで寝たんだろ。客間はあたしが占領してたし)
ふとそんなことを思ったが、昨日と同じパンケーキとハチミツ入りミルクティーが届いたので、そちらに意識を持っていかれる。
「いただきます」
今日も、しゅわっと感が完璧だ。
「今日は、何処かに話をしに行ったりするの?」
「いや、そのうちに呼び出されるだろうけど、今日ってことはないよ」
あっさりとマコトは首を横に振った。
「もともと、情報は隠し事無しで全て渡してたからな。生き残った目撃者の証言、知らないうちに加害者にされてしまった子供達からの聞き取り、虐待や人身売買の実態」
「………うぇ」
当事者のはずなのに、カノンが知らない闇が随分潜んでいるようだ。本当に、自分はこれからどうなるんだろう。
まだまだ話が続きそうなマコトの口に、アトリがパンを押し込んだ。
「パンケーキ食べてる子にする話じゃないな」
「……黙らせ方、他にもあったのでは?」
「暴走を止めるには、口を塞がないと」
彼も悪かったと気づいたのか、無言でモグモグしながら手振りで謝ってきた。
「ところでカノン」
口調を改め、テーブルに両手を置いて、アトリが名を呼んだ。
「あの薬でこんなことになったのが確認されているのは、今のところ俺たち二人だけだ。見た目に変化が出ただけの子達と比べたら、副作用も激しいものが今後顕れるかも知れない。だから」
テーブルの上の手を握り拳にして言う。
「俺のところに来ない?いざという時に、すぐ助けられるように」
「一緒に住むってこと?」
「そう」
願ってもない提案だったが、余りにアトリが真っ直ぐに見てくるので、躊躇った。
「ちょっと待て」
ようやくパンを飲み下してコーヒーで流し込んだマコトが口を挟む。
「どう考えても、アトリのとこでは児童を養育する環境として不適切だ。大の大人がしょっちゅう行き倒れかけてるんだから」
カノンを見て、それからアトリを見て、マコトは一旦咳払いしてから言った。
「二人まとめてオレの家に来ればいい」
「養ってくれるの?!」
目を輝かせて顔を近付けたアトリに、にべもなく即答する。
「違う。おまえは大人なんだから働け。住所移すだけだ。―― カノン、どうかな?」
二人ともが、カノンを見つめて待っている。
(――五年前、あの時は流されて居場所を勝手に決められてしまったけど)
今は違う。ちゃんと、カノンが決めるまで待ってくれている。
深く頷いて、答えた。
「うん、二人と一緒に暮らしたい」
「「よかった」」
二人同時に安堵の吐息をもらしている。何だか可笑しくて、カノンは吹き出した。
終
コメント
1件
第7話読んだよ!「終」ってついてるけど、これは区切りって感じだね。カノンが自分で決めて「二人と一緒に暮らしたい」って言えたのが本当に嬉しかった。前は流されてたのに、ちゃんと待ってもらえて選べたのがグッときたわ。アトリとマコトの温度差もいい味出してて、パン押し込んで黙らせるところとかクスッとした。しゅわっとパンケーキの描写も相変わらず好き。新しい生活、応援したくなる最終回(?)だったよ!
#ファンタジー
月城 蓮桜音
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羽海汐遠
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