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【焼肉屋珍騒動】【発熱注意】その後になるので先に読んでもらった方が分かりやすいかも知れません。読まなくても読めると思います。
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【りもこんver】
ピンポーン
俺はコンビニの袋をぶら下げてしゅうとの家に来ていた。
中にはしゅうとが好きそうな甘いお菓子とあまり好きでもないって言ってたエナジードリンクが入っている。
少し経って、家主が扉を開けた。
「りもこん?どうした?」
「んー?差し入れ持ってきただけ」
コンビニの袋を差し出すと素直に受け取ったしゅうとが中身を見て困ったように笑った。
「この前、迷惑かけてごめんな」
「仕方ないでしょ、あんな熱あったら」
「う、ん……でも、」
「それより、今ひとり?」
「ん?そうだけど?」
「そ。ちょっとあがってもいい?」
「それは構わないけど、片付いてない」
「今更じゃない?」
「……まあ、そうか」
どうぞ、と扉を大きく開いたしゅうとの横をすり抜けて部屋へと入った俺は勝手知ったるなんとやら、すいすいと奥まで進んで行きソファへと沈み込んだ。
「お邪魔しまーす」
「どうぞ」
「普通に片付いてんじゃん」
「ここはね。リビングから出ないでよ」
「寝室は?」
「進入禁止」
しゅうとが慌てて寝室のドアを閉める。
男同士なんだから、汚いの隠さなくたって俺は気にもしないけど、そこはA型のしゅうとには理解出来ないことなのかも知れない。
「りもこん、何か飲むか?」
「……いや、要らないかな。それより、ちょっとこっち来て?」
「ん?なに」
「ここ。隣り座って」
「うん」
言われるがままに俺の隣りに腰掛けるしゅうとに、思わず薄暗い笑みを浮かべてしまった。
(警戒心なし。本当にどうしてくれようか?)
無防備で当然、警戒心なんてある訳が無い。
それが2人の距離感だから。
そんなことは分かっていた。
でも、きっと今日から変わってしまう。
変わって欲しいと願う。
俺はそんな「お願い」をしにここへ来たのだ。
「しゅうと、実は頼み事があって来たんだよ」
「やっぱりお見舞いとかじゃ無かったか」
「いやいや、それもあるけど。ちゃんと差し入れ持ってきたでしょ?」
「そっか……確かに」
「で、オネガイなんだけど。目を閉じて、じっと動かないってできる?」
「ん?待って、なんで?」
「いや、できるかできないかを聞いてるんだけど」
「そりゃできるけど……なんで?」
「理由は、後ほど」
「……まあ良いよ。分かった」
そう言って、しゅうとは素直に目を閉じた。
眼鏡の奥、長いまつ毛が頬に影を落とす。
俺はその顔を覗き込んだ。
(綺麗な顔だなぁ)
今は見えないその生真面目な瞳から見られたままだったら、こんな大胆な事は出来なかったかも知れない。
なかなか動かない俺に、しゅうとは眉をひそめた。
「りもこ、ん……?」
音もなく潜めた呼吸のまま、そこへそっと唇を寄せた。
俺の唇がしゅうとのそれに重なるとしゅうとはピクリと身体を震わせる。
「ん……?りっ……もこ……ぅんっ……」
逃げる身体を追いかけて首の後ろに手を回した。
バタつく足に乗り上げて押さえつける。
驚いて開いた唇の隙間に舌を差し入れると分かりやすくしゅうとの身体が跳ねた。
「んぅっ……りもっ……!やめっ……」
しゅうとの右手を拘束し、左手が繰り出す攻撃は甘んじて背中で受けながら、その口内を蹂躙していく。
しばらくそうしているとしゅうとの身体から力が抜けて、俺の背中を叩いていた左手も頼りなくシャツを掴むだけになっていた。
その間も律儀に目を閉じているしゅうとのあまりの素直さと可愛さに、思わず口の端に笑みを浮かべてしまった。
なんでこんなに汚れてないわけ?
「はい、おしまい」
名残惜しい。でも離さないと。
肩で息をするしゅうとがふらりと倒れそうになるの支えて抱き寄せた。
「も、目開けて良いんだよ」
「……なんで、こんな……」
「んー。この前、ちゅーしてってしゅうとに言われたから」
「な!」
「熱で良く覚えてないのかも知んないけど、俺にそう言ってたよ、しゅうと」
「……それ、は……」
「覚えてる?」
「……曖昧だ。……でも、その……。あー……」
もごもごと言葉を濁したしゅうとは真っ赤な顔のまま、泣きそうな細い声で言った。
いつもの低音が少し高くなって上擦る。
それは背筋が震えるような甘さがあった。
「き……気になっては、いた、かも……」
だって、ふうはやがあんな質問してくるから!と顔を真っ赤に染めながら言葉を続けるしゅうとに、おれも釣られて頬が熱くなる。
その顔を見られたくなくて、ぐっとしゅうとを引き寄せて腕の中におさめた。
わずかに抵抗するも比較的大人しくその腕の中におさまったしゅうとは赤かった顔を更に赤くしてうつむいた。
「もう、可愛すぎでしょ!」
「な!……可愛いってなんだよ……」
「そのまんまの意味でしょ。ねえ、しゅうと?またしようね?」
「……何を」
「何って、キスを」
「そ……それは……」
「嫌じゃなかったでしょ?」
「……恥ずかしいから、だめ」
「ふーん?しゅうとは気持ち良くなかったんだ?」
「〜〜〜っ!りもこんのそう言うところが!嫌だ!」
「そんなこと言わないでよ。……しゅうと、お願い。またキスさせて下さい」
「ぅ……」
顔から湯気が出そうなほど真っ赤に染まったしゅうとは目を左右にキョロキョロと泳がせて、やがて小さく一度だけ首を縦に振った。
キスの許可が出た。
眼の前がチカチカするような幸福感で満たされる。
頭がクラクラして、身体は燃えてるみたいに熱い。
「じゃあ、キス許可記念にもう一度キスしてもいい?」
「〜〜〜っ!だめ!」
「えー?しゅうとって嘘つきなのかな?」
「ちがっ……!だから……恥ずかしいんだって……顔だって……きっと赤いし、あんまり見るな……」
グイグイと力一杯俺の顔を押し退けるしゅうとは全く熱が引く様子の無い顔を隠すようにそっぽを向いた。
耳や首まで真っ赤で、なんて美味しそうなんだ。
少しだけなら、構わないでしょ?
ここには誰も来ない、だってここはしゅうとの部屋だ。
だから、俺はその首筋にそっと唇を寄せた。
「……っ!?りもっ……!」
「もっと俺のこと警戒して」
その温かい皮膚にかじりついてしまいたい。
その衝動をぐっと堪えたが、それでもその白い肌に痕跡を残すことをやめなかった。
しゅうとの低くくぐもった声が俺の行動を加速させる。
「んうっ!な、に……!してっ!!?」
「意識してよ」
「りも、こん……!」
「眼の前で、目を閉じるなんて。食べて下さいって言ってるようなもんだよ?」
「んんっ!やめっ……!」
「俺は、しゅうとのことをそういう目で見てる」
「分かったっ……!分かったから、一度ストップ!!りもこんっ!ストップ!!!」
「……分かったよ」
唇を離した皮膚は紅く色付いて花が咲いたみたいだ。
きっとしゅうとはコレを虫刺されだとか言うんだろうけど、俺にとっては支配欲を満たす証明。
薄暗い感情に思わず暗い笑みを浮かべた。
視線と視線がぶつかる。
思ったより真っ直ぐに俺を見てきたしゅうとの瞳の強さに男らしさを感じて更に惚れ直してしまう。
可愛くて、格好良い男だ。
「落ち着け、りもこん。まず言うことが他にあると思う」
「え?」
「……お前は俺に、今みたいなことをしたいってことだよな?」
「え……と、うん、そう」
「じゃあ段階を踏むべきだろ。その前に確認したいことがあるんだけど、お前の目にも俺って男に見えてるよな?」
「当たり前過ぎる……」
「じゃあその上で、言うこと、あるよな?」
「……え?」
「…………なんで俺に、その、き……キスっ、したいって思ったんだよ」
「え、可愛い」
「茶化すな。俺をちゃんと納得させてみせろよ」
キスって言葉にも低音の声を上ずらせて真っ赤になるくせに、なんて強くて真っ直ぐな視線。
それに引きずり出されたかの様に、俺の口からは素直な言葉があふれた。
「好きです」
「……」
「俺はしゅうとが好きです。付き合ってくれませんか」
「…………まあ、俺でよければ……」
「…………えええ!!?マジ!???」
「そんな反応なら断る」
「ええいや、うそうそ!ごめんって!うわ、マジで嬉しい!本当に本当だよな?」
「…………うん」
拗ねたように、真っ赤な顔を隠してそっぽを向いてしまった俺の恋人を俺は思いっきり抱きしめた。
同じグループの仲間だとか、男同士だとか、なんだかんだと困ることは出てくるかも知れない。
だけど、しゅうとを好きだってことは曲げられない事実で、それを本人に認めてもらえたなら、こんなに嬉しいことはない。
キスの許可を取りに来ただけだったのに、なんて幸運。
しゅうとの気が変わらないうちに思いっきり愛して、俺なしでは生きられないようにしなくちゃ。
この素直じゃない可愛い恋人をどうしてくれようか?
「あ、買い忘れた……」
「ん?何を?」
「ゴム……」
「〜〜〜っ!」
思いっきり頭を叩かれたけど、痛くない。
だってしゅうとがその意味を理解して真っ赤になって怒るから可愛くて仕方ない。
あー幸せ。