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羊と亀のお遊戯会
23
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
10
映え無し
1
【短歌】
いつもより少し早くに家を出て君に会う日の空を見上げる
【短歌をテーマにした物語 】
目覚まし時計が鳴るよりも、ずっと早く目が覚めた。
カーテンの隙間から差し込む朝の光を見つめながら、私はしばらく布団の中でぼんやりしていた。
今日は、君と初めて二人きりで出かける日。
昨日の夜は、何を着ていこうか何度も悩んだ。お気に入りのブラウスを出しては戻し、髪型を考えては鏡の前で試してみた。
たった一日のお出かけなのに、どうしてこんなに落ち着かないんだろう。
「……楽しみすぎるでしょ、私」
誰もいない部屋でつぶやいて、思わず笑ってしまった。
待ち合わせは午前十時、駅前の時計台。
家を出るには、まだ十分すぎるほど時間があった。
それでも私は、朝ごはんを食べ終えるとすぐに支度を始めた。鏡の前で前髪を整え、鞄の中身を確認する。スマートフォン、財布、ハンカチ。忘れ物はない。
最後にもう一度、鏡を見る。
いつもと同じ私。
けれど、今日の私は少しだけ違う気がした。
君に会える。
そのことだけで、世界が昨日より明るく見えた。
玄関を出ると、秋の風が頬をなでた。
空はよく晴れていて、薄い雲がゆっくりと流れている。道端の街路樹は少しずつ色づき始め、朝日に照らされた葉っぱがきらきらと光っていた。
私は思わず足を止め、空を見上げた。
こんなに空がきれいだったなんて、知らなかった。
いつもなら、学校に遅れないようにと急いで歩くだけの道。空を見上げる余裕なんて、ほとんどなかった。
でも今日は違う。
歩くたびに、胸の奥が弾んでいる。
駅までの道のりが、いつもより短く感じられるような、反対に、もっとゆっくり歩きたいような、不思議な気持ちだった。
君は、どんな服を着てくるんだろう。
待ち合わせ場所に着いたら、最初になんて言おう。
楽しみだね、と笑えたらいいな。
そんなことを考えているうちに、駅前の時計台が見えてきた。
時計を見る。
午前九時二十分。
早すぎた。
私は小さく息を吐き、駅前のベンチに腰を下ろした。
スマートフォンを取り出してみたけれど、君からの連絡はまだない。もちろん、約束の時間まで四十分もあるのだから、当たり前だ。
それなのに、画面を何度も確認してしまう。
私は自分の行動がおかしくて、くすりと笑った。
好きになるって、こういうことなのかな。
会う約束をしただけで、朝が待ち遠しくなる。
まだ会ってもいないのに、笑顔を想像してしまう。
たった一言の「おはよう」を、何度も心の中で練習してしまう。
いつからだろう。
君と話すのが楽しみになったのは。
君からのメッセージを、何度も読み返すようになったのは。
気づけば、君がいない時間にまで、君のことを考えていた。
「……早く来ないかな」
つぶやいた声は、朝のざわめきに溶けて消えた。
そのとき、スマートフォンが震えた。
『ごめん、少し早く着きそう! もう駅にいる?』
画面を見た瞬間、胸が大きく跳ねた。
私は慌てて返信する。
『うん、もう着いてるよ!』
送信してから、はっとした。
もう着いているどころか、ずいぶん前から待っている。
そんなことを知られたら、どれだけ楽しみにしていたのか、全部ばれてしまいそうだ。
スマートフォンを鞄にしまい、私は立ち上がった。
改札の向こうを見つめる。
人の流れの中に、見慣れた姿があった。
君だ。
私を見つけた君が、少し驚いたように目を丸くしたあと、いつもの笑顔で手を振ってくれた。
「おはよう。待った?」
「ううん、今来たところ!」
思わず、いつもの嘘をついてしまった。
君は「そっか」と笑って、私の隣に並んだ。
「今日はいい天気だね」
「うん。すごくきれいな空」
「ほんとだ」
二人で空を見上げる。
さっきまで一人で見ていた空と、同じ空のはずなのに。
隣に君がいるだけで、どうしてこんなに違って見えるんだろう。
「じゃあ、行こうか」
君がそう言って歩き出す。
私も、その隣に並んだ。
今日はきっと、特別な一日になる。
何かすごいことが起きるわけじゃなくてもいい。たくさん笑って、好きなものを見て、帰り道に「楽しかったね」と言い合えたら、それだけで十分だ。
そして明日の朝も、きっと私は思い出す。
君に会える日を待ちきれなくて、いつもより早く家を出たこと。
少し冷たい秋の風。
見上げた空の青さ。
そして、待ち合わせ場所で見つけた君の笑顔。
私は隣を歩く君をそっと見た。
「ねえ、今日はいっぱい楽しもうね」
「うん。楽しみにしてたんだ」
君が笑う。
その言葉が嬉しくて、私はまた空を見上げた。
君に会う日だから、いつもより早く目が覚めた。
君に会う日だから、いつもより早く家を出た。
そして君に会えたから、いつもの空が、忘れられない空になった。
きっと恋は、こんなふうに始まるのだと思う。
特別な何かが起こる前から、もう世界は少しずつ変わり始めている。
君に会う日の朝は、いつもより少しだけ、空がきれいだ。
コメント
1件
うわあ……めっちゃピュアで胸がぎゅってなった。初デートの朝、早く着きすぎてベンチでそわそわしてる感じ、すごくわかるわ。空がきれいに見えるのも「君に会えるから」って理由がちゃんと効いてて、すごく丁寧に心情描かれてるなって思った。短歌が冒頭にあるのも新鮮でいいアクセントだった。素敵な話をありがとう!