テラーノベル
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放課後のレッスンスタジオは、まだ少しだけ熱気が残っていた。
鏡に映る自分を見ながら、佐野勇斗は何度目か分からない深呼吸をする。
「……無理だろ、これ」
小さく呟いて、スマホを見る。
トーク画面の一番上には、吉田仁人。
付き合って、一ヶ月。
仕事終わりに一緒に帰ったり、電話したり、隙を見つけては手を繋いだり。
恋人らしいことは少しずつ増えてきた。でも、
ちゃんとしたデートは、まだしていない。
勇斗はベンチに座り込み、頭を抱えた。
「誘うだけだろ!? なんでこんな緊張すんの……」
その時。
「佐野、まだ帰んないの?」
聞き慣れた声に肩が跳ねる。
振り返ると、荷物を持った仁人が立っていた。
「うわっ!? び、びっくりした!」
「なにその反応」
仁人がくすっと笑う。
その笑顔だけで心拍数が上がる自分が悔しい。
「いや、別に……」
「顔赤いけど」
「暑いだけ!」
「へえ」
絶対信じてない顔だった。
仁人は勇斗の隣に座る。
肩が少し触れて、それだけで落ち着かなくなる。
付き合う前はもっと普通に隣にいられた気がするのに。
「今日、珍しく静かだね」
「……そんなことない」
「ある」
仁人はじっと勇斗を見る。
その視線に耐えられず、勇斗は勢いよく立ち上がった。
「よし!」
「うわ、びっくりした」
「……あのさ!」
言った。
ついに言った。
もう後戻りできない。
仁人がぱちぱち瞬きをする。
「……うん?」
「で、デート……しない?」
数秒、沈黙。
勇斗は真顔を装ったまま、内心で大パニックだった。
終わった。
絶対変な誘い方した。
デートしない?って何。
もっとこう、自然に――
「したい」
「……へ?」
「デート。俺もしたいと思ってた」
仁人は少し照れたように笑った。
「……え、マジ?」
「マジ」
「ほんとに?」
「何回聞くの」
勇斗はその場にしゃがみ込んだ。
「よかったぁ……」
「そんな緊張してたの?」
「してたわ!」
仁人が声を上げて笑う。
「だって仁人、断りそうなんだもん」
「なんでだよ」
「忙しいし」
「勇斗との予定なら空ける」
さらっと言われて、勇斗は固まった。
「……そういうこと平気で言うよね」
「え?」
「いや、なんでもない」
耳が熱い。
仁人は絶対、自分がどれだけ破壊力あること
言ってるか分かってない。
「で、どこ行きたい?」
「えっ」
「誘ったんだから考えてるでしょ?」
「……」
「え?」
「……水族館とか」
「かわいい」
「うるさい!!」
また笑われる。
でも、その笑い方が優しくて、勇斗は結局怒れない。
仁人はスマホを取り出した。
「じゃあ今度のオフ、水族館ね」
「お、おう」
「あと、その後ご飯」
「おう」
「……で」
仁人が少し視線を逸らす。
珍しく歯切れが悪い。
「もし遅くなったら、うち泊まる?」
勇斗の思考が止まった。
「…………は?」
「いや、無理なら全然いいけど」
「泊まるって」
「そのままの意味」
「……」
「勇斗?」
心臓がうるさい。
付き合って一ヶ月。
キスはした。
でも、お泊まりは初めてだ。
勇斗は口を開いたり閉じたりを繰り返す。
仁人が困ったように笑った。
「そんな嫌そうな顔しなくても」
「違う違う違う!!」
「じゃあ何」
「……緊張してる」
「俺もしてるよ」
その言葉に、勇斗はゆっくり顔を上げた。
仁人も少し赤くなっている。
「……仁人でも緊張すんの?」
「するに決まってるだろ」
「なんか余裕ありそうなのに」
「勇斗相手だとない」
その一言で、また心拍数が跳ね上がる。
「……ずる」
「何が」
「仁人、ずるい」
「知らないよ」
仁人は立ち上がると、勇斗に手を差し出した。
「帰ろ」
勇斗はその手を見つめる。
付き合って一ヶ月経っても、こういう瞬間はいまだに慣れない。
そっと手を重ねると、仁人が少しだけ指を絡めた。
「っ……」
「また赤くなった」
「うるさいって」
「かわいい」
「だからやめろって!」
二人の笑い声が、誰もいなくなったスタジオに響く。
でも。
勇斗はまだ知らなかった。
初デートの日、自分がもっととんでもなく振り回されることを。
𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹
コメント
2件

小悪魔💛さんの破壊力やばすぎる
藍月。先生、第1話読了したよ〜!!🌸 もうね、勇斗の「デート……しない?」からの仁人の「したい」の流れが尊すぎて叫んだ😭💕 初々しすぎるし、仁人の「勇斗との予定なら空ける」ってサラッと言うとこ破壊力エグいし、、! お泊まり提案も仁人からなのズルすぎるでしょ!!😤✨ 続きが気になりすぎるので早く次ください!!(土下座)