認めた。認めたのだ。
麗を追い詰めて楽しんでいたと。
「何年一緒にいると思ってるの」
気づかないわけがない。
「そうだ。もうずっと、俺が麗と一緒にいた。俺だけが、麗と一緒にいた」
明彦の瞳が麗を見つめている。
爛々と輝いて麗を見ている。
「いい加減にしてほしいのは俺の方だ」
責めていたはずなのに責められ、麗は目を見開いた。
「いつまで麗音だけを見ている? いつになったらその一方通行の思いを捨てられる? 俺が選ばれるのはいつだ?」
「選ぶって。ね、姉さんは家族で、……明彦さんに向けてる感情とはまた違うやつやし」
「本当に違うのか? 俺は麗の兄じゃない。その言葉の意味を本当に理解しているのか?」
「え?」
そのとき、麗は突然明彦に体を押された。
そんなことされると思ってもいなかったので、抗えず簡単にそのまま後ろに倒れた。
覚悟していた痛みと衝撃はなかった。
下にベッドがあったから。それでここがフィッティングルームではなく、ホテルの一室であることを思い出す。
明彦が覆いかぶさってくる姿を麗は見ていた。
信じられなくて、ただ見ていた。
「楽しいよ、麗を追い詰めるのは。やっと俺の番が来て、すべて順調にいってると思っていたのに、麗はほかの男の前で泣いたうえ、麗音が帰ってきたらすぐ、いつものように俺をお払い箱にしただろ?」
「そんなことは……」
「麗音に一瞬構われるだけで、俺のことなんか簡単に忘れ去る。俺はいつまでも麗音に勝てない」
明彦に須藤百貨店で買ってもらった高価な喪服。
真っ黒な喪服の裾が大きな男の手により捲られていく。
「俺を選ばないなら、選ばせるしかないだろ? だから、麗には俺しかいないって理解させるのはすごく、楽しい」
何をされようとしているのか、察しはついていた。
だって、明彦は本当に楽しそうだから。
あんなに一緒にいたのに、見たことがないくらい。
「……私、アキ兄ちゃんと恋愛なんか、したくなかった」
楽しそうだった明彦が一瞬、眉をひそめた。
「知ってたよ。麗が俺に優しいお兄ちゃんでいてほしがっていたのは。不在がちでろくに構ってくれない麗音の代わりに面倒見てくれる優しいお兄ちゃん」
そうだ。ずっと、そうあってほしかった。
姉がいなくて一人ぼっちで寂しいから、この寂しさを埋めてほしかった。
すぐに取っ替え引っ替えされていた恋人になんかなりたいと思ったことはない。
「でも、麗は相手の望み通りに振る舞うのも好きだろ? 誰かの都合のいい子でいるのがすごく上手だもんな。だから、俺の都合のいい子でいてくれよ」
そのとき、電話が鳴った。
姉からだ。絶対に電話を取れるよう姉からの着信だけ音を変えているからスマートフォンを見なくてもわかる。
明彦にもらったお下がりのスマートフォン。
使い方がよくわからなくて、明彦に説明してもらいながら、設定した。
「出るなよ、頼むから。嘘でいい、演技でいい、流されただけでいい。麗音より俺を優先しろよ」
喪服の裾は完全にめくれ上がっており、薄いタイツを履いた太ももに、大きな男の手が這う。
上から覆いかぶさっている明彦が麗を見つめている。
まるで、祈るかのように。
「愛してると、言ってくれ」
コメント
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明彦さんの気持ちを考えると悲しくて。 麗ちゃん、少しは明彦さんの気持ちも考えてみてほしい。