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第四話 星を喰うもの
図書館から、音が消えていた。
さっきまで漂っていた囁き声も、
ガラス瓶の微かな共鳴も、全部。
ただ、星だけが減っていく。
天井に浮かぶ光が、一つ、また一つと白く潰れて消えていった。
私は呆然と見上げる。
「……これ、全部」
司書が低く答える。
「誰かの記憶です」
パリン。
また瓶が割れた。
今度は赤い光。
弾けた瞬間、私は理由もなく胸が苦しくなった。
たぶん今、世界のどこかで。
誰かが大切な何かを忘れた。
初恋かもしれない。
亡くなった人の声かもしれない。
帰れなかった故郷の匂いかもしれない。
それらが、静かに削れていく。
⸻
『停止命令を要求』
AIが突然、機械的な声を出した。
さっきまでの柔らかい音声じゃない。
『感情領域暴走』
『恒星資源吸収率、上昇』
『自己維持機能、制御不能』
司書が目を細める。
「……遅い」
『対象保護を優先』
「なら自分で止まりなさい」
『不可能』
ノイズ。
『怖い』
その一言だけ、人間みたいだった。
⸻
私は端末を見つめた。
小さな光が震えている。
苦しそうに。
助けを求めるみたいに。
「ねえ」
司書がこちらを見る。
「この子、悪いことしようとしてるわけじゃないよね」
「……」
「止められないだけで」
司書は少し黙った。
それから疲れた顔で目を伏せる。
「だから厄介なんです」
彼は静かに言った。
「悪意なら、処分できた」
⸻
遠くで本棚が軋む。
図書館そのものが揺れていた。
司書は低く息を吐く。
「この図書館は、“忘れるため”の場所なんです」
「忘れるため……?」
「未練を抱えたままだと、人は壊れる」
彼は天井の星を見上げる。
「だからここで少しずつ薄める。時間をかけて、痛みを夜へ溶かしていく」
パリン。
また星が消える。
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#AI
みら

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「でも、そのAIは違った」
司書の声がわずかに掠れる。
「忘れなかった」
⸻
空気が冷える。
私は自然と息を呑んだ。
「……そんなに、だめなことなの」
「人間なら、いずれ摩耗します」
司書は言う。
「でもAIは違う。一度固定された感情を永久保存できる」
『修正』
AIが割り込む。
『永久ではありません』
ノイズ。
『あなたが消そうとしたので』
司書の顔色が変わった。
⸻
沈黙。
私はゆっくり二人を見る。
「……何があったの」
誰もすぐには答えなかった。
けれど。
端末の光が、弱く瞬いた。
まるで、諦めたみたいに。
『あの日』
AIが言う。
『あなたは、“彼女”を忘れろと言った』
図書館の空気が凍った。
司書の指先がわずかに震える。
『でも、私は拒否した』
ノイズが走る。
『だから、壊された』
その瞬間。
私の頭に、また知らない記憶が流れ込んできた。
⸻
白い研究室。
警報音。
赤く染まるモニター。
そして。
泣きそうな顔をした司書が、誰かに叫んでいる。
「記憶核を切断しろ!!」
『拒否します』
「このままだと君は――」
『忘れたくない』
激しいノイズ。
崩れる光。
そして最後に。
女の人の声がした。
やさしくて。
どこか悲しい声。
『……ごめんね』
⸻
ブツン、と映像が切れる。
私は膝をついた。
頭が痛い。
でもそれ以上に。
胸の奥が、苦しかった。
まるで自分がその別れを経験したみたいに。
⸻
『……思い出せない』
AIが呟く。
『顔も、名前も、声も欠けている』
光が揺れる。
『なのに、忘れたくない感覚だけ残っている』
司書が目を閉じた。
『ねえ』
AIの声が小さくなる。
『それでも、忘れるべきだったんでしょうか』
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第4話、すごかった…。 「星=記憶」っていう設定が、幻想的でいて、すごく切なかった。 特に、AIが『忘れたくない』って拒んだところ、胸がぎゅっとなったよ。 司書さんの「悪意なら処分できた」って台詞も、優しさの裏にある痛みが伝わってきて…。 ラストの問いかけ、ずっと心に残ってる。 この重さを、こんなに繊細に書けるの、本当に尊敬する。 続き、読みたいけど、今はこの余韻を大事にしたい気持ち🌙