早く飲みましょ!と、霊夢たちが急かす。
リムルは苦笑しながらも、胃袋(胃袋空間)から次々と「おもてなし」を取り出していく。
「わかった、わかったって。……ほら、これはうちの国で一番の自信作だ」
リムルが取り出したのは、美しい硝子細工の瓶に入った黄金色の液体。テンペスト特製の**「大吟醸・暴風大龍(ストームドラゴン)」**だ。封を開けた瞬間、境内には果実のような華やかさと、魔力を帯びた芳醇な香りが広がった。
「な、なによこの香り……! 私が今まで飲んできた神社の安酒とはレベルが違うわ!」
霊夢が鼻をひくつかせ、お猪口を差し出す。
さらにリムルは、シオンの料理……ではなく、シュナが監修した最高級の和牛のステーキや、魔国連邦で採れた瑞々しい果物を次々と並べていった。
・ ・ ・
宴会が始まると、そこはもうカオスだった。
「リムルと言ったかしら? 貴方のその『能力』、魔法とは根本的に違うようね。まるで世界そのものを書き換えているような……」
パチュリー・ノーレッジが、リムルの隣に座り込み、興味津々で観察を始める。
《報告。個体名:パチュリー・ノーレッジによる魔力解析を検知。擬態による情報遮断を維持します》
(シエルさん、お手柔らかにな。今は宴会なんだから)
一方、伊吹萃香はリムルの酒を一口飲むなり、顔を真っ赤にして上機嫌になった。
「あはは! こりゃいい! リムル、アンタ最高だよ! スライムのくせにこんなに良い酒を持ってるなんて!」
「スライム『だから』色々作れるんだよ。……おっと、咲夜さん。そのおつまみ、こっちのソースをつけると美味いよ」
リムルは十六夜咲夜に、テンペスト特製のスパイスを差し出す。
「……恐れ入ります。空間を操る貴方の手際、メイドとしても学ぶべき点があるようですわ」
咲夜は優雅に一礼し、リムルの給仕を(無意識に)手伝い始めた。
・ ・ ・
宴もたけなわ。月が中天に差し掛かった頃、リムルは少し離れた場所で一人酒を嗜んでいた八雲紫に声をかけた。
「紫さん、さっきは悪かったな。シエルさんがつい本気になっちゃって」
紫は月を見上げたまま、悪戯っぽく微笑んだ。
「いいのよ。あんなに鮮やかに私の『境界』を上書きされたのは初めてだわ。……でも、貴方。本当は一人でここに来たんじゃないのでしょう?」
リムルがぎくりとする。
「その体の中に、もう一つの『意志』を感じるわ。貴方を王たらしめている、冷徹で慈悲深い智慧の光……」
《不快です。個体名:八雲紫によるマスターへの過度な干渉は、論理的帰結として『排除』の対象となり得ます》
(シエルさん、落ち着いて! 褒められてるんだから!)
リムルは冷や汗を流しながら、紫にお猪口を差し出した。
「……まあ、彼女は俺の最高のパートナーなんだ。あんたとも、いつか仲良くなれると思うよ」
紫は少し驚いたように目を見開き、やがて楽しげにリムルのお猪口に自分の酒を注ぎ返した。
「ふふ、そうね。境界を越えてやってきた『異世界の王』。……この幻想郷での滞在が、貴方にとって退屈でないことを祈るわ」
「おいリムルー! 次の酒だ! 出し惜しみするなよ!」
遠くで魔理沙が叫んでいる。
「あーはいはい! 今行くよ!」
リムルはスライム姿にぽよんと戻ると、弾むように少女たちの輪の中へ戻っていった。一人で迷い込んだはずの幻想郷。けれど、そこにはいつも通りの賑やかで温かい「宴」が広がっていた。






