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それから数日後。朧は再び、境のほころびを感じ取った。
(⋯⋯また、あの場所だ)
霧の中を進むと、そこには予想通り──あの日と同じ少女の姿があった。
「⋯⋯また来たのか」
「うん。だって、どうしても話したくて」
柚葉は、前よりも少し痩せていた。目の下には、うっすらと影がある。
それを見て、朧は感じ取る。
「⋯⋯人の世界に、居場所がないのか?」
「⋯⋯うん。家にいても、誰も私の話を聞いてくれない。学校でも、ずーっとひとり。だから⋯⋯ここに来たの」
朧は黙って、柚葉を見つめた。
(この子は⋯⋯”境”に呼ばれている)
「ここ、静かで好き。風の音とか、草の匂いとか⋯⋯全部、優しい」
柚葉は境界の庭に咲く白い花を見つめていた。
「この花、なんて花?」
「⋯⋯”月白草“。満月の夜にだけ、光る」
「へぇ⋯⋯きれい」
(⋯⋯なぜだ)
「人の目には見えないはずだが」
「ふふ、じゃあ私、ちょっとだけ”こっち側”に近いのかもね」
朧はその言葉に、小さく目を見開いた。
(⋯⋯まさか)
「柚葉。お前の家系に、何か”特別な血”はないか?」
「え?⋯⋯あ、うん。おばあちゃんが言ってた。“うちの血は、昔から”境”に呼ばれる”って」
「⋯⋯やはり」
「でも、誰も信じてくれなかった。“また変なこと言ってる”って⋯⋯。こんなこと言っちゃったから居場所ないのかな⋯⋯、」
柚葉は笑った。けれど、その笑顔はどこか痛々しかった。
「でも、朧くんは信じてくれてるんだね。ありがとう」
朧は、何も言えなかった。
(この子は、異界と人の狭間に生きている)
(そして私は⋯⋯その狭間を守る者)
その夜。朧は長老のもとを訪れていた。
「⋯⋯人の娘に、情を抱いたか」
「⋯⋯否。ただ、彼女は”こちら側”に惹かれている。放っておけば、境を越えてしまう」
「ならば、処すべきだ」
「⋯⋯!」
「いいか、朧よ。お前は”守護者”だ。情に流されるな。それが”契り”を持つ者の責務だ」
朧は拳を握りしめた。
(⋯⋯柚葉を、消せというのか)
(あの笑顔を、あの声を、この手で⋯⋯?)
その夜、朧は初めて”守護者”という役目に疑問を抱いた。