テラーノベル
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薫は珍しく相当焦っていた。
自分が車を出したら確実に事故るだろう。
過ぎ行く景色をタクシーの車窓から眺めていた。
気持ちばかりが急く。
着信音に気付き、間に合った時には不在着信に切り替わった。
その後すぐに悠真からの一瞬の着信。
最初の電話は沙織だった。
2人は一緒にいる。なにか分かったことがあったんだなと、沙織にかけ直した。
悠真は、急ぎめのメッセージをいれる時に必ずワンコールするやつだった。
単純に自分が『あとでかけなおすか』や『あとで店で会うからそんときでいいか』と、ついつい、後回しにしてしまう悪癖のためだ。
沙織と話すと、悠真は近くの交番に行ったと言う。不審人物目撃でもあったか。詩音をいつまで見かけた、とか、そういったことだろうか。
そんなことをぼんやり考えていた自分に腹が立つ。
『赤井音弥という男を知っていますか』
続けてメッセージが届いた。
『店長の家の引出しに入っていた履歴書、その人じゃなかったですか?』
『本庁勤務と名乗っていたはずが、今、交番勤務しているんです』
凶悪だと、過去に言われた顔をさらにしかめ、悠真に探させた直近の請求書や領収書の紙束を漁る。
その間に沙織には待機を指示し、電話を切り、翔に電話をかける。
『なにかあったんですか。そっち、すぐ向かいますか』
翔は2コールで出た。
相当気になっていたんだろう。
義理堅いコイツは見た目と言動がチャラく見せているせいで正当な評価を周りから貰いづらい。
親も、刺青をたくさん入れているせいもあってか、学生時代にやんちゃしたせいか恐れられている。
『腫れ物を扱うように接してくるんすよねー』表情だけ笑って、何事もないように話していた。
店に来ようとする翔を一言で止め、美咲と一緒に詩音の家で沙織と待機するように頼む。
履歴書を見つけた。
なぜか、休業中に履歴書持参で雇ってほしいと笑顔を見せていた表情は万人受けするのは判るが、どこか、胡散臭く感じたのもあり、人手は足りている。と断った。
それでも、どうか!と頼んできた姿に眉間の皺の取れない溝を更に深くさせてしまった。
うちの店は、悪友である和人と始めた店だ。
本当は、2人でも良かった。
詩音を雇うようになってから、店の雰囲気も客層もガラリと変わり、次々と一癖もふた癖もある奴らばかり雇うことになってしまった。
そして、そんな大人数を抱えた店がとても居心地のいいものになっていた。
あいつらも、心の拠り所にしているのが解っていた。
詩音も、最初は雇う気なんか更々なかった。
ただ、放っておけなかった。
全てを諦めたような、絶望しか見えてないような目が印象的だった。
薫は目を閉じ、腕を組み、タクシーの背もたれにさらに深く体を預けた。
今も、鮮明に思い出す。
『ねぇ、私を買ってくれない?
私、ハジメテだから最初は高いけど、どう?』
Barの時間に切り替わる時間に出勤する途中だった。
幼さの残る女子高生。
ショートパンツに片方の肩だけ出すトップスを着て、上目遣いにおじさんを誘う。
『ガキには興味ねぇよ』
『そう言わずに。お金に困ってるんだ、私。家出してきて帰るとこないの。ね、お願い。たくさんサービスするからさ』
溜め息と睨みを浴びせ、無理矢理店に連れていった。
『金に困ってんなら、体で稼げ。働け。身体や自分を売んな。技術や話術を売れ』
戸惑う詩音を、洗い物すら不慣れな詩音を、その日は閉店までこき使ってやった。
店のソファで寝かせた。
風呂は2階の俺の家のを使わせたが、カフェの方も手伝わせた。
労働基準法丸無視で使ってやった。
詩音の時給は最低賃金だったが、すぐに金は貯まった。
部屋を借りてやり、家賃は俺が出すから生活費だけ自分で出せ。と命令し、無理矢理一人暮らしにさせた。
詩音は、店を辞めなかった。
明るい表情は見せるようになり、正社員になる。と目標を宣言し、資格の勉強をし、次第に増えていった三崎、美咲、翔、悠真とも仲良くやっていき、当時の姿なぞ夢だったんじゃ、と疑うほど別人になった。
タクシーが停まった。
薫は凶悪に見える顔を引き締め、金を払って、タクシーが去ってから交番の横開きのドアに手をかけた。
悠真、待ってろよ。
詩音、無事でいろよ。
諦めんなよ。
未来を、希望を諦めず持てるのが、お前のもっともいいところだろう。
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コメント
1件
ここまで詩音の過去が明かされると思わなかったな……。薫さん、あの時「体売るな、働け」って突き放しながらも、ちゃんと詩音を拾って生まれ変わらせたんですね。店のみんながひとつの家族みたいに繋がっている理由が分かって、胸が熱くなりました。
つかであきひろ
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橘靖竜
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#闇バイト
るしゅ
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ロボットの王
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