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ちろりーぬ
164
なーさん。です
200
⚠原作にはない行事が出てきます。
⚠内容にご注意ください。
誘拐事件
「それは災難だったねえ」
昨日の話を聞いて、兎田が眉をひそめた。
『でも狼谷くんが相手の腕を掴んで阻止してくれて、鹿島くんが店長と警察の人を呼んでくれてほんとに助かりました 』
「エマちゃんが無事で何よりだよ。…いやあ、しっかし…、ストーカーとかほんとにあるんだよねえ。怖いね」
「オバケより生きてる人間がいちばん怖いだなって改めて思いました」
兎田と一緒にエプロンシアターを作っていた咲茉が眉を下げて笑った。
「竜ちゃんも隼もやるねえ。エマちゃんのヒーローじゃん」
「そうだじょ!おでのあにぎかっけーんだ!」
「う!にちゃも」
『ほんとに。いい友達に恵まれて私は幸せ者です』
自分の兄を褒められて、鷹や虎太郎も得意げだ。
「おうじちゃまみたいでしゅ!」
「んー、俺個人的には竜ちゃんは王子様のイメージあるけど、隼は騎士(ナイト)様って感じがしっくり来るかなあ」
『どっちでも2人が私を助けてくれたのには変わりないですよ。ほんとに嬉しかった』
「…だってさ。いいことしたねえ、2人とも」
「えへへ…」
「うるせえ。茶化すな」
兎田や咲茉のやりとりを聞いていた竜一と隼が少しだけ顔を赤くした。
咲茉が森ノ宮邸に滞在して1ヶ月と少し経った。あれ以来、ストーカーの男が店に来ることもなく、咲茉のバイト先は平和だそうだ。
「ほんとにもう帰って大丈夫かい?」
『はい。お世話になりました!』
冬休み中、咲茉は森ノ宮邸でクリスマスや年末年始も竜一や虎太郎、そこに遊びに来た保育ルームの仲間たちと楽しく過ごしていた。
そろそろ3学期が始まるので、それに合わせて自宅に戻ることにしたのだ。
『理事長先生が快く私を受け入れてくださって、とっても嬉しかったです。ありがとうございました。犀川さんも美味しいごはんや郵便物のチェックやバイト先に迎えに来ていただいたり、本当にお世話になりました』
「あたしもあんたが来てくれて楽しかったよ」
「結城様の優しさにこちらも大変元気をもらっておりました」
咲茉が目を潤ませた。
『鹿島くんも、虎太郎くんも、ほんとにありがとう。相談した時に真っ先に力になってくれてすっごく嬉しかった。ここのお家でお世話になってる間、あったかくて毎日がとっても幸せだったよ』
頬に零れた涙を拭う咲茉を見て、竜一もつられて泣きそうになる。
「半ば強引に誘っちゃったけど、そう思ってくれてよかった!また学校で会おうね 」
「何かあったらいつでも遠慮なくおいで」
「私たちはどんな時も結城様を歓迎いたします」
『ありがとうございます!本当にお世話になりました』
深々と一礼して、咲茉は荷物と一緒に犀川の車に乗り込んだのだった。
3学期が始まって少し経った。近頃は曇りや雪続きでお天道様の光が恋しい。
マンションを出て、学校に向かう咲茉。今日も朝から子どもたちに会うのをとても楽しみにしていた。来週からは、校内バレンタインコンサートの練習が本格的に始まるので今週いっぱいはずっとベビーシッター部のほうに顔を出すつもりでいた。
冷たい空気が肺に満ちていく。寒いのは苦手だが、この澄んだ冬の空気は好きだ。心が浄化されていく気がする。
咲茉が家を出て5分程歩いたところで、何者かに後ろから羽交い締めにされた。
『!?』
数年前に習っていた合気道の、後ろから何かされた時に役立つ技を使おうとしたその時、頭に強い衝撃が走った。
『うっ…!』
そのまま、咲茉は気を失ってしまった。
「狼谷、鹿島。ちょっといいか」
2限目の後の休み時間。B組の担任が2人を呼び出した。廊下に出ると、B組の担任が声を潜めてたずねてきた。
「結城が学校に来てなくてな。B組の生徒誰も彼女の欠席や遅刻の連絡を受けてなくて。お前たち、何か聞いてないか?」
「え、結城さんが?」
「何も聞いてないっす」
「そうか……。電話も繋がらなくてな。ただの寝坊とかならいいんだが、家で倒れてたりしないかと心配で」
『結城さん、今日は朝の保育ルームに来てなくて。俺、てっきり吹奏楽部の朝練とかに出てるんだと思ってました…』
担任の話を聞いて、竜一が青ざめる。
隼は嫌な胸騒ぎがした。一瞬、咲茉をストーキングしていたあの男の存在が頭をよぎる。
「そうか、分かった。悪かったな、急に呼び出して。もし結城から何か連絡が来たら、すぐ教えてほしい」
「「はい」」
すぐさまベビーシッター部の3人のグループトークルームに咲茉へのメッセージを送る。昼休みや放課後に電話も掛けてみたが、既読マークもつかなければ電話も繋がらなかった。
そのまま、次の日を迎えた。あれから2人は何度もトークルームを確認したが、咲茉からの返信も折り返しの電話も、既読マークがつくこともとうとうなかった。
結城咲茉と連絡が取れないまま日付が変わった為、ついに警察が動き出した。教師たちやB組の生徒にも不安が拡がる。
マンションの大家に事情を話し、合い鍵で彼女の部屋を捜索したが、そこには誰もいなかった。部屋の中が荒らされた形跡もなく、ベッドはきちんとメイキングされ、帰宅時間に合わせてタイマーをかけられていたのであろう洗濯機は、中で洗濯物が固まったままになっていた。
そして、保育ルームスタッフの兎田にも咲茉のことをたずねられた。少し考えて、兎田は咲茉が迷惑を被っていたストーカーのことを思い出し、狼谷隼と鹿島竜一がその人物の顔を見ているという情報を伝えた。
2人が警察に呼ばれて話をする。あの男を逮捕した警察官だけではないので、今回捜索をしている警察官にも詳しい状況を説明する必要があった。
咲茉の通学路に設置された防犯カメラの映像を確認していた警察官から連絡があり、すぐにそこに映った人物を見に行くことになった竜一と隼。
森ノ宮学園の制服を来た少女が、後ろから接近した男に羽交い締めにされ、頭を殴られた。少女は紛れもなく結城咲茉。そして、周囲を確認するかのように見渡した際に映った男の顔は、あの時のストーカーのそれそのものだった。大胆にもマスクもせず顔が露わになっていた。男は崩れ落ちた咲茉を担ぎ、近くに停めていた車のトランクに押し込んでその場から逃走した。
すぐさま咲茉とストーカー男の捜索が始まった。先日の騒ぎがあった為、男の身元もすぐに分かった。
灰色の雲に覆われた空から雪が降り始めた。
防犯カメラの映像の確認に協力した竜一と隼は、その後授業に戻るよう言われたが、2人とも気が気でなくて授業どころではない。
時間を追うごとに、気温が下がり雪は強くなっていく。
放課後、子どもたちの世話を兎田に任せて(押し付けたと言ったほうが正しいかもしれない)、ベビーシッター部の2人も咲茉を探し始めた。
コートに身を包み、マフラーでマチ子巻きしてカイロを握って笑う咲茉の顔が浮かんでは消えた。それと同時に最悪の事態も頭をよぎる。
寒い。ここはどこ?目隠しされてて何も見えない。叫ぼうにも口には布を噛ませてあって助けを呼べない。
寒い。寒い。頭が痛い。多分、殴られたんだと思う。
身体を縛られていて動けない。
寒い。身体が震える。マフラーも手袋もコートも脱がされているみたい。辛うじて制服は着てる気がするけど、多分、この感じはブレザーも脱がされている。
手が悴む。足先もジンジン痛む。寒い。寒い。
「エマちゃああん。これでずーっと一緒だからね♡」
そう耳元で囁いたあの声は、間違いなくあの男の人だった。
気持ち悪い。耳元で喋らないで。馴れ馴れしく名前を呼ばないで。
どのくらい時間が経ったんだろう?今何時なの?昼なのか夜なのかも分からない。ただただ寒い。怖い。
身体の震えが止まらない。手足の感覚ももうなくなってきた。このまま私、死ぬのかな。だってね。なんだかものすごく…、眠たくなってきちゃったの……。
お父さん、お母さん。こんなに早く2人のところに行くことになった娘をどうか許してください……。
『!?』
「結城!!」
「結城さん!!」
意識が遠退いていく中、大きな物音で現実に引き戻される。そして、耳に届いたよく知る2人の声。パトカーのサイレンの音も近くで聞こえる。けれどまた意識を失いそうになってしまう。
「いない…!」
「くそっ!どこだ!倉庫ってここのことだろ!」
「うん!間違いないと思う!どこかに閉じ込められてるんだよきっと!」
必死に咲茉を探す隼と竜一。倉庫の中は外よりまた一段と寒かった。
無造作に置かれた大きな箱を1つひとつ開けて中を確認していく。
「狼谷!来て!この箱だけ蓋が重くて1人じゃ開けられない!」
「分かった!…いくぞ!」
「せーのっ!」
2人で蓋を開けた。中には目隠しをされ布を噛まされ、身体をロープで縛られた咲茉の姿。制服のブラウスにスカート、足元は裸足だった。
「いた!結城さん!!」
「結城!!」
『…ぅ……』
2人の声に、目隠しと口に噛ませられた布を取られた咲茉がゆっくりと目を開けた。そしてまたすぐに目を閉じてしまう。
「生きてる!俺警察の人呼んでくるから!」
「頼む!」
竜一が走り出した。
「結城!結城!しっかりしろ!」
『……ぁ…、かみたにくん……』
「今これ解いてやるから!しっかりしろ!」
ポケットから美術の授業で使っていたカッターナイフを取り出し、咲茉の身体に巻き付いたロープを切ってやる。ブラウスやスカート、太腿にはくっきりとロープの後が残っていた。
ぐったりとした咲茉を抱き起こす隼。
『かみたにくん…、ありがとう……』
「結城…!」
ぼんやりとした表情で自分を呼ぶ咲茉を、隼は思わずぎゅっと抱き締めた。その身体は触れたこちらが飛び上がる程冷たくなっていた。
『……わあ…、かみたにくん…、あったかい……』
溜め息混じりに呟く咲茉。隼は咲茉を抱き締める腕に更に力を込めた。
「こっちです!こっちにいました!」
バタバタと騒がしい足音と共に、竜一と警察官が走って来た。ストレッチャーを押した救急隊員も一緒だ。
そこには隼のコートを着せられた咲茉がいた。
「一応確認だけど、名前言える?」
『……ゆうき…えま…です…』
寒さで身体と声を震わせながら咲茉が答える。
そのまま咲茉は救急車で病院に搬送された。竜一と隼も救急車に乗って付き添った。身体を温めてもらいながら、ゆっくりと事情聴取を受ける。
検査の結果、低体温症と凍傷という診断だけで、幸い命に別状はなかった。警察から学園やバイト先、大家に連絡が入り、竜一と隼も自分たちの家族や兎田に咲茉発見の連絡を入れた。
犯人の男は咲茉への接触禁止令が出ていたが、彼女への行き過ぎた想いを抑えきれず、自分のものにする機会をずっと伺っていたらしい。咲茉を誘拐し、彼女を寒い倉庫の中に閉じ込め、凍死させるつもりだったという。この季節だ。そうすれば腐らず美しい姿のままの咲茉と一緒にいられると考えての犯行だったそうだ。
ストーキングの件で住所も職場も特定されていた為すぐに警察に見つかり、渋々咲茉の居場所を白状したという。
『狼谷くん、鹿島くん。助けてくれてほんとにありがとう』
脱水も起こしていた為、病室のベッドで点滴に繋がれ毛布に包まれた咲茉が隼と竜一に向かって感謝を伝える。
「とにかく、命があってよかった」
「うん、ほんとに。…っ…ごめん、正直、最悪の事態も想像しちゃって、すごく怖かった……」
竜一が服の袖で顔を覆う。
『わたしも…、もう死ぬかもしれないって思ったよ』
眉をハの字に下げて、咲茉が小さく笑った。口に噛まされた布が強い力で引っ張られていたようで、口角に血が滲んでいて痛々しかった。
「こんな慌てたことねえ」
「うん、俺も」
『ごめんね。ありがとう。2人とも、大好き』
「「!」」
不意の“大好き”に固まる2人。そして交代で咲茉の頭をそっと撫でた。寒さで真っ白な顔をしていた咲茉の頬には、ほんのりと赤みが戻ってきていた。
念の為、咲茉はひと晩病院に泊まることになった。竜一と隼は犀川が迎えに来てくれ、隼を自宅に送り届けてから竜一も森ノ宮邸に戻ったのだった。
つづく
コメント
1件
ええええええ!!😭💦 咲茉ちゃん誘拐されちゃったのか…もう心臓バクバクしたよ!!隼くんと竜一くんが駆けつけるシーン、かっこよすぎて泣きそうになった😢✨ 「大好き」って言った咲茉ちゃんに2人が固まるのも尊すぎる…!!無事で本当によかった、続き気になるー!!📖💕