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『黄昏』にマーガレットが来訪して情報を得ている頃、十五番街でも動きが出ていた。
「急いで!資料は破棄!火をつけて!」
『暁』工作部隊が用意していた拠点が『血塗られた戦旗』による襲撃を受けた。工作部隊は拠点の放棄を決定。証拠隠滅のため火を放ち、エーリカ指揮の下速やかな撤収が行われた。これはもちろん時間を稼ぐために奮戦しているレイミのお陰であった。
「レイミお嬢様、ご無事で。さあ急いで!アスカちゃん!お願い!」
燃え盛る家屋を眺めたあと、彼女は隊員達を誘導して裏口から脱出する。アスカの先導もあり問題なく脱出することができた。
一方拠点では。燃え盛る炎の中、斬り倒された『血塗られた戦旗』の隊員達が骸を晒していた。そしてその中心で、返り血で身体を汚したレイミが刀を抜いたまま最後の一人、最も厄介な少女と対峙していた。
「あはっ☆久しぶりぃ、レイミ」
レイミと同じ転生者であり『血塗られた戦旗』に属する殺し屋の少女、聖奈である。
「聖奈っ!どうやって此処を突き止めたのですか!」
「んー、勘?☆」
「勘って、貴女っ!」
あっけらかんと言ってのけた聖奈にレイミも唖然とする。
「まあ、そんなのどうでも良いよね?大事なのは、またレイミとゆっくり殺し合いが出来ることだから☆」
ゆっくりと刀を抜く聖奈。それを見てレイミも警戒を増す。
「正気ですか?ここは間も無く焼け落ちます。私は脱出することも難しくはありませんが、貴女は違うでしょう」
身構えながら問い掛けるレイミ。二人を燃え盛る炎が照らし出す。
「あっ、魔法を使えるから?羨ましいなぁ。転生特典だよね?良いなぁ☆」
「その通りです。ここでの戦いは不毛ですよ。それでもやるならば、受けて立ちますが!」
「うん、やろっか☆」
「なっ!?正気ですか!?」
「あははっ☆心配してくれるの?でも大丈夫。特典を貰ったのは、レイミだけじゃ……ないんだよ!?☆」
レイミに向かって飛び込み、上段から刀を振り降ろす聖奈。
その動きに合わせてレイミは身体を背け、下段から振り上げた刀で聖奈の刃を受け流し。
「ふっ!」
「あんっ!」
そのまま返す刀で聖奈の左肩を斬り付けた。咄嗟に聖奈が後ろへ跳んだ為傷は浅くなったが、それでも一撃を加えたことにレイミは安堵する。
「退きなさい、聖奈。私と貴女じゃ力量が違う。今なら同郷の好でお姉さまに取り成しても良いわ!」
「あははっ!痛いなぁ。やっぱり強いや。でもね?」
聖奈が抑えていた左肩から手を離す。すると、浅いとは言え傷口が瞬く間に塞がっていく。
「なっ!?」
その光景にレイミは目を見開き、聖奈は楽しげにそんなレイミを見つめる。
「私さ、滅茶苦茶死に難い身体みたいでねぇ?軽い怪我なら直ぐに。重い怪我でもちょっと待てば治るんだよねぇ?」
それは聖奈に与えられたスキル、“足掻くもの”による効果。
高い自然治癒力を持ち、首を斬り落としても死なない身体である。
彼女を葬るならば、欠片も残さず消滅させる他ない。
また副産物として痛覚が極めて鈍く、痛みを気にすることもない。それがなにを意味するか。
「だからぁ……遠慮なんてしないで思いっきり楽しもうよ!レイミぃ!☆」
「くっ!このっ!」
再び飛び込んできた聖奈は滅茶苦茶に刀を振り回して連撃を開始。
レイミも反撃するが、どんなに傷ついても気にもせずに攻撃してくる聖奈に苦戦を強いられていた。
「っ!はぁあっ!」
聖奈が大降りに振るった刀を身を屈めて避け、両手で刀をしっかりと握りまるで体当たりをするような要領で聖奈の腹部に刃を突き刺し、そのまま身体を押して壁に叩き付けた。
「おぅっ!?」
「っ!無茶苦茶し過ぎなのよ!」
文字通り壁に縫い付けられて身動きが取れない聖奈は、不思議そうな顔をして自分の腹部に突き立てられた刀を握る。
「あれ?抜けない?」
首を傾げる聖奈を尻目にレイミは小太刀を抜いて離れ、家屋の柱に向かって駆ける。
「これならどうかしら!?」
そのまま柱を切り裂くと、ただでさえ焼け落ちようとしていた家屋は一気に崩壊を始める。
レイミはそのまま止まらずに裏口へ走り。
「あははっ!またねーレイミ!また遊ぼうね!☆」
聖奈の言葉を背に、ドアを蹴破って燃え盛る家屋から脱出。次の瞬間拠点は轟音を立てながら倒壊した。
「レイミお嬢様」
裏道ではエーリカがレイミを待っていた。
「エーリカ!ここを離れるわよ!直に追ってくる!」
「はい!」
二人は夕暮れの町を駆け抜ける。この騒ぎで『暁』は十五番街における活動拠点と運び出せなかった物資を失い、以後の活動に支障を来すこととなる。
夜、焼け落ちて瓦礫の山となった旧隠れ家に黒尽くめの男が立ち寄る。
まだ残火が燻っているが、それでも構わず瓦礫の中へと足を踏み入れた。彼はしばらく周囲を探索し、ある大きな柱の残骸を見つける。徐に残骸を持ち上げ、押し退けてその下に埋まっていた人物を見つける。
「ヤッホー、ジェームズ」
「おう、愉快なことになってるな」
そこには仰向けに倒れて腹部に刀が刺さったままの聖奈が居た。
「派手に燃えたらしいが、良く生きてたな?」
「あはは、隙間があったからねぇ。それに、私の周りは燃えなかったみたい☆」
聖奈の周りだけレンガ造りであり、周囲が燃え尽きても燃えることなく、また奇跡的に充分な隙間があり空気が供給された故であった。
なにより、聖奈は窒息に強い。
「運が良いんだか悪いんだか。ほら動くな、引き抜くからな」
「優しくしてね☆」
「バカ」
「あはっ!」
徐に突き刺さった刀を握り、満身の力で引き抜く。出血も僅かで、瞬く間に傷口が塞がっていく。
「お前と同じ形の武器だな。カタナだったか?ほら」
聖奈に手を差し出して、しっかりと掴み引き上げる。
「ありがと☆レイミも私と同じ趣味の持ち主なんだって☆」
二人で引き抜かれたレイミの刀を眺める。
「これ、どうするんだ?捨てるか?」
「まさか!ちゃんと取っておくよ。レイミに返さないといけないし☆」
「なんだ、まだまだ満足して無ぇのか?」
ジェームズの問い掛けに、聖奈は面白そうに笑みを浮かべる。
「当たり前だよ?まだまだ満足しないんだから☆もっともっとレイミと遊びたいし、次も宜しくね?ジェームズ☆」
「分かった分かった。奴らの拠点を潰したからな、また何日か貰うぞ。聖奈はネズミ狩りを頼むわ」
「んふふっ、任せて☆」
聖奈はレイミの刀を大事に予備の鞘に納めると、笑みを深めた。
二度目の激突もレイミの勝利に終わったが、聖奈のスキルを目の当たりにして容易ならざる相手であると再認識させるに至る。
二人の戦いはまだまだ続く。