「お懐かしいでしょう。私も探し出すのに苦労しました」
「……えぇ」
「……ウレインは紅茶派ですからな。こちらでコーヒーは初めてでは?」
「そうですね」
私は、不機嫌を抑えずに返事をした。
「まぁ、私も事を荒立てたくはない。……コーヒーもその気持ちの表れのつもりです」
会長の声は落ち着いているけれど、そこに私への不信感は残したままだった。
「率直に仰ってください。私は何も隠しませんから」
面倒な探り合いなんて、時間の無駄だ。
魔族を認められないというのなら、戦うしかない。
魔王さまのために。
私が生き残るために。
「ふむ……。では、遠慮なく」
彼の言葉を待ち、私はコーヒーにはひと口も触れずに横目で見やった。
「オートパトロール……球体のドローンですが、それが検知したあなたの生体波は、人のものではなかった」
「では、一体何だと?」
一度くらいはとぼけてみるけれど。
「会長! んなもん! 転生者なら多かれ少なかれじゃねぇのか!」
「いいや。明らかに違う。違い過ぎる」
「だからって! それが何だってんだ! 聖女様は聖女様だ!」
ここまで心酔されると、ちょっと申し訳ないけれど。
レモンドは私を庇ってくれて、そして今にも殴りかかりそうな勢いだ。
「恐らくは魔族。……違いますか、聖女様」
機械で判別されたなら、いずれ情報は出回るか。
「ええ。その通りです」
レモンドが一瞬怯んだ。会長も。
けれどレモンドは、すぐに「それでも!」と言ってくれた。
会長は、まさかすぐに認めるとは思わなかったのかもしれない。
「よ……よくもぬけぬけと」
「魔族が憎いですか? それとも恐ろしいですか?」
レモンドの話では、直近の戦争でも、魔族はむやみに住民を殺さなかったという。
かといって、誰も死なないはずもないから、死傷者のご遺族ということはありえる。
そもそも、種族が違えば恐れるか見下すかとするのが、人という生き物だけど。
「……恐ろしいだろうさ。それに私は、人々を守るという役目がある」
「あなたの大事な仲間も、私は治癒しているらしいですけど」
「ぐぬ……だが、信じ切って油断することは出来ん」
疑り深い。というのは、その通りらしい。
かといって――信じてもらう必要もない。
私は私のしたいようにする。
「なら、信じなければ良いのでは?」
「その余裕……。いつでも我らを滅ぼせるということか」
この人、たぶん心配し過ぎて思考が飛躍している。
「話が見えません。なぜ魔族が、あなたたち人間を滅ぼす話になるんです?」
「知れたことを。三百年前、人間が魔族領に攻め入った時の、蹂躙した村の生き残りが魔王だろうが」
その黒い双眸は、恐怖と、疑念と、そして負い目を感じているような、業を背負う者の瞳をしている。
「――何の話をしているの?」
「知らぬはずがないだろう。国境付近の村を、残虐に焼き払ったという記録がこちらにさえ残っているのだ。魔族達はさぞ、人間に恨みを持っているだろうよ」
私の知らない歴史を言われても、よく分からない。
それなのにこの会長は、それを当然の記憶だと決めつけて話をする。
「知らないってば」
「お主を聖女であると民に受け入れさせ、そうしてから虐殺へと趣旨返しをすれば、大した復讐になるだろうよ」
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