テラーノベル
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レンコン 煮付け
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翌日、竜馬は文也を社長室に呼びつけた
「なぁに~?竜ちゃん僕に用事って?」
竜馬は社長椅子に座って長い脚を組んで投げ出し、窓の外を見ていたが、文也が入ってきたらくるっと振り向いた
「ええ?どうしたの?竜ちゃんその顔!」
竜馬の顎には大きな絆創膏が貼られていた、先日ジェニを抱えてアスファルトをスライディングした時についたものだ、その他にも手の甲や、あちこちに擦り傷が出来ている、でもそんなことお構いなしに竜馬は文也に言った
「文也・・・頼みがあるんだ」
.:・.。. .。.:・
「ただいま戻りましたぁ~~~♪」
ジェニが外回りから帰ると、何だかオフィスが騒がしい
「あ!ジェニ~!早く来てきて~~」
藤子と真希・・・それに文也君もいる、なんだろうとみんなが集まっている所に行ってみると
キャー――!!「ブルーシールアイスクリームー(はぁと)」
「たった今文也君が差し入れしてくれたのよぉ~♪」
藤子が嬉しそうに言った、二つに引っ付けたデスクにはさまざまな種類のカップに入ったブルーシールズのカップアイスが並べてあった、青い保温バッグにはまだ大量のアイスが入っている
「え・・・っとぉ~たまたまお得意先に行くとぉ~・・・新しくできたらしくて・・・たまたま人が少なくてぇ~・・たまたまぁ~」
自分が頼んだとは絶対に言うなと竜馬に釘を刺されている文也が考えた、わざとらしい言い訳など、誰も聞きもせず、神崎の社員が鈴なりになってギャーギャー取り合って喧嘩している
「美味しぃ~~~~塩ちんすこぅ~~~~(はぁと)」
ジェニはスプーンに山盛りすくって口の中にいれると、あまりも美味しくて涙が出そうだった
「う~~~んシークワーサァー♪」
「紅いもぉ~~~♪」
みんなそれぞれアイスの美味しさに舌鼓を打っている、真希が紅芋を食べながらジェニに言う
「よかったですね!ジェニさん昨日食べそこなったんでしょ?」
「そうなの!ちょっとした事故にあってね~」
真希が椅子を持ってきて、ジェニの横に座ってアイスの蓋を開けた
「え~?大丈夫?」
藤子が初耳だというように驚いた
「まぁ・・・私が悪いんだけどね」
ジェニがぼそりと言う
「ジェニさんったら、アイスを食べるのに夢中で、ついうっかり信号無視して車に牽かれそうになったんですよ」
「でも本当に無事でよかったわぁ~、助けて頂いた人に感謝ね!」
「でも通りすがりの人で、誰かわからなかったんでしょ?」
「うん・・・でも大声で怒鳴られちゃったから、きっと嫌なヤツよ・・・」
「そんな!助けて頂いたのにぃ~??」
真希が目を剥いたが、すぐに落ち着きを取り戻した
「お礼を言おうと思ったら、すぐいなくなっちゃったのよ」
「どんな人だった?」
文也が前のめりで口を挟んだ
「あんまりよく覚えてないの、黒のライダーズジャケットに、紫のパーカーのフードをかぶってたし、サングラスをしてたから顔がわかんないの」
ジェニが肩をすくめて言う
「ふ~~~ん・・・・」
文也がにニヤげるのを我慢して言った、まるで全て理解したとでも言うように
.:・.。. .。.:・
最近になって気が付いたことがあった、竜馬の笑いのツボはどうやらジェニだということだ
そして、彼女の笑顔がとても好きな事にも気が付いた、なぜなら彼女が笑うと太陽のように人に伝染していく、21階の元神崎広告代理店のオフィスでは、彼女はいつでもよく笑っている
悔しいが竜馬以外の人間には彼女はとても愛想が良い、あの文也でさえ彼女とはとても仲良さそうにしている、ここでの環境は彼女のリーダーシップがすこぶる発揮され、そして社員全員がジェニを信頼し、支えようとしているのが良く伝わってくる、当然だろう、この会社を引っ張っているのは彼女なのだから
竜馬は驚きながらも、すでにそれをもうハッキリ認めていた
.:・.。. .。.:・
「私に言えることは、ジェニさんは神崎広告代理店の社員を心から愛していて、家族そのものだと思っているということです。その思いが強すぎて時々暴走するんですけどね」
「なぜ僕にそんなことを?」
真希の向かいのデスクに座り、なぜかお茶をごちそうになっている竜馬が聞いた、しかたがなかったのだ、神崎の財務報告書の3ページ目の裏に、小さくキティちゃんの落書きを見つけたので、きっとジェニだろうとひとこと文句を言ってやろうと21階に降りてきたら
ジェニどころかオフィスには誰もいなく、目の前にいる宗一郎の嫁さんだけが一人黙々と作業をしていた、そしてジェニがいないので帰ろうとしたら、嫁さんに呼び止められ、お茶に誘われたのだ
宗一郎の嫁だけに、無下に無視するわけにもいかず、竜馬は黙ってお茶を呼ばれることにした
「さぁ・・・直感かもしれませんし、神様が話せとおっしゃっているのかもしれません・・・いずれにしても社長には知っておいて頂きたいと思った私の独り言ですから・・・・お気になさらないでください」
忙しく動画を編集している彼女がマウスを動かしながら言う、宗一郎いわく、彼女は天才WEBデザイナーで、神崎広告代理店の心臓部分だそうだ
「ずいぶん苦労して、君たちはここまで来たんだね・・」
真希が優しい顔で微笑んだ
「ええ・・とても・・・でも、悪の元凶を社長が取り除いてくださったので今はとても感謝しています、私達ではあの役員達をどうすることもできませんでした」
竜馬は出されたモンブランケーキをフォークにひとかけら取って口に入れた
―うまい―
ここに来ると何かしらお菓子がある、そしてどれも凄く旨くて、竜馬の知らないお菓子ばかりだった
「ジェ・・・コホンッ・・・彼女は・・・頭が良いのにどうして大学に行かなかったんだろう」
竜馬は少し後ろめたい気持ちで真希に尋ねた、自分は一郎さんに留学資金を世話してもらったし、長男の豊も大卒だなのでてっきり彼女もそうだと思っていたからだ、真希からはすぐには返事は帰ってこなかった、真希の顔を見ると彼女はぎこちなく微笑んだ
「・・・子供の頃から・・・よく会社に遊びに行っていたと・・・聞いています、ジェニさんにとって会社は家みたいなものだったと」
竜馬は真希を見て唇を噛く結んだが黙ってうなずいた
「誰もいない家に帰るより、ずっと面白かったと言ってました。お父様の社長もいましたし、当時の事務員さんの仕事を手伝って郵便物を仕分ける所から始まって・・・ジェニさんにとって仕事も遊びのうちだったそうです、神崎の社員はとてもジェニさんに優しくてくれたそうですし、空いた机を見つけて会計士が数学の宿題を手伝ってくれたり、パートさんがジェニさんの分までお弁当を作ってくれたり・・・でも・・会社は当時、高校生のジェニさんにもハッキリわかるぐらい経営が悪化していったそうです」
若いのに小さな女の子の母親のWEBデザイナーの彼女は、まるで自分の体の一部みたいにマウスを動かす、その横に宗一郎が子供を抱いている写真を飾られてあった、やはり家族の写真を飾るのは、仕事効率向上に良いのかなと竜馬は思った
「・・・ジェニさんはこうも言ってました、自分なら絶対に役に立てるという自信もあったと・・・だから大学には行かず恩返しのつもりで入社されました。社長が生きていた頃はまだよかったんですが、亡くなってからは役員達が暴走し出したんです」
「一人で会社を引っ張っていこうと思ったら、大変だっただろうね・・・会社に寝泊まりしなければいけないほど・・・」
母親を早くに亡くした少女が、父親の会社に居場所を見つけ、社員を家族代わりにして生きて来たのか・・・たしかに竜馬もアメリカに行って孤独を感じたが、自分にはジャスティンがいた、それに宗一郎やセドリック・・・・ジェニは本当に一人だったんだ・・・
竜馬はジェニの孤独とひたむきさに心を打たれた
「お茶をごちそうさま」
旨いケーキとジェニの昔話に胸がいっぱいになった、竜馬は真希に礼を言っていとまを告げた
「いえいえ・・・こちらこそ、お話しできて嬉しかったです」
「ところでメビウスビルの1階に空き店舗があるのを知っているかい?スターバックスの横の・・・」
突然突拍子もない竜馬の言葉に真希はキョトン・・・となった
「ええ・・・知っています・・・けど・・・それがどうされましたか?」
ガジガジ竜馬は後頭部を掻いた
「そこに保育施設を作ろうと思うんだ、メビウスビルの地下室にみんながグルになって赤ん坊を隠していると、このビルの安全衛生管理課の連中が知ったら、卒倒しかねない」
竜馬がにやりと笑って言った、真希はあっけに取られて口を開けただ目を見開いて竜馬を見つめた
「他にも調べたら、子供をどこに預けるかで悩んでいる女性社員がわが社には沢山いることが判明したんだ、キチンとした保育士を雇ってね、ここなら一緒に出勤してきて休憩時間には遠慮なくお子さんとコミュニケーションが取れるだろうし、お迎えの時間に間に合わせようと慌てなくてもいい、我が社の優秀な女性社員達に思いっきり才能を発揮してもらうためには、生活面でもしっかりサポートさせてもらったほうがいいと思ってね」
「・・・信じられない・・・」
真希が両手で口元を抑え、何も言えなくなっているのを見て竜馬は微笑んだ
「僕は堅物や冷徹と言われているけど、間違いに気づけば改める心を持っているよ、それに我が社に子供はまだまだ増えるだろうしね」
真希が感激で心を震わせ・・・目に涙をいっぱい溜めているのを見たら照れくさくなったのか、竜馬は苦笑いをして肩をすくめエレベーターホールに消えて行った
.:・.。. .。.:・
ジェニは素晴らしい女性に成長したということはもう竜馬も認めざるを得なかった、長いこと求め続けていた宝物入りの小箱を渡された気分だった、離れている時の、二人の間に流れた年月に彼女が何をし、何を思い、どんな人間だったのか、日を追うごとに明かされていった
そして知れば知るほど好きになった、竜馬は本当に彼女の元へ帰ってきてよかったと感じていた、まるで映画の一コマのようだ、そしてまた二人の間で止まっていた時も、竜馬の彼女への熱い思いも再び流れ出した
彼女は憎まれ口を自分に叩くけど、その輝く瞳は自分に興味津々だ、もう嫌われていないのが肌でわかる、機会がなくてまだ彼女に送っていない言葉があまりにも沢山あるし、彼女の口から直接聞きたい言葉がありすぎる・・・
彼女は本当に自分のことをきれいさっぱり忘れてしまっているのだろうか?それとも覚えているけどあの時一緒に過ごした「大きいお兄ちゃん」が僕だとはわかっていないだけなのか・・・
一郎さんは彼女にいったい僕の事をなんて話したのだろう?そして豊は?最後に別れを告げた時には豊は「行くな」と泣いたはずだ、それに最近では、だんだん竜馬も彼女に好意を持っていることに、遠慮は無くなってきていた
それは周囲にもわかるほどに・・・もうバレバレだ
それでもちっともかまわない、竜馬の中に彼女に対する気持ちを隠すことなどこれっぽっちもなかった、最近では言い争いの中にでも、彼女が動揺するほどの誘い文句を入れたりもしている
彼女は焦ったり、動揺すると頬が真っ赤になる、意外にもうぶな彼女は竜馬が迫ると髪の毛が逆立ちしそうになる、それが竜馬を大いに楽しませる
彼女をからかうことは新たな竜馬の趣味になっていた
―そしてスタバ事件―
.:・.。. .。.:・
彼女がカフェラテを持って振り向くと、竜馬のスーツにバッシャーンとぶちまけた
「あ~あ・・・・」
竜馬の言葉に辺り一面がシン・・・となった、腹がアイスカフェオレでとても冷たい、一緒にコーヒーブレイクでもどうですか?と誘った課長達が一斉に青ざめ、わざとではないだろうに、ジェニを全員がすごい目で睨んだ
そして一番ジェニが真っ青になっていた・・・竜馬はすばやくジェニを確認した
―よかった・・・彼女は汚れていないな―
辺りは壮絶としていた、みんなジェニがこの会社のCEOの自分に無礼を働いたと、誰もかれもが彼女を責める目で見ている、彼女は悪くないのに・・・・ほら・・・泣きそうになっているじゃないか
ここは自分が退散したほうがよさそうだと竜馬は思った、クールに決めようと思ったのに、彼女が慌てて追いかけてくる、責任を感じているんだな、必死で自分に言い訳をしてついてくる、彼女がなんだかおかしくなってきた
エレベーターの前でクルリと向きを変え彼女と向き合った
「・・・・本当に悪いと思っているのか?」
「ええ!もちろんです!ですからクリーニング代をお支払いすると・・・」
竜馬はすぐ近くでジェニをじっと見つめた、もう彼女は竜馬が覚えているような可憐な「女の子」ではなくなっていた、大人になり、たおやかに花咲いたジェニ・・・こんな薄いブラウスじゃ胸の形や揺れがハッキリわかるじゃないか、けしからん!
こういう体つきになっていたとはウエストから尻にかけた腰のくびれはたまらない、20年前にも彼女は素敵だと思っていたが、どうやらその後、神は本気を出したようだ
ずいぶん僕だって我慢している、努力して彼女を襲わないように衝動を抑えているのに・・・だけど男の自制心には限界ってものがある
「金はいらない」
くるりとジェニの肩を回して壁に押さえつけた
「え?」
ジェニが怯えた様子で竜馬を見る、この大きな茶色の瞳に小生意気な表情が浮かぶのを見る度、竜馬は原始人のようにジェニを担いで持って帰りたくなる
ドンッと竜馬に壁に手をついて覆いかぶされて、ジェニは途端に形勢逆転になった自分に焦った、肩が広くて全ての視界がこの人で遮られる、まるで世界に二人っきりのよう
「その下唇を噛む癖をやめてくれないか」
竜馬がジェニをのぞき込んで囁いた
「ど・・・どうして?」
「下半身にくる」
竜馬の目に鋭い光が宿り、口角がかすかに上を向いた、ジェニの無垢な質問を楽しんでいる竜馬が、両手でジェニの二の腕を掴んだ、手が触れている所が焼け付くように熱くなっている
竜馬はハーブの爽やかな香りがした、それとカフェラテの香り―
―またキスされる―
咄嗟にそう思ったジェニが肩をすくめてギュッと目をつぶった・・・心臓が飛び出しそうなほど、バクバク言っている
「・・・・・・」
.:・.。. .。.:・
チンッとエレベーターが二人を邪魔するように音を立てて開いた、目を開けると閉まりかけのエレベーターに竜馬が乗っていて、ジェニに中指を立てて舌を出していた
エレベーターは竜馬を乗せたまま閉まり・・・ジェニをその場に置き去りにした
「なっ・・・・なによっ・・・・」
途端に真っ赤になったジェニは、閉じられたエレベーターに向かって地団駄を踏んだ
「なによーーーーーーーっ(怒)」
.:・.。. .。.:・
「あははははっ!あの顔ったら!」
竜馬はカフェオレのついたシャツを脱いで腹を抱えて笑っ、竜馬が楽しそうなのでハナが嬉しがってピョンピョン跳ねながら竜馬の周りを、ワンワン吠えて騒いでいる
ソファーに飛び乗って、裸の竜馬に鼻を擦りつけたかと思うと、また飛び降りて転がって、次にぬいぐるみを咥えてブンブン振り回している
パパが楽しいのなら自分も楽しいと言っているのだ
それでもキスされそこなった間の抜けたジェニの顔を思い出して、竜馬はまたゲラゲラ笑った
ジェニは本当に面白い、大好きだ、彼女への思いはもうどうにもならない、魂が激しく求めているのだから仕方がない
竜馬はとうとうある事に決着をつける時だと考えた
いつまでも先延ばしにはできない、彼女との関係を一歩進めるためにはやらなきゃいけないことだ
コメント
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ああ~今回も最高でしたね!ブルーシールアイスの差し入れ、竜馬がこっそり文也に頼んだってところがもう…ツンデレすぎる(笑)。ジェニが過去に会社に寝泊まりしながら孤独に頑張ってきた話、真希から聞くシーンは胸がぎゅっとなりました。でも保育施設を作ろうって即決した竜馬の優しさに感動。そして最後のスタバの壁ドン寸前の駆け引き…もうニヤニヤが止まらなかったです!次回、ついに何かに決着をつけるっていうのが気になりすぎます!