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きゅぴーん
「!」(ぴあーにゃが助けを求めている!)
遥か下の方から微かに聞こえたピアーニャの叫び声を、自分への救援要請と都合よく聞き換えたアリエッタは、ついにやる気に火がついてしまった。
実は、もう既にピアーニャが仕事をしている事は理解している。だからこそ、雲に乗って飛んでいく時も、真剣に何かを話している時も、邪魔をせずに見守っていたのだ。
(ぴあーにゃは、お姫様の手伝いをするくらい凄い子だ。きっと、しーかーって仕事の見習いとして、みゅーぜに色々試されてるんだろう)
仕方のない事だが、単語を覚えた影響で、勘違いがかなり深まっている。
(でも、求められているのに助けないのは、お姉ちゃん失格だ! よし!)
妹分を助けたいアリエッタは、筆を握って横から伸びてくる花を睨みつけた。しかし今は、自分を抱えるパフィが全力で走っている。
空中に絵を描くには、パフィに止まってもらう必要がある。その為に必要なのは、自分達の身の安全。
だがそれは、アリエッタにかかれば問題無く確保出来る。
(進入禁止っ!)
筆を持っていない左手に進入禁止の標識を描いた木札を持って、花に向けて掲げた。
パフィの上の方を通過、回り込もうとした花が、途中で見えない壁に阻まれ、跳ね返った。
「へぶっ!?」
壁は札のある場所から障害物がある場所まで広がり、障害物が無ければどこまで続いているのか分からない程である。
その為、運悪く斜め前を走っていたムームーも跳ね返っていた。アリエッタを護るためにパフィの両脇をミューゼと一緒に固めていたので、一緒に閉め出されてしまったのだ。
驚いた3人が、壁まであと少しという所で足を止めて、状況を確認する。
「えっなにこれ壁!? ちょっとパフィ!?」
「いやこれアリエッタの壁なのよ! どうしたのよアリエッ……?」
アリエッタの【進入禁止】を解除してもらおうとしたパフィだったが、途中でその言葉を切った。というのも、腕の中で札を掲げながら空中に絵を描くニンジンを見たからだ。
「ごめんなのよムームー! 少しだけ待ってるのよ!」
「ええっ!?」
行動の意味は分からないが、ムームーもアリエッタについては色々聞いている。特に服のデザインについては姉のルイルイからも「天使過ぎて尊死しそう」と、ハイライトの消えたハート目で力説されており、死んでも守らなければ姉に殺されるくらいの重要人物だと理解しているのだ。
しかし、戦闘が出来るとは聞いていない。実際パフィに抱えられて移動している。それでも巨大な虫や筋肉隆々の変態を撃退したという情報だけはある。その矛盾については考えても分からなかったが、今その理由が分かるかもと、横から伸びてきた花を糸で切り裂きながら、見守る事にした。
「できたっ」
アリエッタが筆を止め、【進入禁止】を解除。壁が消えてムームーがパフィの横へと移動した。
「それで、これは何?」
「めっ!」(触っちゃ駄目!)
「ぅえっ!?」
空中に描かれた絵に興味を持ち、指で突こうとしたムームーが、アリエッタに怒られた。どうやらお触り禁止の絵のようだ。
「意味不明なモノに触ると、何が起こるかわかりませんよ?」
「いや、これアリエッタちゃんが描いた絵だよね? 意味不明ってどゆこと?」
「この絵は私達も初めて見るのよ。どうなるかは見てみないと分からないのよ。総長も、アリエッタは未知のリージョン以上に訳分からんって言ってたのよ」
「そ、そうなんだ……?」
総長が分からないというのなら、本当に分からないのだろう。そういう事にしておき、大人しく見守る事にした。
一方絵を描いたアリエッタは、真剣な顔でこちらを警戒する花を睨みつけていた。
(どうしよう……あの花を絵にぶつける方法考えてなかった)
うっかりさんである。そもそも花が正面からやってくるとも限らない事に、今気づいていた。
「ぱ、ぱひー……」(うぅ、恥ずかしい……)
「どうしたのよ?」
「はな……え……どーん!」
「ぶふっ」
仕方ないのでパフィに次の工程をお願いした。花を指差し、次に絵を指差し、叩きつける仕草をしながら効果音を叫んだ。
その衝撃で、パフィの鼻から悦びが噴き出した。
「ちょっとパフィ、出てる出てる」
「こ、これは仕方のない事なのよ。とりあえず、花をこれにぶつければ良いと思うのよ」
「トラップ的な物なのかな……切ってからというのは?」
「それだったら、あっちに落ちてる花に何か言うのよ。アリエッタが差したのはあの花なのよ」
「……本体か何かかな?」
「さぁ、何か感じてるのかしら?」
簡単な指図とジェスチャーが分かりやすかったのか、アリエッタの伝えたい事は、しっかりと伝わっていた。
パフィはアリエッタをムームーに預け、カトラリーを構える。
「ミューゼ!」
「はいよー!」
足元から枝が伸び、パフィを乗せて花へと伸びる。
横から別の花が伸びてきて、パフィに襲い掛かった。もちろんそれを予測していたパフィは、後ろに跳んで先端から離れる。
花がその場所を通過した時、パフィが飛び退いた枝の部分から蔓が生え、花の茎を串刺しにした。花はさらに茎を伸ばそうとするが、パフィがナイフで斬り捨てる事で、再生に遅れが生じた。
ピクピク動こうとする茎を飛び越え、さらに正面の花へと接近する。
「おぉ、やるねぇ。連携だけならシーカーでも随一って聞いたけど、これは確かに……」
(うわぁ~ぱひーカッコいい! みゅーぜの魔法もカッコいい!)
総長がアリエッタの護衛に追加する程度には実力のあるムームーから見ても、ミューゼとパフィの息の合った連携は、目を見張るものがあるようだ。
やがて接近したパフィに反応して、前方にいる花が動き出した。
「来たのよ。とっ捕まえてぶち込んでやるのよ」
ミューゼの伸ばす枝が軌道を変え、花の後ろに回り込むように弧を描く。
花は一気に伸び、上の方で曲がった後にパフィへと突撃した。
「やっぱり食べにくるのよ? 分かりやすいのよ」
一旦ナイフを枝に刺して手放した。その手を着ぐるみの中に引っ込め、すぐに出すと、手には小さな小麦粉生地が握られている。
「【ラザニア】! 目くらまし効くのよ?」
花には目が無いので、本当に効果があるのか不安に思いながらも、すぐにその場所から飛び退いた。
すると、広がった生地に花が突っ込み、そのまま枝にぶつかった。
『よし!』
パフィとミューゼが同時に笑みを浮かべた。
次の瞬間、ぶつかった花の茎から、尖った枝が生えた。ミューゼの枝が花を串刺しにしたのだ。
「いけええええ!!」
そのまま枝を操り、アリエッタの絵へとぶつける事に成功した。
枝に乗っていたパフィは、ぶつかる瞬間にジャンプし、アリエッタ達の後ろに着地。そして顛末を見届ける為に振り返ったその時、
バキン
『んなっ!?』
鋭い音と共に、ミューゼ達は驚愕した。
「次はアたしが……」
「いやもうやめろ! アレをさらにゲンキにして、どうするつもりだっ」
前方を無数の花に阻まれ、根が見えなくなってしまったピアーニャ達。
あれからキュロゼーラ達が、お互いを投げ始め、既に10体程が花に食われていた。その分栄養となり、元気になった分だけ花を生やした結果、エサを待つひな鳥の様に、ピアーニャ達の前で花を並べ、待機するようになっていた。
「なんかもー、あーしらってエサあげる親切な人みたいになってない?」
「てなづけるキなんか、ないんだが!?」
襲われたので暴れ植物を退治しにきた筈が、根までたどり着けなくなり、敵も増えてしまった。その敵も今は襲ってくる気配が無い。完全にエサ待ちである。
もしかしたら『雲塊』ならば、後ろの根ごと花を貫けるかもしれないが、攻撃したら無数の花が一斉に襲い掛かってきそうで、うかつに動けない。
「くそー、どうしたら……。ウエのパフィたちはブジなのか?」
未だに目的を果たせない状況に歯がゆさを感じ、一旦上に戻るべきかと考えた。と、その時だった。
キィン
「ん?」
硬い音がして、花の動きが一瞬止まった。そして、
ピシッ パキパキパキ
「な、なにリム!?」
茎が上の方から白くなっていく。そのまま白への変化が根へとたどり着いた。
パキィッ
「………………」
ピアーニャ達からは見えなかったが、一瞬で根が水ごと凍り付いてしまった。すぐにそこから伸びている無数の花も、全て凍っていく。
「な、な、な……」
「コれは一体なんでスか!?」
ラッチはもちろんの事、この現象はネマーチェオンの記憶にも無く、キュロゼーラ達も驚いている。
そんな中、ピアーニャだけがジト目で、伸びた茎の先を見つめていた。
「アリエッタか? アイツならありえそうだな」
上では、凍り付いた花を目の前に、ミューゼ達が茫然と佇んでいた。
「はわ……」
「………………」
「あはは、アリエッタースゴイノヨー」
「おぉぉぉ」(大成功! さっすがみゅーぜとぱひー!)
氷漬けになった花の先端には、氷の結晶…の絵が、青白く輝いていた。アリエッタの絵である。
実は精神世界の中で、ミューゼやネフテリアの魔法みたいな事が出来ないかと、以前からエルツァーレマイアと一緒に研究していたアリエッタ。今回はその努力が実ったのだ。
(魔法っぽい事できたし、満足満足。雹を飛ばすのと違って使い勝手悪いけど、手伝ってもらえばなんとかなるな)
だいぶ慣れてきた『彩の力』の使い方。今回は触れたもの全てが凍り付く雪の結晶を描いたようだ。前世で結晶を見ていたので、それが冷たいという常識はアリエッタの中に存在していた。そんな常識を元に、空想表現もそこに混ぜ合わせた結果、今回の絵が出来上がったのである。
(むーむーが触ろうとしたのは危なかったけど、これでぴあーにゃも無事なハズ。戻ってきたら甘やかしてあげないとな)
しれっとピアーニャへの拷問が決定し、ニコニコ笑顔でピアーニャの帰りを待つアリエッタ。大きな氷が目の前にあるが、気持ち的にはポカポカと暖かいようだ。
そんなアリエッタの笑顔を見て、ムームーは呆れるしかなかった。
「なんていうか……凄いね」
「なのよー」
「こんな事も出来たんだねぇ。全部凍っちゃったし、ぶつける花はどれでも良かったのかも」
「そうなのよ? まぁ仕方ないのよ」
「にしても、まさか凍らせちゃうとはね。火よりも確実で安全だけど、あたしじゃ無理だったなー」
この後、ピアーニャとラッチが戻ってくるまで、アリエッタは褒められ、撫でられ、キスされ……全身全霊で構い倒されるのだった。
「ふええぇっ!?」(違うんです違うんです! これはぴあーにゃにやってあげるべきご褒美で、僕なんかにはもったいないんですってばあ! ちょっと誰そんなトコぉっ!?)