コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ラッチ、クキはきってもいいが、ハンブンくらい、のこしておけよ?」
「分かったリム! ……なんで?」
「わかってないじゃないか! ゼンブきりおとしたら、ミューゼオラたちのところにもどれないからだっ! それに、のこすのがイッポンだけでは、うっかりおちてきたら、おなじコトだからな!」
「なるほどリムなぁ。総長さんの頭脳は常に先を読む……これが天才リムなのだな」
(コドモあつかいはイヤだが、これはこれでイラッとくるな)
アホの子が花を斬り、幼女が回避しながら、花が伸びてくる方向へと飛んでいく。
ラッチが両腕の変幻自在な鎌を振り回して、横から突っ込んでくる花を斬り落としているので、ピアーニャは回避と正面からの接近に集中出来ている。両者とも自由に変形する戦闘スタイルなので、お互いの出来る事が把握しやすいのだ。
(ラッチがリョウウデをふりまわしていれば、ハナはほとんどちかよれんだろ。……うるさいが)
「ふはははは! 我はラージェントフェリム! 近くば寄って目にも見よ! 近寄れまいがな! よっと、甘い、甘いリムぞ、狂暴なる花どもよ! その程度では総長さんはおろか、我にすら遠く及ばぬリムよー!」
(ホント、うるさいな……)「ホント、うるさいな……」
思わず心の声がポツリと口から漏れたが、テンションの高いラッチには一切聞こえていない。
かなり調子には乗っているが、自分が新人以下である事を忘れない謙虚な所は、パルミラの分体らしさがにじみ出ている。
「しっかし、クキながいなー」
しばらく飛んでいるが、まだまだ花の出所が見えてこない。そもそもネマーチェオンの大きさのあまり、隣の枝ですらかなり遠い。人の大きさから見ると密集していないように見える葉も、その大きさのせいで全方位に広がる緑の壁にしか見えない。そのくせどこからか世界を照らしている光を反射、透過、拡散し、辺りを照らしているので、葉に囲まれていても昼の様に明るいのだ。
突然、ピアーニャの横にいるキュロゼーラが、蔓を伸ばして前方の葉を指し示した。
「あの葉の下ニある水の中に根がありマす」
「よし、いくぞ!」
「うおおおお! 悪の根よ! 待っているがいいリムよ!」
『おーッ!』
「うっさいな!」
異様に盛り上がっている野菜達を乗せ、雲は目標の葉へと降りて行った。
こちらはミューゼ達4人。丁度降りた葉には小屋サイズの水滴が付着し、障害物となっていた。花も水滴を避けて接近してくるので助かってはいるが、上から襲われては意味が無い。
「せめて洞穴みたいなのがあれば良いんだけどっ。花がそこからしか入ってこれないやつ」
「ここじゃ難しい! せめて枝…ってゆーか壁が近くにあれば!」
「じゃああっちに急ぐのよっ!」
全方位から襲われては、3人だけでは流石に身を守り続けるのは難しい。アリエッタもいるので動きづらいというのもある。なので、一旦近くに見える枝まで逃げる事にした。
花の1本が水滴に突っ込んだ。突き抜けて襲い掛かるつもりのようだ。
その可能性を考えていたミューゼが、すかさず魔法を解き放つ。
「【水流乱塊】!」
水滴が乱回転し、中に入った花の花びらを千切り、弾き飛ばした。さらに横から伸びてきた花を、ムームーの糸が切り刻む。
「急ごう!」
防衛はミューゼとムームーが担当。パフィはアリエッタを抱えて守る事に専念。
大きく動きの速い花に近づくと食べられる可能性がある為、間合いを取って攻撃出来る2人が適任なのだ。
3人は走り、葉の端までやってきた。追い詰められたわけではない。最寄りの枝に行くには、隣の葉に飛び移らないといけないのである。
「跳ぶよ!」
「お願いっ!」
明らかにジャンプで届かない距離だが、ミューゼ達は迷わず跳んだ。さらに、空中に身を投げ出したミューゼ達に、花が1本、口を開けながら接近。
そしてそのまま、ガブッと口を閉じ、ミューゼ達のいた所を通り過ぎた。
「こ、こわかったのよ……」
「ぱひー?」(見えないんだけど、今どうなってるの?)
「パフィ大丈夫? 乗り物無しで速く飛ぶの苦手でしょ?」
青ざめた顔のパフィは、思いっきり抱きしめたアリエッタを撫でて、なんとか持ち直した。
これはアイゼレイル人の、糸を使った空中移動。ミューゼ、パフィ、アリエッタに紐を巻き付け、自分の体に繋げていたムームーは、花に食べられる寸前、糸を高速で巻いて自分達を釣り上げたのである。
パフィも小麦粉生地で同じ事は出来るが、糸はアイゼレイル人の体から生産でき、さらに使い捨てではない強みがある。
無事に向かいの葉に着地したミューゼ達。一呼吸置いて、再び枝へと走り出した。
「あっ、落ちた」
振り向くと、何本かの花が下に落ちていくのが見えた。
「総長達なのよ。あっちも暴れてるのよ」
「……全部落としたら合流できるのかな?」
「あー……まぁそこは総長を信じましょ」
「後で何本か捕まえておこっか」
知らない場所での命綱は大切である。図らずもピアーニャと同じように花を命綱にする事にしたミューゼは、安心して防御に徹せる場所まで急ぐことにした。
しかし、目の前に多数の花が伸び塞がった。
「……花ってこういう知能があるのよ?」
「わかんないけど……」
ただの植物を思うと何とも言えないが、なにしろ相手はどこのリージョンから落ちてきたのか分からない植物。しかも、ネマーチェオンにも意思があり、キュロゼーラは喋っている。植物ってなんだろう…と考えるミューゼであった。
さらに、ミューゼ達の前に立ちふさがる者達が現れた。
「コこはあタし達の力を見せル時!」
様々な野菜として生えてきたキュロゼーラ達である。花からミューゼ達を守るように大量に立っている。しかも、今までは膝くらいまでの大きさだったのに、今回はアリエッタくらいの大きさがある。
「いや何で!?」
「どうやって戦うのよ?」
「おぉ……」(なんだなんだ? でっかいレタスだな? これも『きゅろぜえら』?)
困惑するミューゼ達の背後から、花が接近してきた。察知してムームーが振り向く。が、
ぶぉんっ
「へ?」
後ろから何か大きな物が飛び出した。
「ってちょおぉえっ!?」
パフィは見た。ニンジン型のキュロゼーラが、蔓を使ってレタス型のキュロゼーラを投げ飛ばす所を。
回転しながら飛んでいくキュロゼーラは、そのまま接近してきた花に──
パクッバリムシャア
『食べられたーっ!?』
困惑は最高潮である。
ピアーニャ達は目標の葉にたどり着き、裏側に回った。そこには複雑に絡み合って、球体となった根があった。
大部分は水球に浸かっているが、所々根がはみ出している。そのうちの1本が異様に伸びて、葉柄に絡みつき、先端は枝に刺さっているのが見える。その大きさは人の何倍もあるようだ。
「なんだアレは……」
「アの根から、ネマーチェオンの養分ヲ吸っていルんです。まァそれ自体ハ別に良いのでスが」
「いいの!?」
なんと、キュロゼーラは…というよりも記憶の大元となっているネマーチェオンは、狂暴な植物が養分を奪っている事を把握していた。しかし完全に自分の意思で放置している。
「いいのか? ジブンをくわれているんじゃないのか?」
「むシろ育ち過ギて困っているんデ、半分くらイ吸ってほしいデす」
「メタボかっ」
「正直、コれだけ大きクなると、コんな些細な事をドうこうすル気が無いんでスよ。別に枝凝りが治ル程の強さもなイですし、成長ガ止まる程デもないですシ?」
「枝凝りってなに……」
「ネマーチェオンって、いまもセイチョウしてるのか……」
寄生していようが全く変化が見られず、存在は認識していても一切気にしていない様子だった。
(カラダに、みえないほどちいさいムシが、つくようなもんか?)
感覚的な部分に関しては一旦勝手に納得し、とりあえず目の前の植物に意識を戻すピアーニャ。世間話をしているうちに、多数の花に囲まれていた。
これまでの経緯から、花自体は脅威に思っていない。油断さえしなければ、ラッチと2人で対処は可能なのだ。
ラッチも異様に長い腕の肘部分を枝分けし、4本の鎌で順調に草刈りを続けている。クリエルテス人は、普段の生活の為に人型で定着しているが、有事の際は人型である必要など無いのである。
2人がいざ根っこを壊そうと、動こうとしたその時、キュロゼーラがピアーニャの前に出た。
「ここはあタし達の力をみせるべきデすね」
「んえっ?」
「けっきょくアレ、シマツするのか!?」
どうでもいい風に言いながら、結局処理するのかと、2人は驚いた。
「………………どうするきだ?」
「投げてください」
「そうか…………えっ、何を?」
「あたシ達を」
とんでもない提案に、驚いた顔のまま一瞬固まってしまった。
その間に花が襲い掛かってきたが、ピアーニャがギリギリ意識を戻し、切り落とした。
「ちょっとまて、なげるって!?」
「やってくれれば分かります」
「よく分からないけど、分かったリム!」
少し遅れて正気を取り戻したラッチが、言われた通りに行動を起こした。ピアーニャの静止も聞かず、キュロゼーラの1体を掴み、ブンブンと振り、絡み合った根に向かって投げた。
「さァ、食らエ! キュロゼーラローリングクラアァァァッシュ!」
投げられたニンジンは、クルクルと回転しながら意味のない技名を叫び、根の端にぶつかって……砕け散った。
『ぎょくさいしたー!?』
何かすると思っていた2人は、あまりの光景に驚き叫ぶ。
砕け散ったキュロゼーラの破片は、根に取り込まれ、花に食われていく。
「どうヤら食らったよウですね」
「なにっ、まさかサクセンなのか!?」
キュロゼーラの秘めた力が発揮される。そう考えたピアーニャは、根と花を注意深く見守る事にした。するとすぐに変化が現れた。ラッチもそれを見逃さない。
「根っこから花が生えた!」
「そ、それで?」
『ふっフっふ……』
植物の変化に満足気な含み笑いをもらすキュロゼーラ達。どういう事になるのか気になり、2人は目を離せない。
キュロゼーラの1体がビシッと蔓で根を差し示し、自慢気に語る。
「どウですか、あタし達の味は! 元気にナったでしょウ!」
なんと吸収した事で、周囲の花が再生増加し、生き生きと蠢きだした。
ネマーチェオンから生まれたキュロゼーラは栄養満点で、どんな生き物も元気になる素晴らしい野菜だったのだ!
「ほんとうのイミで『くらった』だけかーい!!」
処理しようとしている植物が元気いっぱいになる瞬間を見てしまい、遥か上にいるミューゼ達まで届く程、ピアーニャは全力で叫んでいた。