無理やり俺が連れ出したせいか、涼ちゃんの顔色はあまりよくなかった。
「寝てていいよ。家に着いたら起こすから。」
「うん・・・ありがとう・・・。」
BGMは車のエンジンと風の音だけ。時たますごい勢いで追い越していく車のアクセル音などはあるが、車内はとても静か。しばらくすると、背もたれを少し倒した涼ちゃんから規則正しい寝息が聞こえてきた。
「涼ちゃん・・・。」
そっと名前を呼んでみる。反応はない。よく眠っているようだ。
「・・・体調悪い時に無理に連れ出してごめんね。」
起きてる時に言っても『若井のせいじゃない』って言うだろうから、寝てる時に謝るズルを許して。
「俺さ、焦ってた。涼ちゃんが救急車で運ばれたって聞いて。その後家で倒れてるの目の当たりにして。二人で逃げようって言っても涼ちゃんは頑なにチケット使おうとしないし、逆に頑張りすぎるし。俺じゃ、涼ちゃんは救えないんだなって・・・。」
じゃあ誰なら涼ちゃんを救えるだろうかと考えると、一人しか浮かんでこない。
「元貴はちゃんと涼ちゃんのこと考えてる。時たま強く当たる時はあるけど、俺みたいに考えなしの行動じゃなくて、先のことを考えて動いてる。あいつだったら涼ちゃんを救ってあげることができるんだろうね。」
悔しいけど、尊敬している俺の親友。
涼ちゃんのマンション前に着いた。隣を見ると、まだ眠っている。
「・・・好きだよ・・・。」
このまま連れ去ってしまいたい
誰も俺たちのことを知らないところへ
君が望んでなくても
俺が傷ついた君を見たくないから
「誰よりも大切にしたいって思うのに、何もできない自分が悔しいよ・・・。」
「・・・・若井・・・・。」
「?!」
涼ちゃんと目が合った。目が合ったってことは・・・
「・・・お、起きた?・・・起きてた?」
恐る恐る聞く。
「あ、えっと・・・。」
目を泳がせる涼ちゃん。うん。目は口ほどにってやつだね。
「ごめん、涼ちゃん。とりあえず今日は俺帰るから!」
このままでは恥ずか死してしまう。
「ま、待って!僕の話を聞いて!」
「分かってる!涼ちゃんの気持ちは分かってるから!」
断られることは分かってる。だからトドメを刺さないで。泣いちゃう。
「え?!僕の気持ちバレてたの?!嘘でしょっ?!い、いつから?!」
「いつから?」
「僕が若井のこと好きっていつからバレてたの?!」
え?
「僕だってさっき自覚したばかりなのに!!」
ん?
「僕はいつから若井のこと好きだったの?!」
は?
「・・・ちょっと落ち着こうか、涼ちゃん。」
パニック状態の涼ちゃんをとりあえず落ち着かせる。
「えっと、涼ちゃん先に帰ってて。近くのパーキングに車停めて俺もすぐ行くから。」
「分かった・・・。」
涼ちゃんを降ろして近くのパーキングに車を停め、歩いて戻りつつ先ほどのことを反芻する。
「・・・・夢?」
頭が追い付かないまま、マンションに戻ってきてインターホンを鳴らす。
『は、はい。』
「戻ってきました・・・。」
『あ、開けます・・・。』
なぜか敬語の俺と涼ちゃん。玄関前まできてチャイムを鳴らすと、
「若井・・・。」
若干顔が赤い涼ちゃんがおずおずといった感じで出てきた。
「ただいま?」
「なんで疑問形?」
「なんとなく。」
とりあえず中に入り、二人でソファーに座る。
「えっと、涼ちゃん。」
「は、はい。」
いや、緊張しすぎ。人のこと言えないけど。
「車の中で俺の話どこから聞いてた・・・?」
「聞いてたのは、「体調悪い時に連れ出してごめん」から・・・。」
「最初っから・・・。」
「で、でもその時は本当にほぼ寝てて反応できなかったんだよっ。」
「じゃマンション着いた時は・・・。」
「高速降りたあたりから「もうすぐ着くなぁ」って意識がはっきりしてきて、車止まったから「あ、着いたのかな」って。」
「で、俺の気持ち知っちゃったってことね・・・・。」
涼ちゃんの顔が赤くなる。
「で、でも、若井だっていつ僕の気持ちに気付いたの?」
「いや、気付いてないのよ。さっき涼ちゃんが言うまで俺知らなかったし。」
「え?!だって僕の気持ちわかってるって言ったじゃん!?」
「断られると思ったんだよ。はっきりと言葉にされたら流石にへこむから「分かってるからそれ以上言わないで」って意味で・・・。」
「嘘・・・。僕自滅したの・・・。」
「言うなら自滅じゃなくて自爆かな。いや、誤爆?まぁ結果オーライじゃない?」
「そうなんだけどさぁ・・・。」
「で、”さっき自覚した”って何で自覚したの?」
「若井が幸せの鐘ならしてる時。あれって、大切な人へ想いを込めて鳴らすってやつじゃん?だから、好きな人がいるんだろうなって・・・。」
「あれは涼ちゃんのこと想って鳴らしてた。」
「僕・・・?」
「大好きな涼ちゃんに抱えきれない程の幸せが訪れますようにって。」
【大切な人へ想いを込めて鳴らして下さい。伝えたい言葉は音の波となって、その想いは深まりきっと心に届くはずです。】
「届いたね・・・。」
「届いたね・・・。」
嬉しいけど、即効性ヤバくないか?
「涼ちゃん。」
「なに?」
「大好きです。恋人になってくれますか?」
涼ちゃんは驚いた表情をした後、嬉しそうに笑った。
「僕も大好きです。よろしくお願いします!」
とても嬉しくて、なんだか楽しくなって、滑稽なくらい両片思いかましていたことに二人して笑い転げた。涼ちゃんに至っては涙を流しながら。傍から見たらヤバい二人だったかもしれない。
数日後
「ご所望の茶碗蒸しです☆」
「わーい!いただきまーす!」
卵を溶いて出汁と水と具を入れて電子レンジで数分温めただけの簡単茶碗蒸し。
「すごーい!ちゃんと茶碗蒸しだ!?」
一口食べた涼ちゃんは驚いていた。
「美味しい?」
「美味しい!ありがと、若井!」
「よかった。あ、それと渡すものあるんだ。」
「なに?」
ポケットからおもむろに出したのはシルバーの指輪。
「あげる。」
ポンと茶碗蒸しの横に置いた。
「え・・・。」
びっくりする涼ちゃん。本当は片膝ついて箱をパカッみたいなのがいいかもしれないけど、なんだか照れ臭いし恥ずかしい。
「ちなみにお揃いです。」
右手の薬指にはめた指輪を見せる。
「一見シンプルなものだからお揃いってバレないよ。だから、裏にこだわった。」
「裏?」
涼ちゃんは指輪を持って裏側を見る。
「青と黄色の石が埋め込まれてる?!それに、なんか文字が書かれてる?」
「青はアクアマリン。石言葉は”幸福に満ちる”。黄色はイエローダイヤモンド。石言葉は”永遠の幸せ”。文字はラテン語で「Audeamus」意味は”一緒に挑んでいこう”って意味らしい。病める時も健やかなる時も二人で困難を乗り越えていこう、ってね。」
その瞬間、涼ちゃんは大粒の涙を零し始めた。
「う、嬉しいけど、今?!今なの?!」
左手にはスプーン、右手には指輪、そして茶碗蒸しの前で涙を流す涼ちゃん。
なかなかない光景だ。
「俺ららしいでしょ。」
「でもさぁっ。」
「外じゃ号泣できないよ?」
「でも、今じゃないじゃんっ。折角の茶碗蒸し冷めちゃうじゃん!」
「そっち?」
【終】
本編は以上となります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
この後+α枠の小話が入ります。
コメント
2件
両思いになれて、指輪も貰い、りょうちゃんが幸せになって、本当に良かったです😭💙💛 このお話、めちゃ好きでした! 更新、毎日ありがとうございました✨ 小話、楽しみにしてます! もっくんがどう思ってたのかなと少し気になります🤭♥️