「ちょっと、りょうちゃん?次から次に神様召喚しないでくれる?」
「どうなってんの、涼ちゃんて。」
「僕が知りたい。」
俺も知りたい。
そいつが手を振った瞬間、強い風が吹いた。
目を閉じて、顔を背けて、風に抗う。
次に目を開けた時には、
涼ちゃんは、いなかった。
「涼ちゃん!」
「りょうちゃーん!」
必死に叫んで、辺りを見回す。
かくれんぼ…とかではないわな。
空から現れた神と共に、涼ちゃんは消えた。
そう思うしか、ない。
「お前、なんか知ってるだろ。」
真神と名乗った狼に詰め寄る元貴。
前も見たような光景。
『契約は果たされた。連れて行く。』
またかよ!
「帰せよ!」
元貴よ、神を詰めるんじゃない。
『時が来れば、帰ることもあるかもしれんが、今は無理だな。」
そう言い残して、その狼もふっと消えた。
『記憶も消える。その方が幸せだろう。』
「なっ!」
頭に響いたその声に、絶句する。
涼ちゃんの、記憶が消える…?
「もー、なんなの、もー。」
元貴がブツブツ言いながら、鳥居を潜る。
俺も一緒に鳥居を潜る。
「じゃ、帰ろっか。」
「いや、フェル達連れてかなきゃ。」
置いてく訳にはいかないでしょ。
空間渡って、帰って来そうではあるけど。
「フェルってなに。」
「は?」
お前、本当に忘れたのかよ。
足を止めない元貴。
フェル達の前を、素通りして行く。
俺はそれを見てることしかできなかった。
『記憶を消されたか。』
歩みを止めない元貴に合わせて、フェルも歩き始めた。
二匹のちっこいのを背中に乗せたまま。
『にーちゃんは大丈夫なんか?』
「俺は記憶あるよ。」
涼ちゃんのことも、フェル達のことも、全部。
「なぁ、元貴。涼ちゃんのことは?」
「誰?その人。」
正直、一番聞きたくなかった台詞だった。
元貴が、涼ちゃんを、忘れるなんて…。
頭を抱えてしゃがみ込みたい。
フェルに相談したい。
忘れてるのは、元貴だけなのか。
それとも、俺がおかしいのか。
宙を蹴って、スコルが頭に取り付く。
『にーちゃんは偉いな。』
『帰ったら、話をしよう。』
久しぶりにフェルが消える。
『にーちゃんといるな!元気出せ!』
スコルは置いてかなくてもいいんですが。
「オレら、なんでこんなとこまで、夏祭りに来たん?」
「なんでだろうな。」
お前の恋人に、連れて来られたんだよ。
お前が覚えてないだけで。
元貴と並んで、街中を歩きながら。
涼ちゃんを、全てを取り戻す決意を俺は固めた。
「ケンカ、売ってやろうじゃねぇか。」
人の恋路を邪魔しやがって。
「誰にケンカ売るのよ、若井怖っ。」
まずは元貴に、思い出してもらいましょうか。