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⧉▣ FILE_014: 青年期 ▣⧉
人は誰しも、若い頃に一度は「ヤンチャしたい」時期を迎える。
それは反抗期と呼ばれたり、通過儀礼と片づけられたりするが、実際にはもっと曖昧で、もっと突発的な衝動だ。
世界の仕組みが見えはじめ、自分の力の輪郭が掴めてしまったがゆえに──それでもなお、枠の外を確かめずにはいられない時期。
キラ事件の頃のLは、そうした衝動をすでに通り過ぎた後の人間だった。
彼はキラを「幼稚だ」と評し、自らも「幼稚だ」と評した。
自分の立場も、役割も、そして“やってはいけないこと”も、すべて分かっていた。
だが──この後に語られる、欧州バイオテロ事件。
あの事件におけるLは、少し違う。
理性はある。
判断力もある。
だがそこには、わずかな“尖り”があった。
世界を敵に回すことへの躊躇のなさ。名を奪うことを、はっきりと「目的」と呼んでしまう危うさ。
それは反抗期と呼ぶには遅すぎる。しかし成熟と呼ぶには、まだ荒い。
──青年期というやつだ。
何をするにも迷いがない。でもそれは、強さというより──“無知の無敵さ”に近い。
間違える可能性を想定していない。傷つくリスクも、誰かを失う痛みも──最初から“起きない”前提で、すべての計算が組まれている。
言うなれば、“怖いもの知らず”。
けれど、それは“LがLでいられる時間”の、限られた刹那かもしれない。
欧州バイオテロ事件は、Lが世界に挑んだ事件であると同時に、L自身が、“自分という存在の限界を試した事件”でもあった。
そして皮肉なことに──その“ヤンチャ”の矢面に立たされたのが、まだ何者でもなかった、僕だった──
◈◈◈
「……無茶苦茶ですよ、L」
Aは、思わずそう言っていた。
〈そうでしょうか〉
通信越しのLは、相変わらず落ち着いた声。
「だって……エラルド=コイルと、真正面からやり合うんだろう?」
Aは額に手を当て、深く息を吐いた。
「しかも、最初から“折れない相手”だって分かってて」
Lの提示した作戦は、こうだ。
僕がエラルド=コイルと直接通話を行う。
ペンシルベニア免疫反応事件──一見、放射線事故に見えるそれが、単なる“科学事故”で片付けられるものではないと、証拠を突きつけていく。
・まず、放射線では免疫過剰反応──特にアナフィラキシー様の症状は“起こらない”。これは医学的に明確な事実だ。
・次に、死亡者の中には事故当時“研究室に居なかった者”も含まれていた。放射線被曝による死という前提そのものが成立しない。
・加えて、事故発生から最初の死亡報道までに大きな“対応の空白”がある。現場に駆けつけたのは警察でも消防でもなく、“なぜか”FEMA(連邦緊急事態管理庁)──通常なら自然災害やバイオ災害を扱う機関が初動に関与していたという、不自然な動き。
・さらに、死亡者の“死因”があまりにもバラバラだった。呼吸不全、心停止、脳炎、敗血症──そのいずれもが個別に見れば説明可能だが、『共通するのは“免疫系の異常”』という一点のみ。
・そして、何より──“死亡者が多すぎる”。たった一度の事故で、ここまで複数の死者が同時に出るケースなど、前例がない。
それらをエラルド=コイルに突きつけ、“これは完璧な『事件』である”という証拠で殴り飛ばすことができる。
──事実で、揺さぶる。
だが。
「……でも、コイルは依頼人を裏切らない」
Aは、そこをはっきりと言葉にした。
「どれだけ証拠を突きつけても、最終的には“事故だ”って言い張りますよ。だって、それが仕事なんでしょう?」
〈ええ。その通りです〉
Lは、あっさり肯定した。
Aは思わず目を見開いた。
「……分かってて、やるんですか?」
〈分かっているから、やるんです〉
「……」
結果がどう転んでも構わないようだ。
〈エラルド=コイルは、最終的には必ず“事故”を通します。それは依頼人への忠誠であり、彼自身の矜持でもある。ですから──彼が言い訳に窮し、追い詰められた“その先”が重要なんです〉
「……その先?」
〈ええ。“事故として処理する”こと自体は、私は最終的に容認します〉
「ええっ……?」
〈ただし、その代わり──〉
Lは、ほんの一瞬だけ間を置いた。
〈“犯人が誰なのか”を探すことに、協力してもらいます〉
「………………」
Aは、完全に頭を抱えた。
「……それが、目的ですか?」
〈はい〉
Lははっきりと答える。
Aは額を押さえ、頭を軽く振った。
「回りくどすぎますよ……っ!」
思わず声が裏返る。
「だったら最初から“犯人を見つけてくれ”って頼めばいいじゃないですか。いちいち“事故か事件か”でぶつかって──折れさせて──その条件で協力を引き出すとか……どんだけ面倒なルート通るんですか……!」
Lは、少しだけ言葉を選ぶように、わずかな間を置いた。
〈……私が、コイルに“金を払って依頼”する。──それは、負けを認めることになります〉
「……負け?」
〈ええ。──“事故”として押し通すのは構いません。けれど、その土俵で彼に勝ち、その上で“協力”させる。それが、私にとっての勝利です〉
その言葉には、Lらしい──負けず嫌いが滲んでいた。
「……『探偵同士の、勝ち負け』……ってことですか?」
〈ええ。くだらないと言われれば、それまでですが、今回は私自身の“防衛”のためでもあります〉
「……そうは言ったって!」
Aは、思わず床を叩きそうになるのを堪えた。
声が、少しだけ荒れる。
「実際に交渉するのは僕でしょう? 奴に殴られるのは、僕じゃないですか」
〈ええ〉
Lは、あっさり認めた。
(そこ、即答かよ……)
Aは天井を仰いだ。
深呼吸をひとつ。
それでも、言わずにはいられなかった。
「コイルは、“Lと対等に渡り合える探偵”。そんな相手に、半端な立場の僕が立ち向かったって……勝てるわけありませんよ」
〈いえ。──“負けるわけがありません”〉
Lは即答した。
迷いも、含みもない。そこには──絶対の確信だけがあった。
「っ……」
Aは、一瞬、言葉を失った。
その自信に呆れるよりも先に、なぜか──少しだけ、息が詰まる。
「……根拠、あるんですか」
問いかけは、反射だった。
〈ええ──〉
画面の向こう、Lは一拍の間も置かず、淡々と、しかし確信に満ちてこう、答える。
〈あなたが私の──“切り札”だからです〉