テラーノベル
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沢城愛華は地縛霊だ。 小学五年生の時、公園の傍らの横断歩道で、車に跳ねられたのだ。
以来、もう三年も公園の入り口付近に佇んでいる。
公園に入ることも、横断歩道を渡ることもできない。
動けるのは僅かな範囲だけだ。
母とその再婚相手は、愛華を愛してはいなかった。
再婚相手は愛華に暴力を振るい、母はそれを黙って見ていた。
学校にも友達はおらず、事故現場に花やお菓子を持ってきてくれる人も居なかった。
寂しい人生だった。
母方の祖母や、うんと小さい頃に飼っていた柴犬のサスケのことは好きだった。
けれども、どちらもとっくに死んでしまった。
少し前から、夜の公園はガラの悪い若者達の溜まり場となっていた。
年は十代前半から二十代前半といったところ。
数は、大抵五、六人だ。
彼らは時折やって来ては、敷地内をバイクで走ったり、酒を飲んで騒いだり、タバコをポイ捨てしたり、呼び出した相手を殴ったり、女の人にしたひどいことを自慢し合ったりしていた。
ある晩のことだ。
愛華が地面に蹲っていると、隣から朗らかな女の人の声が聞こえた。
「こんばんは、よい夜ですね」
そこには、先程まではなかったはずの真っ黒な自販機があった。
「私が見えるの?」
「はい。何か買いませんか、お嬢さん」
愛華は商品を眺めた。
「なんか、変なのしかないよ」
「申し訳ありません。ちなみに、どのようなものがお好みですか?」
「オレンジジュース。でも私はお金が無いし、買えても味なんてわかんないんだけど」
寂しそうに呟く愛華に、自販機が尋ねる。
「姿を現したりはできないんですか?」
「ダメ。誰も気づいてくれない」
「なるほど。霊感がなくとも、意識が朦朧としている人間には霊が見えることもあるとは聞きますが——では、暇つぶしにお話でもしましょうか」
愛華は、これまでのことを自販機に話した。
自販機は聞き上手で、愛華はすぐに自販機が好きになった。
話が一段落した時——遠くから騒音が近づいてきた。
「あれが例の?」
「……あの人達、嫌い」
俯く愛華の前に、六台のバイクが止まった。
「おい、いつの間に自販機できてんじゃん!」
「つーか、知らねー飲みもんばっかなんだけど」
若者達に、自販機は言った。
「そこの金髪の方——顔色がすぐれませんが、不摂生がたたっていませんか?」
「は?俺?」
金髪の男が目を丸くし、周囲の者達も、
「おー、すげー」「AIだ、AI」
と興奮した声をあげた。
「『ブラッディ・ポタージュ』は如何です?キャッチコピーは『鉄分、カルシウム、快楽不足に』。キャンペーン中ですので、無料で一本プレゼント致します」
ガコン、と缶が取り出し口に落ちる音。
「マジかよ。なんか当たったわ」
金髪の男は、真っ赤な広口の缶を手に取った。
上部のキャップを回し、飲み口に口をつける。
「——うげええっ!?何だこれ!?」
男が吐き出したのは、ドロドロの赤い液体だった。
ところどころ、白い粒が混じっている。
若者達が、うわっと声をあげた。
——それは、人間の歯だった。
「おっと、申し訳ありません。そちらは人外の方専用でした」
愛華は、驚いて自販機を見た。
おそらく、自分が彼らを「嫌い」と言ったからこんなことをしたのだろう。
しかし、それがまずかった。
「ざっけんじゃねえぞ!」
若者達は一斉に、自販機を蹴ったり叩いたりし始めた。
「ねえ、やめてよ!」
いくら叫んでも、愛華の声は彼らに届かない。
リユ
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#ダークファンタジー
阿炎快空
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阿炎快空
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「大丈夫、心配しないでください」
愛華を安心させようと、変わらぬ口調で自販機が言う。
それがますます、若者達を逆上させた。
「おい、いいもんあったぜ!」
誰かが、公園に放置してあった金属バットを持ってきた。
金髪の男はバットで、力の限りに自販機を殴り続けた。
——数分後。
自販機はアクリルの窓が派手に割られ、あちこちが破壊されて内部の機械が飛び出していた。
「へっ、ざまあみろ」
若者達がその場を後にしようとしたその時だった。
ガコン、ガコン、ガコン、ガコン、ガコン、ガコン、ガコン、ガコン——……
壊れたせいだろうか。
取り出し口を埋め尽くすかのように、沢山の缶が落ちてきた。
どれもその辺で売っている市販品だ。
「んだよ、普通のもあるんじゃん」
「あ、俺、これ好き」
気が付けば——彼らは缶を手に取っていた。
何故だか、無性に喉が渇いていた。
各々が缶を煽る。
美味い。
想像通りの味だ。
だが——
「ぐうっ……!?」
彼らは、突然苦しみだした。
地面に倒れ、口から泡を吹き、喉を掻きむしる。
金髪の男は、必死にスマホを取り出した。
震える指で救急車を呼ぼうとしたその時——目の前に、誰かが立っているのに気づいた。
見上げるとそこには、首がおかしな方向に捻じれた、血塗れの少女の姿があった。
あまりの恐怖に、男の意識はそこで途絶えた。
暫くして、小型トラックで自販機業者がやって来た。
黒い作業服に黒いキャップ帽という出で立ちの男性二人組だ。
一人は二十代くらい、もう一人は四十代くらいだった。
普通の人間ではないらしく、彼らも愛華のことを認識することができた。
どうやら、若い方が先輩らしい。
「自販機さん、直る?」
「ああ、問題ないよ」
先輩はしゃがんで愛華に目線を合わせ、にっこり微笑んだ。
その間も、後輩はせっせと若者達を荷台へ詰め込んでいた。
「あー、あー、缶をこんなに……え?何だって?」
先輩は取り出し口に耳を寄せると、うんうんと頷き、一本の缶を手に取った。
市販のオレンジジュースだった。
先輩は、その缶を愛華の前に置くと、
「『成分のことは一旦忘れてくれ』ってさ。あと、味は本物と変わらないらしい」
そう言って、そっと両手を合わせた。
「……だから、味はわかんないんだって」
くすりと笑う愛華の体が、光に包まれる。
ああ、これで、お婆ちゃんやサスケのところに行ける。
自販機に感謝しながら、愛華は目を瞑った。
「実際どうなんですか、その自販機?」
後輩の問いに、先輩は頭を掻きつつ、
「あの子が成仏したの見届けたら、途端にコロッと逝っちまったよ。ガワは直せても、中身が空じゃなあ」
と溜息をついた。
「まあ、この子ももう長いこと稼働してたしなあ——で、そっちは?」
「六人中、二人はまだ息がありますね」
「しぶてえな。どうせ全員ポタージュにされちまうのに。てか、お前も危ないとこだったよな。一歩間違えれば、そいつらと同じ運命だったんだから」
「アハハ、昔の話はやめてくださいよ。研修のおかげで、俺はすっかり生まれ変わったんですから」
そう言って満面の笑みを浮かべる後輩の右手は、人差し指が欠損していた。
コメント
1件
うわ、この話、すごく切なくて好き……。地縛霊の愛華ちゃんが自販機と話すシーン、ほっこりしたのに、その後がもう。若者たちに自販機が壊されるところは胸が痛かったけど、最後にちゃんと成仏できてよかった。オレンジジュースの缶、涙出た。阿炎さんの描く“闇”の優しさが沁みます🌙