『慈悲も、自由も、与えぬ』(続き)
「お前は……どうして、そんなに無防備なのだ」
無惨の声は低く、吐息がすぐ耳元にかかるほど近かった。
背後から迫るその存在に、全身の神経が痺れるように緊張する。
「私のものになったのなら、その首も、身体も……すべて、私の許可なく晒すべきではない」
ふわり、と冷たい指があなたの髪をかき上げる。
露わになったうなじに、息が触れ――
「っ……!」
――次の瞬間、濡れた舌が、ゆっくりと首筋を這った。
ざらり、とした感触。
冷たさと熱が同時に押し寄せ、全身にぞくりとした震えが走る。
「この脈動……美しい」
無惨は恍惚とした声で囁く。
「心臓の鼓動まで、私には手に取るように分かる。君が怯え、興奮しているのが……可愛らしい」
舌先は今度、首の脈打つ部分をなぞる。
ゆっくり、じっくりと味わうように。
「やめて……ください……」
かすれた声でそう告げても、無惨は楽しげに笑うだけだった。
「やめる理由がない。お前が私のものだという証を、もっと深く刻まなければ……」
噛むような強さで唇が肌に触れる。
しかし、血は出さない。
あくまで“いたぶる”ような、優しく冷酷なキス。
「他の者に、この肌を見せるな。私以外が触れることなど、許さない」
指が喉元を撫で、顎を軽く持ち上げられる。
目が合った。深い紅の瞳――美しく、残酷で、底なしの渇望を宿している。
「お前は私のもとで、壊れるまで愛される。逃げることも、拒むことも、許さない」
唇が重なる直前、無惨の手があなたの背中を抱く。
そこにあるのは、熱ではなく“支配”という名の檻。
あなたはただ、震えるままその腕に囚われていた。