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〚Part4〛母親
おきなさいクラピカ、朝よ
幼い頃の懐かしい記憶、母は寝ていると身体を揺すりながら優しく起こしてくれていた
おはよう、クラピカ
母はいつも優しく、柔らかく頬を撫でてくれて目覚めの挨拶をしてくれていた
そう、今のように優しくフワフワと頬を撫でて・・・
フワフワ?
「むぎゅっ」
本日のクラピカの目覚めは懐かしい母の夢と、視界いっぱいに広がる茶色いフワフワの毛並みから始まったようだ
”にゃーん、にゃぉん”
こちらに身体を擦り付けて、肉球で顔をペチペチ叩いてくる猫
「おはよう・・・」
頭を撫でてやるとカプッと甘噛みされた。他の猫と触れ合ったことが無いから比較はできないがパラディナイト家の飼い猫は比較的おとなしいほうだと思う
噛む、ひっかくなどはあまりされたことが無い、その猫がこうして甘噛みをしてくるときは腹を空かせた時だ
「私としたことがここのところ毎日のように猫に起こされているのだよ・・・」
しっかり朝起きなければと思っているが、この家はとても寝心地がいいのかぐっすりと毎晩眠ってしまう
(レオリオがそばにいること、そしてこの環境に私は安心しているのだろうか)
「休養が明けたら再び裏社会に戻らなければいけないというのに」
本当なら裏社会に染まっている自分と医者を志しているレオリオが付き合いがあるというだけでも社会的に褒められたことではないはずだ
「離れなければいけないはずなのに・・・痛っ」
思考をどんどん闇に落としていると素足に痛みを感じる
”にゃぉっ”
珍しく猫の目が怒っている。空腹に我慢できないのか、レオリオから離れようとした私の中の感情を何か察したか・・・
「すまない、ごはんにしようか」
早く、早くと急かすようにこちらを振り向く猫の後ろを駆け足でついていきリビングへと降りて行った
「誰もいないな」
レオリオの母はともかくとしてレオリオまで声をかけずに不在にしているのは珍しい
リビングの机の上を見ると一枚のメモが置かれていて朝食のパンと昨日の残りだが昼のシチューを用意してあること、母もレオリオもそれぞれ用事ができて出かけている旨が書かれていた
「至れり尽くせりで申し訳ないな・・・」
レオリオの母の食事はとても美味しく感じる、久々に囲む賑やかな食卓にホッとした気持ちになっていた
猫にごはんをあげると可愛らしい食べ姿を写真に納めておく
「いつの間にかスマホの中が猫だらけになってしまったな」
自分の写真を撮ることは絶対になかったし、他の写真を撮影することも仕事以外ではほとんどしてなかった
それがこの数週間で猫とレオリオの写真ばかりで埋め尽くされている。おかげで写真フォルダが茶色いフワフワで埋め尽くされた
「ふふっ、どうしたのだよ」
食べ終わった猫はペタンと床にねそべった
「かわいい」
背中を撫でてやると気持ちよさそうに喉を鳴らし始めた
「洗濯物を干さないといけないな」
料理以外は自分のことはやろうと、レオリオとクラピカの洗濯はクラピカが担当しているため、バルコニーに衣服やタオルを干すと風がいつもより湿っているように感じた
「本でも読むか」
昨日読み進めていた文庫本の続きをソファーに寝転んで読み進めていく
いつの間にか、うたた寝をしてしまったようだ。猫も床からいつの間にかソファーの空いたスペースで眠っている。この家にいると普段よりの眠くなってしまう気がする(普段が寝不足だったというのもあるかもしれないが)
意識がはっきりせずボーっとしていると猫が急に動き出した
”みゃぁっ みゃぁっ”
窓辺で忙しなく動き回りにゃぁにゃぁと鳴いている
「どうしたのだよ」
窓の外を見ると灰色の暗い雲が近づいてきていた
「雨雲か!」
遠くから微かに雷の音も聞こえてきている。急いで洗濯物を取り込もうと窓枠に手をかけたが、足元の猫の存在を外に出してはいけないことを思い出す
「ちょっと失礼」
猫をゆっくり抱きかかえ一旦サークルの中に置いてやり、慌ててバルコニーの洗濯物の回収に励むことにした
「母上の洗濯物も入れておくか」
女性の洗濯物をジロジロ見るのは失礼に当たると考えて、自分たちの物より先に手早く部屋に入れていく
「さて、部屋の中に干しておけばいいかな」
外ではポツポツと雨音が少しずつ大きくなってきた、女性の洗濯物はなるべく見ないように形を整えてから自分達の洗濯物で囲って自分やレオリオの目に触れないように配慮してみる
「さて、このまま少し早いがお昼をいただこうかな」
シチューを温めながら故郷の料理を思い出す
「作り方を知っていれば今でも味わえたのだろうか」
母が料理を作ってくれている間は共通語の勉強をしていたか、親友と野山を走り回って遊んでいる時間だった
あの時は、これからも当たり前のように食べることができるとしか考えていなかった
「ルクソ地方の料理の本なら近しいものがあったりするのか」
やっと、もし叶うならもう一度故郷の味を口にしたいと思えるようになってきた
ありがたくシチューを頂いて食べ終わると、猫をサークルから出してやり洗い物に励むことにする
「キッチンマットの上に寝転んでたら危ないのだよ。万が一踏んでしまって怪我をさせるわけにはいかないからな」
マットの上で寝転んでこちらをまん丸の目で見られたら、こちらも動かせない
「じっとしているのだよ」
猫はときどきクラピカの脚にじゃれたそうにしながらも、言いつけを守って大人しくしていた
「そういえば先程は雨が降りそうなことを教えてくれたのかな?キミのおかげで洗濯物が濡れなくて助かったのだよ」
猫が好きな顎をくすぐってやると”にゃぅ”と返事を返してくれた
玄関からバタバタと足音が聞こえてくる、居候として家事の手を止めて出迎えることにする
「おかえりなさい」
帰宅したのはレオリオの母だった
「ただいま、洗濯物取り込んでくれたのね!急に雨が降ってきたから助かったわ、ありがとうクラピカ」
豪快に頭を撫でられたくすぐったい気持ちになる
幼い頃に母に撫でられた時に感じた気持ちと似ているような、少し恥ずかしいようで嬉しい・・・そんな感情だ
「その、失礼ながらいろいろ触ってしまったのだよ・・・えっと、不快な思いをさせてしまったら申し訳ない」
レオリオ母は ん? と首を傾げた後に豪快に笑いだす
「あらまっ、気を使わせちゃってごめんなさいね~。気にしないわよ、だってうちは元々息子との二人暮らしだったもの!」
レオリオ母は「私の洗濯物を見て「そんな派手なの買ってどうすんだよ」とか言ってくる息子がいるから全然気にしないわよ!さ、美味しい紅茶を入れたから飲みましょう」と明るい笑顔でリビングへと入っていく
やはりあの男は品性に欠けるな、とクラピカは自らの恋人についての評価を再認識したのであった
レオリオの母と紅茶を飲みながら猫が家に来たばかりの時のアルバムを見せてもらう
「すごい、レオリオの肩に乗るくらい小さかったのか」
「そうよーこれが今じゃこんなにおっきくなったのよ」
猫の顔立ちは子猫の頃と変わっていない気がする
「クラピカ、せっかくだから面白いものを見せてあげるわ」と言うとレオリオ母は自室へ上がるとアルバムらしきものを抱えて戻ってきた
「この写真誰かわかるかしら?」
ベビー服の小さな赤子と一匹の猫
「もしや、レオリオか?面影が無いから確信はないが・・・」
レオリオ母は優しく微笑むと「正解よ」と教えてくれた
「私が若い頃に実家で飼っていた猫と赤ちゃんのレオリオよ、この子は長生きでレオリオが2歳になるくらいまで生きていたのよ」
アルバムにはレオリオ(幼児)と猫の写真が複数並んでいる、レオリオの母が大切に息子を育ててきたことが手に取るようにわかった
「あの・・・」
私が口を開いたとき玄関からレオリオの声がした、猫が嬉しそうに走っていく
「クラピカ、夕飯の後にちょっと晩酌につきあってくれないかしら?」
レオリオ母は口角を上げてニィッと笑っていた