ショックだった。
あんなにも透子にオレの気持ちを必死に伝えてきたつもりだったのに。
確かに始まりは透子にとっては、冗談みたいな軽い流れだと感じたのかもしれないけど。
オレにとっては、ようやくつかんだチャンスだった。
オレはいつだって透子に本気で、ずっと透子だけしか見てきてないのに。
少しはオレの気持ち届いてるんだと思ってた。
透子もそんなオレの気持ち受け止めてくれてたんだと思ってた。
「そんな風に思ってたんだ・・。透子にまだ全然オレの気持ち伝わってなかったってことか・・・」
あれ以上どうすればよかったのだろう。
オレにとってはずっと憧れだった透子にここまで近づけたこと自体奇跡みたいなことだったのに。
決してオレほど好きになってほしいなんて思ってない。
オレの透子への気持ちは言葉に出来ないほど大きくて、透子にはきっと重すぎるくらいだから。
だけど、やっぱり少しずつオレのことを好きになってほしい。
他の男じゃなくオレだけをみてほしい。
ただオレのそばにいてほしい。
だけど、そんな想いも虚しく透子にはまだまだ届かない。
それどころかオレのことを信じてさえももらえてない。
「透子はオレのこと今は信じられないってことだよね・・・?」
だけど、そんな風に透子が言うってことは、オレが他の女性といたことも嫌だったってことだよね?
全然興味がないわけじゃないんだよね?
「わかんない・・・」
だけど、透子は不安そうにそんな風に呟く。
何をどう信じてもらえばいいんだろう。
今取り組んでることは透子にはまだ伝えることも出来ないし、栞だっていとこだと証明するしかないのだけど。
でも、今の透子には何を言ったところで、多分不安を拭えない限りは信じてはもらえない気がする。
「わかった・・・」
だから、とりあえず一言そう呟く。
もう今はこれ以上きっと話が進まない。
まずは透子には時間が必要。
オレを信じてもらうための、好きになってもらうための時間。
「少し時間ちょうだい」
そしてオレもこれ以上まだ今の状況では透子を安心させて信じさせることは出来ないから。
時が来ればちゃんと説明する。
ちゃんと納得させるから。
「・・・え?」
「多分今すぐは透子もオレが何言っても信じられないだろうから」
今はオレも透子も現実と向き合おう。
「だから透子も少し落ち着いて考えてみて。オレの存在」
オレは、今までもこれからもずっと透子への気持ちは変わらないから。
今はゆっくりオレの存在が透子にとってどういう存在か考えてほしい。
「ちゃんとその時が来たら、きっと信じさせてみせるから」
「その時って・・・?」
「その時が来たらわかるよ。それまで無理せずゆっくり考えて」
ごめん透子。
今はこれ以上何も言えない。
だけど、これは透子にとってもオレにとっても必要な時間だから。
オレにとって透子とこれからも一緒にいられるための、大切な時間なんだ。
「意味わかんない・・・」
そりゃそうなるよね。
必要なことも言えないで信じてほしいなんて都合よすぎるよな。
だけどオレの方が不安なんだよ?
こんなこと言ってるけど、ホントは透子と時間を置く間に、透子がオレをちゃんと好きになる前に、そのまま離れていくんじゃないかって。
ホントはずっと繋ぎ止めておきたい。
オレとずっと一緒にいてほしい、そう伝えたい。
オレほど透子はオレを必要としてなくて、いざ距離を置いたら、あっさりまた遠くに行っちゃうんじゃないかって怖くなる。
ようやくつかまえられたのに。
ようやく好きになってもらえるかもしれないのに。
「だからその時までオレは透子から離れることはないから。そして、きっと透子もオレからきっと離れないから」
そう。これは今のオレの願い。
オレはずっと透子から離れない。
だから透子も離れないでいて。
「何それ・・」
どんな反応だっていい。
オレから離れなければ。
「だけど・・・」
言いたくないけど、今は伝えるしかない。
「・・・それまでオレたちのこの関係一旦距離置こう」
ごめんな、透子。
自由にしてやれなくて。
どうやったって、オレは透子を手放すことは出来ないんだ。
時間も距離も今は必要だけれど、だけどオレとは繋がっていてほしい。
他の男の元にはいかないでほしい。
だからオレも透子を信じるしかない。
きっとオレの元に戻って来てくれるって。
その来るべき時が来ればきっとわかってもらえるって信じてるから。
「わかった・・・」
だけど、透子も離れるとは言わなかった。
別れたいとも言わなかった。
「気持ち落ち着いたらまた連絡して」
透子がオレを信じてくれればオレはいつだって透子を受け入れる。
透子がオレを必要としてくれるまで、オレは待ってるから。
「プロジェクトはオレで出来る分は進めとくから。そっちもそっちで進められる分は進めといて」
「わかった・・・」
だから今は仕事で会うことも一旦中断。
お互いの場所でそれぞれ進めよう。
透子にそんなツラそうな顔これ以上させたくない。
オレといてツラいなら、オレは無理強いしない。
「じゃあごめん。仕事中呼び出して」
「・・・じゃあまた」
「また」
あっけなく終わった二人での時間。
やっぱり透子はオレの気持ちを疑っていた。
何も心配することないのに。
だけど、そこでこの関係を終わらせたいって言わなかったってことは、少しでもオレに気持ちを持ってくれているから・・だよね?
少しでもまだオレと関係を続けたいって思ってくれてるってことだよね?
気持ちを確かめ合ったはずなのに、オレの気持ちが大きすぎて、透子の気持ちに自信がなくて。
だけどどうしても手放したくなくて。
そっか。
今の関係も試しで付き合ってるみたいなもんか。
オレは必死に透子を本気にさせたくて頑張ってはいるけど、透子が好きになってくれなかったらそれで終了。
だけど。
それ以上に、好きな人に信じてもらえないのがツラい。
好きな人を信じさせることが出来ないオレが情けない。
好きな気持ちがあればなんとかなると思ってた。
だけど誰より大切な相手だからこそ、信じてほしくて、だけど不安にもさせたくなくて、どうしていいかわからなくなる。
ようやく愛しい人に手が届いたと思ったら、また静かにその人はオレから離れようとしている。
もっとオレを好きにさせることが出来ていれば、透子のそんな不安も吹き飛ばせたかもしれないのに。
ただオレを信じて、と伝えたら、信じて待っていてくれたかもしれないのに。
だけど今のオレは、透子をそれだけ好きにさせている自信もなくて、信じて待っていてほしい、とさえも言えない。
こんなんじゃあの頃と全然変わんないだろ・・・。
透子と出会って変われたと思ってたのに、好きな人を信じさせることも出来ない。
黙ってついてこい、なんて偉そうなことも当然言えない。
ただ中途半端なだけ。
だけど、今は信じて待つしかない。
透子がオレを信じてくれるようになるまで。
それまでオレは、今度こそ何があっても透子に信じてもらえるように、透子を守れるように、今目の前のことを成功させるしかない。
それがいつかきっと、透子への想いの証明になるはずだから。