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「何言ってるのか、分からないですってば」

三百年前の歴史なんて、私はファル爺に教わってない。

人間との間にどんな軋轢があるのか、どんな憎しみが心の底に溜まっているのか。


「しらを切ろうと、いずれ手の平を返すのだろう?」

この商工会の会長は、人の話を聞かないらしい。

それでよく会長職なんて務まるものだと、よく分からない怒りが湧き上がってくる。


「話の通じない人ですね。そもそも、私が一生懸命に治癒した人たちをなんで虐殺なんてするんですか。しないですよ、普通に考えてください」


何と言えば、こちらの話を聞いてくれるんだろう。

テーブルに置かれたコーヒーに、もはや口をつける気にはならない。



「人間が憎いはずだろう。そもそも、魔族には何の落ち度もないのに、勝手に攻め入ったのだ。許せるはずがない」

会長は、私とは逆にそのコーヒーで、気持ちを落ち着けているのか昂らせているのか、何度か口に運んでいる。


「あの。私はご存知の通り、転生者です。それも最近。一年も経ってません。三百年前に攻めて来たとか言われても、全くピンときませんよ」

そんなことよりも……魔王さまが、虐殺された村の生き残りだという話を聞きたい。


「……本当に、何も知らぬと?」

「そう言ってるじゃないですか」

やっと、聞く気になってくれた?



「だが、お主の後ろにいる魔王が、お主に何も告げず復讐の機を狙っているとしたら?」

……魔王さまの真意は知らないけど――。


「本当に復讐の機を狙っているなら、私が勇者たちに襲われた時に、もう王都を焼き払っていますよ」

「その時は、魔王一人で助けに来たという報告だ。いかに魔王といえど、王都の防衛をたった一人でどうにか出来るものか。むしろ今、それを口実に兵を集めているのだろう」


誰か、この人がどうしたら話を聞いてくれるのか、教えて欲しい。

だんだんと、このセンター分けの黒髪を嫌いになってきた。

無遠慮に、椅子に深く腰掛けて斜に構え、さもお見通しだと言わんばかりの態度が。



「お言葉ですけど。魔王さまのお力なら、王都は一瞬で灰になりますよ。兵を集める必要がありません。だから、最初から王国に攻め込むような意図はないんです」

ここまで言えば、さすがに分かってくれるだろうか。

会長もレモンドも、驚いて固まってしまったけれど。


「ねぇ、聞いてくれてますか?」

「は、ハッタリだろう。それに、そんなことが可能かどうかはさておき、王都を……王国を害する意図が無いのとは別問題だ。むしろそれが本当なら、より脅威であると分かったに過ぎん」


私では、この人に何を言っても聞いてもらえない。

そう思って、レモンドの方に視線を向けた。

「――なんとかしてください」

あなたの上司なんでしょう?


それを汲み取ってくれたのか、彼は一応の抗議をしてくれた。

「か、会長。いい加減、この話はやめにしましょうや」

「お前まで何を言う、レモンド。魔族のいいように操られおって」


「何言ってんだ! 恩を仇で返すような真似、これ以上出来っか! 商工会ギルドの代表が、そんなこってどうすんだ!」

割といい剣幕で、まくし立ててくれた。

ちょっと胸がスッとして、そしてレモンドは見立て通りのいい人なんだなと、安心もした。



「ぐ……。しかしだな。私はこのギルドのためを想って、脅威を排除せねばと考えを巡らせているのだ」

「そんなら、聖女様にこんな意地悪しねぇで、その魔王さんに取り次いでもらえばええでしょうが! んで、きちんと話し合いさ、してもらわんね!」

――うんうん。

って、え?


「ハナシ合い?」

素っ頓狂な、ヘンに高い声が出てしまった。

魔王さまのお手を煩わせるようなことを、していいはずがない。

聖女級の治癒力でも、魔族だとバレるのはよくないようです ~その聖女、魔族で魔王の嫁につき~

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