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「……寒っ」
朝の掃除をしようと、マコトは他の二人よりかなり早く起きて居間に出た。
一人で暮らしていた時からの習慣なので、二人にも掃除を強要しようとも思わない。
ただ自分がやらないと気が済まないだけなのだから。
マコトの部屋の隣のドアは、客間だった部屋だ。今はカノンの部屋になっている。好きな色のカーテンやラグに替えていいと、店に選びに行ったら、かなり悩んでいた。
『好きな色なんて、考えたこともない』と。
時間をかけて色を選んだだけあって、かなり趣味のいい色合いになっている。カノンの方は、身の回りの整頓や掃除の習慣が身に付いているので、特に口出しすることはなかった。
問題はアトリだ。
アトリには、どうせ文献や書物ばかり読んでるんだからと、書斎を部屋として明け渡した。前の住居から持ち込んだ文献もかなりあって、既にそこは『巣』のようになっていた。その部屋にはベッドを用意していないので、床に蒲団を敷いて寝て貰っている。
そのアトリの寝床が、何故か居間の、それも朝の支度の導線に邪魔な位置に移動してきていた。起こしてどいて貰おうと蒲団を捲ると、腕が伸びてきた。
「つかまえたっ」
そう言って、ぐいっと蒲団に引き込まれた。
「……」
にやにや顔のアトリに組み敷かれている状態になっている。
チッ、と舌打ちをした。
「えぇー。この状況で舌打ちする?」
「こんな単純な罠にかかった自分に腹が立ったからだよ」
アトリは上掛け蒲団で二人を頭から覆う。
「最近、一緒に寝てないだろ?だから、30分だけでも、ここにいて」
「……カノンが起きてきたらどうすんだ」
「どうやらカノン、途中で目が覚めることは滅多にないみたいだよ」
お願いお願い、と耳元で囁いてくる。
「……一緒に寝るだけだぞ」
そう念押ししたのに、アトリは服の中に手を滑らせてきた。
「ちょっ……んっ」
服を捲って、胸の真ん中、心臓より少し上に唇で触れる。
「……俺がつけた傷痕」
いつも同じことを呟く。
もう古い傷痕だ。ひきつれて、白っぽくなっている。一生消えることはないだろう。
紫の毒――通称『リリのギフト』と、偶然にも関わることになってしまったために、
アトリにつけられた深い傷の痕だ。
コメント
1件
瀬尾さん、第8話読ませていただきました🌷 朝の静けさの中、アトリの「つかまえたっ」からの甘え方が可愛くて、思わず頬が緩みました。マコトが舌打ちしながらも結局30分だけ一緒にいてあげるところ、距離感が絶妙ですね。傷痕に触れるシーンで一気にシリアスな空気になる。あれは裏にどんな物語があるんだろうと考えさせられました。優しい朝の時間と、過去の影が混ざり合う、好きな回でした。