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サイド ルネ
俺はダイチの目の腫れが引くまで、ダイキたちの面倒を見ることにした。
「こんにちは。今日、ダイチは委員会があるから遅くなるよ」
「そうなのか?」
ダイキは首を傾げてそう訊ねた。ちなみにユズちゃんはここにはいない。もう両親と自宅に帰ったから。
もちろん、嘘だけどそれを言ったらダイチの約束を破ることになってしまう。だから俺は、無言で頷いた。
「……俺は、信じない」
マオが俺に放った記念すべき第一声がこの言葉だった。嘘がバレたのかと内心では警戒しながらも、俺は笑顔で「本当だって」とマオに言った。
「あんたが嫌いだ。ダイチにも本心を見せずに作り笑いでいつもヘラヘラして……」
「……俺、そんな顔してた?」
マオに言われるまで、全然気づかなかった。
「白々しいんだよ、そういうところが!」
「うわっ!」
「きゃあっ!」「な、何してんだよ、マオ!」
カッと目を見開いてマオが俺に掴みかかってきた。バランスを崩して、俺はそのまま倒れ込む。
ずっとマオのことを物静かな人だと思っていたから、この行動にはかなり驚いた。マスク越しでもかなり苛立っているこことが分かるほど感情を爆発させるなんて……。
「マ、マオ。落ち着いてよ……!」
「………………」
マオは無言でスッと手を引いた。それでも依然として強い眼力で俺を睨みつけている。
「あんたが俺を信じてないから、警戒しているから、俺もあんたを信じない。」
……マオにはマオの生き方があるように、俺には俺の生き方がある。それをどうこう言う筋合いは無いし、言われる筋合いも無い。
「ねぇ。“教育勅語”って、知ってる?昔の道徳の法律みたいなものなんだけど」
人にはうやうやしく、自分の行いは慎み深く、……あとなんだっけな?
「まあ、簡単に言うと“人は人らしくありなさい”ってことかな」
「……それがどうした」
マオは疑問を持ったようだった。ま、いきなりこんなこと話されたらそうなるよね。
「じゃあさ、この“人らしく”ってなんだと思う?」
法律を侵さないこと?みんなで仲良くすること?違う。それなら警察も政治家も必要ない。
「……生きること。それが人であることの大前提」
「うん、正解」
ユイカのいう通り。
「生きる為に必要なのは信頼することじゃない。信頼させて、一人にならないことが大切なんだよ。人間ってさ、一人じゃ生きられないくせに群れて仲間はずれを作りたがるからねぇ。だから君たちもここにいるんでしょ?」
「「「………………」」」
三人とも答えない。答えられるわけがない。
「だから俺は自分を偽って、集団で生きる為に変えられるものは変えるし、使えるものはなんでも使う。自分自身のままで生きることを選んだ君たちとは根本的に考え方が違うんだよ」
おかげで、何をしても何処か息苦しい日々が続いている。それにももう慣れてしまったけど。そんな自分が一番嫌いだった。
ユメちゃんが俺の心を読めなかったのは、自分ですら本心がわからないから。
「どうせなら教えてよ。どうしたらこの笑顔の嘘臭さが無くなるか、さ」
マオの怯えた瞳の奥で、歪んだ笑みを纏った俺の顔が映っていた。